日本国転生

北乃大空

文字の大きさ
上 下
43 / 94

40話 日英交渉 その6

しおりを挟む

 三木が昨日、日本側に連絡した品物等を満載したC-2 2機、空中給油機KC-767 1機、政府専用機B-777 1機、対潜哨戒機P-3C 1機、貨物機C-130H 1機、これらの編隊を護衛するF-2 2機がヒースロー空港の滑走路に現地時間午前8時頃に到着した。

 その後、C-2 2機から次々と工業製品等が降ろされ、その品々は格納庫内に搬入されて行った。
 三木達は荷物の状況を確認するため、玲美と共に蘭子に瞬間移動で格納庫に連れて来てもらっていた。


 バッキンガム宮殿を出発した王女殿下一行が、ヒースロー空港に到着したのは午前9時丁度であり、チャールズ首相の要請により軍関係者が先に格納庫前に到着しており、王女殿下一行を迎えていた。

 馬車を降りた王女は、滑走路の脇にある格納庫内部に入り、その中に所狭しと置かれた日本の工業製品の数々を見るなり驚愕し、王女に同行していたチャールズ首相も同様の表情であった。


「な、何でしょうか?この宝石のような美しい輝きを放つ品々は?」

「この滑らかな鏡のような美しいモノは車なのか?」

「三木さん、少し説明をしてくれませんか?」

「ハイ、今回はメーカーの担当者も同行させております。
 各担当者から、詳細な説明が聞けると思います」

「車も凄いですが、この電化製品の数々は素晴らしく、言葉が出ませんわ」

「殿下、車や電化製品も素晴らしいですが、この小さな電子機器は物凄い性能で、アイシーナントカというモノは、ウチの潜入部隊に持たせ敵の会話を録音させることが出来そうですぞ」

「フフフ、チャールズ閣下。それは我々のところでは会議用のICレコーダーというモノですね」

「コレは胸ポケットに入る位、小さいモノだぞ」

「日本には、コレの何千分の一の小さいマイクもありますから」

「そ、そうなのか?そっちの技術提供もお願いしたいところですな」

「それよりも、閣下があれだけ欲しがっていたUボート対策の対潜哨戒機を見ないのですか?」

「お、そうだった。それがメインじゃった」


 王女一行は、車や電化製品を搬入している格納庫とは別に、もう一つの格納庫に向かった。
 その格納庫で、王女一行はP-3CやC-130Hを目の当たりにしていた。

「コチラが対潜哨戒機のP-3C、そちらが貨物機のC-130Hです」


 今日の見本展示会には、英国軍事関係者の他、英国の電器、自動車、飛行機等の各メーカー技術者、役員等が参加し、日本側の関係者も合わせると200名前後の人数になっていた。


「コレはプロペラ機だけど、レシプロエンジンなのか?
 否、違うぞ。コレのエンジンカバーを開けてくれませんか?」

 ある飛行機メーカーの技術者が、日本側技術者にエンジン内部を見せてくれるよう依頼していた。

「コレはジェットエンジンですか?だけどプロペラがあるのですね」

「このエンジンは、ターボプロップという型式のエンジンなのです」

「す、素晴らしい技術だ。これらの技術関係を色々と教えて下さい」

 技術者同士であり、さほど時間は掛からずに互いの仲が良くなっていた。


 その後、午前11時を回る頃には、格納庫内は日本側のメーカー担当者と英国側の担当者、技術者との交渉がヒートアップし、さながら何処かのモーターショーか小規模の展示会・見本市みたいな状況となっていた。


 熱気に満ちあふれている格納庫の横に小さめの格納庫があり、その格納庫内には何も無く空の状態であった。

 その空の格納庫内に三木は玲美に依頼して、ガヴリエル経由で彼女の支配下にあるメイドロイド10体を借り受け、ロイド達に椅子、テーブルを格納庫内に搬入させ、約200席の食堂席を用意していた。

 一方、後藤料理長と田中板長は、鰻料理の準備を朝から実施していた。
 鰻料理の200人分はうな重400個であり、昨夜、三木が日本に連絡していた品々の中に使い捨て木製折り、米等を依頼していたモノであった。

 これらのモノと昨日仕入れた日本産と英国産の鰻を、後藤料理長監修の元、玲美の目を通してガヴリエル支配下のメイドロイドに調理スキルデータを転送すると、ロイド達は次々とウナギの捌き、串差し、蒸し、焼きまでの全工程をこなし、200人分のうな重が完成するまでさほど時間は掛からなかった。

 頃合いを見て、後藤は次の作業に移っていた。
 この格納庫には、大人数を収容出来る空間とは別に会議室が設けられ、この室は20名程収容出来るスペースを有しており、王室及び政府関係者が昼食、食後の会談を行うには丁度良かった。

 ココで昨日、後藤達の料理作りを手伝っていた職人ロイドとメイドロイドの4体が貴賓室風のテーブル席を用意し、その後、後藤の手伝いに入っていた。

 約200名のうな重を作るため、その蒲焼きを焼いた匂いは、煙と共に外部に流れつつあり、その匂いは隣接している展示会を行っている格納庫に充分届いていた。


「うん?何だこの香しい良い匂いは?」

「お!コレはウナギの蒲焼きの匂いだ」

「グゥー!」

「ハハハ、誰の腹の虫だ?」

「誰にせよ、この匂いを嗅ぐと食欲がそそられるな」


 三木は、頃合いを見計らって格納庫にいる日英の技術者、担当者等に昼食の準備が出来たことを、格納庫奥の指揮官台に上がり、メガホンマイクを持って語り始めた。

『お集まりの皆様、隣の小格納庫で昼食を用意しております。
 メニューはうな重弁当で、1人2個当たる計算で用意しました。
 1つは、日本産ウナギ、もう一つは英国産のヨーロッパウナギで、食べ比べ出来るように2つ用意致しました。
 全員分当たりますので、順に隣の格納庫で食事を願います。』

 日英の技術者、担当者達は順に隣の格納庫に移動を始めた。


 三木は次に王女殿下の一行を探していた。
 一行は、自動車ベースのところで、一通りの車の運転席に座り車のハンドルを握り、その感触を確かめていた。

「全部の車が、右ハンドルなのが気に行ったわ」

「ハイ、英国は日本と同じく、車が左側通行ですから」

「この小さいのは私でも運転できそうだけど、後席の座り心地が良いのはこの車ね」

 王女が運転するには小さくて丁度良いと言った車は『○ッサンノー○』で、後席の座り心地が良い車は『ト○タクラ○ンマジェ○タ』ということを各自動車メーカーの担当者に感想を述べていた。

 王女が車に夢中になっていたところ、三木が王女の前に顔を出した。

「あ、三木さんを探していたのですよ。
 この日本製の車は実に素晴らしいですね。
 そういえば、先程から香ばしい匂いが漂って来ていますが、この匂いは後藤料理長が言っていた鰻料理なのでしょうか?」

「ハイ、そのとおりです。
 昼食準備が出来たので、殿下御一行をお迎えに来た次第です」

「あら?もうお昼の時間だったのね。
 あまりに車が素晴らしかったから、時間が経つのを忘れていたわ」

「それでは、コチラへ」


 王女一行は、隣の格納庫横から会議室に通じる通路があり、そこから会議室に入室し、一行は指定された席に着いた。

 席には割り箸の他、ナイフ、フォーク、スプーン等とどれを使用しても良いようにそれぞれの席にカトラリー(洋食器)が用意されていた。

 後藤料理長は、日本産ウナギとヨーロッパウナギを比べて食すために、2つずつ皿と折りを用意し、最後はうな重形式で料理を出していた。


「コレがウナギなの?」

 王女は割り箸を器用に使い、ウナギの身を小さくして口に運んでいた。


「この魚の身はフワフワとした食感で、脂がギドギドしていると思われがちだけど、全然しつこくないのね。
 まさしく至福の味だわ。今までウナギを毛嫌いして損した感じ!」

「そうですか、そんなに美味しいのですか?殿下。それでは私も一つ」


 チャールズ首相は箸を使えなかったことから、ナイフとフォークで食していたが、蒲焼きを口に入れた瞬間、今まで苦虫を噛み潰したような憮然とした顔の表情が一気に満面の笑みを湛えた喜び顔に変化していった。

「私も殿下と同様にウナギのゼリー寄せはあまり好きではなかったが、これは食の芸術そのものだ。
 昨日の日本食は、味と一緒に見た目の美しさも芸術として楽しんだが、コレは味の芸術と言っても過言ではないぞ」


「如何ですか、お味の方は?」

 一通りの作業を終了した後藤料理長が、会議室に姿を現した。

「うーん、もう最高です!後藤シェフ、ずっと英国に残りませんか?」

「うむ、君の料理を食べると自分の舌が贅沢になってしまい、他の者が作った料理を食べられなくなってしまうな」

「お褒めの言葉、殿下、閣下共に有り難うございます」

「後藤シェフ、日本産とヨーロッパウナギと食べ比べしたら、日本のウナギは脂が乗って身がフワフワして軟らかい食感で、ヨーロッパのは脂がアッサリしていて、身がコリコリしていたのです。
 どちらも非常に美味しかったのですが、食感に若干違いがあったのです」

「流石、殿下。素晴らしい舌をお持ちですね。
 今の感想は、まさしく食感の違いを明確に表現しています。
 日本のウナギは養殖物で、ヨーロッパウナギは天然物の違いなんです」

「日本のモノは、養殖物なのですか?」

「ハイ、日本人はウナギが大好きで、国内には天然物のウナギは皆無です。
 そこで養殖といっても正確には畜養ですが、シラスウナギという稚魚を捕獲して、それを養殖池で育てるわけで、身体を大きくさせるためにタップリと餌を与え、あまり運動しないので脂が乗り、ふっくらした身になります。

 それに対して、天然物ウナギは生存競争を勝ち抜くため、養殖物より運動量が多くなるため、身がコリコリして脂がアッサリとしているのです。
 料理人の私から見れば、天然物ウナギが沢山獲れる英国の環境が、或る意味羨ましいですね」

「後藤料理長、日本では養殖物と天然物の価値の差はどの位なのですか?」

「(えーと、前世界では日本産と中国産の差が2倍位だったけど、天然物の差はいくらになるかな?)」

「その違いは私から説明しましょう」

「おお、それでは三木さん、お願いします」

「日本産の養殖物と天然物ウナギの値段差は約2倍です。
 日本では昔から海産物の養殖を手掛けており、ウナギ、牡蠣、ブリ、ウニ、ホタテ等の他、最近ではマグロも養殖されつつあります。
 特に一番養殖技術が高いモノは、真珠を生産するアコヤガイですね。
 おっと、中破総理から殿下へのプレゼントを渡すのを忘れるところでした」


 三木はメイドロイドに殿下へのプレゼント品を持ってくるように伝え、それをメイド長に渡して、殿下の首にセッティングするように依頼した。

「如何でしょうか?殿下。気に入ってもらえたでしょうか?」

「こ、コレは大変素晴らしいモノで、我が国は手に入れることが不可能に近い程の国宝級のモノです。私、感動して身体の震えが止まりません」

 三木が総理から渡された真珠は、10mmタイプの最上級品であり、値段は日本円で200万円位のモノであったが、当時の欧米諸国が扱う真珠ネックレスでは、超高級品の部類で10億円以上の価値があるモノであった。

「それでは、気に入ってもらえたということですね」

「ハイ!中破総理に宜しく伝えて下さい。
 各国王室や貴族等のパーティー等には、必ずコレを付けて出席しますわ」

「(やはり、女を落とすには真珠か宝石なんだな)」

 三木は、様々な品物等による物量作戦で、外交交渉を有利に導こうと仕掛けていたが、最後に殿下のハートをワシ掴みにしたのは、総理のプレゼント品である『真珠のネックレス』であったことを改めて痛感した。


「それより、閣下。対潜哨戒機を含めた飛行機の件は如何致しますか?」

「おお、そうだった。あまりに昼食が美味いことに感動して、忘れるところであった。
 その件については、隣にいる空軍担当のスティーブから説明させよう」

「私、紹介に預かりましたスティーブで、一応空軍少将を勤めております。
 コレは実に素晴らしい飛行機ですね。
 ターボプロップでしたか、ジェットエンジンなのにプロペラが付いていて、ジェットエンジンより燃料を食わないというのが、実に素晴らしいです。

 この対潜哨戒機は、我が英国の電子技術を数段上の技術で、おそらく雲の上の最先端技術といっても過言ではなく、コレでUボートを撃沈出来るならば、願ったり叶ったりで是非欲しい機体ですね。

 次に輸送機ですが、コレは実に使い勝手が良いですね。
 陸軍の空挺部隊や補給、改造すれば爆撃機に転用出来ますね」

「そうですか、我が日本では両機共に旧型機で、更新により廃棄予定だったのです。
 対潜哨戒機のP-3Cを50機、輸送機のC-130Hを10機、無料進呈致します」

「む、無料ですか?」

「ハイ、但し積載している爆弾、ミサイル、魚雷等は、我が国の特許関係及び先端技術の塊ですので、技術提供は別の機会になりますが、とりあえず兵器は使用した分だけ我が国から購入して頂ければ結構ですから」

「兵器供与の件、有り難うございます。
 それより、対潜哨戒機の電子機器が最先端過ぎて、我が国の技術者には到底理解出来ません」

「そのあたりは、技術・運用スタッフを日本から順次派遣させるように手配を致します」

「英国空軍では、日本の対潜哨戒機と輸送機の提供を全て受けたいと思っています。
 それでは、私との話はこれにて終了と致します」


 三木は哨戒機の無償提供で、オセアニアの利権が手に入るのは実に安い買物であり、一応ひとまずの成功を確信していたが、次に王女殿下からまた難題を持ち掛けられるのであった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺の装備は拾い物

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:396

皇帝陛下の寵愛?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:12

帝国最強(最凶)の(ヤンデレ)魔導師は私の父さまです

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:2,169

王子が恥辱の果てに王妃となるまで

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:37

青天の霹靂ってこれじゃない?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:248

落ちこぼれ御曹司のおれが歴史に名を残すまで。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:4

息子は恋人 友情編

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

ノンケの俺がメス堕ち肉便器になるまで

BL / 完結 24h.ポイント:504pt お気に入り:1,581

処理中です...