日本国転生

北乃大空

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31話 新旧日本の合同軍事戦略会議 その1

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1940年3月10日

 国防総省 市ヶ谷地区 国防総省庁舎某会議室にて

 会議室内のテーブル席に着いていたのは、帝国側が米内海相、畑陸軍大臣、山元連合艦隊長官、有川外相。

 一方、国防側には中破総理兼国防大臣、遠藤幕僚総長、杉村陸軍幕僚長、山田海軍幕僚長、青田空軍幕僚長、国防総省国家戦略対策室 斉藤主務技監の他、国防装備庁陸軍担当森山技官、海軍担当水島技官、空軍担当東田技官と高田沙理江(天使サリエル)秘書官が補佐に就いた。


「さて、お集まりの皆様。今後の戦略について議論したいと思いますが、皆様から忌憚のない意見をお願い致します」

 会議の決まり文句のように、中破総理が司会役に回って会議を進行させて、斉藤主務技監に意見を求めた。

「それでは、斉藤博士。宜しくお願いします」

「皆様、お手元の資料を確認して下さい」

「カラーコード戦争計画とレインボープラン?」

「まず中身を確認して下さい。コレを立案作成したのはアメリア軍部です」

「な、何だコレは?特にこのオレンジ計画は対日戦を想定したものか?」


 真っ先に声を上げたのは畑陸相であった。次に有川外相が声を荒げてこぼすように嘆いていた。


「クソ-!我々の外交を何だと思っているのだ。この国は世界中の国々と戦争をする気なのか?」

「ふむ。コレはル連は想定していないのだな」


 米内はあのアメリアならば、この位の計画を考えても不思議は無いなと思いながらル連という単語を口に出した時、山元が口を開き始めた。


「米内、このオレンジプランは我々の計画は想定していないようで、却って好都合だな」

「いや、斉藤博士。実に良いモノを見せてもらった。
 如何にアメリアが我々を苦しめようとしているかが良く分かった」

「有川、今後のアメリアとの交渉はノラリクラリで良いぞ」

「分かりました、畑陸相」


「皆様、資料を読んだとおり、大変腹立たしい内容だったと思います。
 このカラーコード計画、レインボープランは世界中の国々を相手にしたもので、盟友である英国でさえ仮想敵国としているのです。
 その中で、オレンジ計画は対日戦を想定したものです。

 アメリアは自由民主主義に沿って建国された若い国家であると世界中の国々から認知されていますが、その建国は開拓と称して先住民族を虐殺して領土を拡大してきた血塗られた歴史を持つというより、血に飢えた戦争国家であると言えるでしょう。

 開拓で人手が足りないからと黒人奴隷を導入する等、彼等の自由民主主義は他の有色人種の人間的権利は認めない白人至上主義の上で成り立つわけです。

 アメリアの自由民主主義はあくまでアメリア国民、否、資本家のためのモノでしかないわけで、このような自由民主主義を世界中の国々に、戦争と武力で押し売りする国家の存在を決して許すわけに行きません」

「パチパチ。斉藤博士、素晴らしい演説だ」

「済みません、中破総理。私みたいな若輩者が百戦錬磨の皆様方の前で持論を披露してしまい、申し訳ございませんでした」

「いや、良い話だった。アメリアが如何に残虐性を持つ国家であることを簡単に説明してくれてありがとう。
 次に日本国が取るべき戦略手順を説明して欲しい」

「分かりました」

「まず、第1目標は、、、、、、」


 斉藤は歴々の面々を前にし、今まで培ってきた地政、戦史、戦略部門の第一人者として、持てる知識を遺憾なく発揮していた。

 第1目標は、ハワイ諸島への攻撃及び同諸島の進攻後、永久占領。
 コレにはハワイ全諸島の他に、ミッドウェー等の島々も含むこと。

 第2目標は、ハワイ諸島攻撃と同時にノモンハン方面へ進攻してモンゴルの占領及び解放、次に沿海州に進攻して占領。沿海州占領はウラジオストクからハバロフスクまで一気に北上して占領する。

 第3目標は、パナマ運河の完全破壊。

 第4目標は、カムチャツカ、シベリア方面へ進攻、占領後にカムチャツカ方面はベーリング海峡まで進攻・占領下に置く。
 シベリア方面に進攻・占領後、サハ共和国は外交工作でル連邦から日本連邦に鞍替えさせる。

 第5目標は、アラスカ本土を攻略する。それと同時にアリューシャン列島も順次占領して行く。

 第6目標は、アラスカ本土を占領後に、アラスカ空軍基地からアメリア海軍を主体とした軍事基地への空爆を実行し、アメリアの制海権を奪います。

 第7目標は、東南アジア、フィリピン、グアム、ニューギニアへ進攻、占領統治する。

 第8目標は、オーストラリア、ニュージーランドへの進攻、占領統治。

 第9目標は、アメリア本土への西海岸への進攻、占領統治。

 第10目標は、アメリア本土への2度目の空爆を実行。
 この時の空爆は、兵器製造拠点都市を重点とした空爆を実施します。


「開戦して半年間の目標は、こんなところでしょうか」

「斉藤博士。第1目標になっているハワイだが、コレは以前から我が帝国が計画している真珠湾攻撃の計画であり、海軍内でも最重要秘密案件なのだが、攻撃だけでなく、上陸して占領出来るものなのか?」

「山元長官。長官の考えでは空母と航空機の運用で敵艦隊に一撃を加えるものですよね。ところが、現在の国防軍の戦力のみで簡単にハワイは上陸占領することは可能でしょう。
 しかし、アラスカ、西海岸占領までは不可能です」

「何故だ?日本国防軍の軍事力と科学力を持ってすれば、我々の時代の兵器等には簡単に勝利出来るだろうが」

「確かに戦術的な勝利は得られます。だが、その後が続かないのです。
 つまり、戦争を継続出来る経済力や技術力があったとしても、継続的に敵の領土を占領統治するには人の力が不可欠なのです」

「そうか。占領するだけでなく、その後の統治には人の力が大切なわけか」

「そのとおりです。まして今回は転移事象で国土が重なることで、日本の人口が倍増したわけです。
 この時代のアメリア以上の人口が日本にいるわけです。
 転移前の帝国とアメリアの経済力を比較すると、アメリアは帝国の約5倍ですが、新日本が転移した時点で国内生産額を合わせると、転移前の約30倍強で、この時代のアメリアの国内総生産の約6倍強になります」

「なるほど、そんなに我が国の経済力が上がるのか」

「現時点で、アメリアの覇権を食い止めて分割統治することで、世界中の人々に富が行き渡るわけです。
 この世界のアメリアは先程説明した対日戦を想定したオレンジ計画を始め、レインボープランで世界各国を仮想敵国としているならず者国家です。
 コレを正して歴史改変することが、転移してきた新日本と帝国日本の役割ではないでしょうか」

「確か、斉藤博士の言うとおりだ。現在、アメリアは自国から産出する豊かな石油を武器にして、恫喝外交をしているのは事実だからな」

「その石油ですが、1940年時点のアメリアと2040年の日本の石油消費量は、ほぼ同量なのです。だが、その石油の無駄遣いも間もなく終了します」

「どういうことだね、斉藤博士?」

「ハイ、転移事象で国土と共に一緒に転移した我々の資源探査衛星が地球上空を回り、転移直後の地球の様子を探査した結果、地形的には前世界の地球と全く一緒なのに、地下資源の中で特に石油分布が大幅に変更していたのです」

「一体、何処が変わったのか?」

「まだ、完全な詳細なデータは得られていませんが、大まかなデータから推測するとアメリア国内の石油埋蔵量は残り2年で0になります」

「な、何だと!それじゃ今までアメリアに苦しめられて来た我々は一体何だったんだ?確かに今現在は樺太と満州から石油を採掘し始めており、以前の石油不足に悩ませられることは無くなったがな。それよりアメリア以外で何処が豊富に石油を産出するのか?」

「我が日本です。転移事象で地質が形態変化したのでしょう。
 秋田沖から新潟沖に掛け海底巨大油田が既に発見された他、北海道にも巨大油田が発見され、既に新日本の石油会社が採掘を開始しています」

「そうか、これからの日本は石油産油国になるわけか」

「だが、無駄使いはいけません。前世界ではアメリカを中心とした国々が大量に石油を消費することで、大気中のCO2が増加して地球温暖化を招き、最終戦争を引き起こして人類滅亡に繋がるわけです」

「そうですか、斉藤博士の世界では地球温暖化が始まっていたのでしたな」

「さらに説明しますと、概算では全世界の石油量は前の世界の1/100の埋蔵量しかありません」

「それでは、今後エネルギー不足でさらに争いが激化しそうだが」

「幸いにして、新日本では核融合の開発に成功しており、核融合発電も実用化され、転移以前は脱石油社会を実現しつつあったのです。
 さらにコレの小型炉も実用化されており、新日本の軍艦船や民間の大型艦船に利用され始めています」

「ほおう、新エネルギーですか?」

「ハイ、前世界では『核分裂』を利用した原子力発電をしていました」

「核分裂?核融合ではないのですか?」

「転移事象の超常的な力により、核分裂物質が無くなったのです」

「核分裂物質とは一体何でしょうか?」

「ハイ、コチラの世界では存在しないウラン系の鉱物です」

「ウランですか?」

「前世界では、このウランを利用した爆弾をアメリカが製造し、それを日本に落としたのです」

「その爆弾の威力はどの位だったのですか?」

「都市全体を壊滅させる程で、広島と長崎にそれぞれ1個ずつ落とされ、死者数は合計35万人以上でした」

「この爆弾投下が切っ掛けで、日本はアメリカに無条件降伏しました」

「クソ-!前世界でもアメリアは鬼畜野郎なのか」

「そのとおりです。前世界では100以上の戦争や紛争、内戦に参加しており、コチラの世界でもアメリア建国から現時点までの160年程の間に、国内外の戦争をした数は80数回以上で、アメリアの歴史は血塗られていて、血に飢えた国家であると言っても過言ではないでしょう」

「凄い数だな。160年の間に80回以上戦争しているということは2年に1回以上戦争している計算だな。
 昔、我が日本も争った時期があったが、国内ではなるべく民衆を巻き込まずに武将同士が率いる軍隊同士が戦うモノが主流だったがな」

「ハイ、山元長官の言うとおりで、日本では戦で民衆を虐殺することはあまり無いですが、アメリアでは平気でインディアンを敵性民族として大量虐殺したり、フィリピン占領で一般民衆を30万人以上も大虐殺しています」

「これ以上のアメリアの横暴は許されないな」

「ハイ、そのためには私が考える最終目標は、アメリアの分割統治とル連の壊滅、否、共産主義の殲滅なのです」

「アメリア以外にそんなにル連も悪い国なのか?」

「ハイ、畑陸相。アメリア以上に最悪な国家と言えると思います。
 レーニンの後を継いだスターリンは、国内の反対派を粛清と称し、200万人以上を殺害していますが、この数は現時点ではル連は隠蔽しています。
 この粛清は、国内だけに限らずル連の一員として組み込まれた周辺国家の反対派を次々と虐殺して行きます」

「我々は中国を手放したが、赤化については大丈夫なのか?」

「前世界では、中国を完全統治しようしたから泥沼に突っ込んだ草鞋になったのです。ある程度民主的な指導者が輩出されたら、その指導者に中国の統治を任せれば良いのです」

「それが『勝介石しょうかいせき』だと?」

「そうです、孫分の愛弟子で右腕的な存在で、孫分が死去した以降は後継者として国民党を率いているでしょう。
 今までの帝国陸軍は、彼の唱える革命を読み違えていたのです。
 彼の革命は日本の明治維新みたいな形にしたかったわけで、決して共産主義的な革命ではありません。
 それに勝介石と和平を阻止していたのは東条派の陸軍で、石原将軍主導による事前和平工作を潰したのです。
 その後、東条派を一掃後、石原将軍に勝介石との関係を修復して、中国との和平が実現出来たのです。

 前世界の中国も、チベットやウイグル族の国家を自国に無理矢理取り込んだため、民族紛争が発生して今も内戦が絶えない状態なのです。

 そこで勝介石には、漢民族だけの小さな中国を目指すように政治誘導するわけです。
 この中国が強大な覇権を持つと、アメリアが覇権国家の時よりも世界が不幸になり得ますので、決してこの国に覇権を持たせないよう注意しなければなりません。
 また、中国の赤化防止についても最大の問題人物は『毛拓糖もうたくとう』で、彼等の動きを常に注意しなければなりませんし、暗殺等の機会があれば毛拓糖と赤軍派全員をまとめて殲滅した方が良いでしょう」


 会議は斉藤の戦略説明について終わると、一旦休憩に入った。

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