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スラムに行く前に準備がしたいって事で、家に帰ってきましたよ~!
何をするのかと言えば……差し入れ。失礼な考えかもしれないけれど、スラムって事はまともに働けず食事も満足に出来ていない感じがするから、いきなりの食事じゃなく、おかゆ……雑炊とかいいかもね?
わたしはたっぷり卵の雑炊が好きです♪
炊き立てのご飯と薄口しょうゆ、みりんと前世の顆粒だしと水を入れ火にかけて、ごはんが汁を吸ってきたら溶き卵を流し入れる。刻みネギは器に入れて配る時に上からパラパラ~でいいでしょ!
初めて足を踏み入れたスラムは、それまでとは空気が違うような気さえする陰気陰鬱という言葉がぴったりな雰囲気の場所。
「⦅エア、絶対にビャクの背中から降りるなよ⦆」
「⦅わかった~⦆」
モフモフモフモフ
「⦅エアさん何処まで行きます?⦆」
「⦅どこまで? どこまで行こうか~?⦆」
モ~フモフモフ♡
〔⦅エアよ……モフモフしてないで、ちゃんと答えてくれ⦆〕
モフモフされっぱなしのビャクは、モフられるのには慣れたが目的地が分からなければ、エアの望みが叶わない事も分かっているし、あまり奥にエアを連れて行きたくはない。
「⦅でもね……ここよくわからないから。人が多そうなところ……かな?⦆」
それなら……と、たどり着いたのは、ほんの少し広い場所。姿はまったく見えないけど小さな気配がいくつか感じられる。
警戒させちゃったかな? まぁいい、いい匂いに気付けば出て来てくれるだろう。
周囲をキョロキョロと見回してかまどに使えそうな物を探すが何もないので、地属性魔法で簡単にかまどを作成。
インベントリからクルミのチップを作ったときの残りを出して、火属性魔法で着火。時間停止だったと気付かれないように鍋を火にかけ、焦げ付かないように混ぜる。
香りが届いたのか、物陰からわたし達の様子を伺うような気配に変わった。でもまだ焦らないよ~。いきなり自分達のテリトリーに入って来るだけじゃなく、かまどを作って鍋をかき回すなんて……普通じゃないもんね。
改めてわたし自身の行動を振り返ってみて……ちょっと変わった不審者だ、もし反対の立場なら近付くのを避けるくらいの。
「⦅ね~。今気づいたんだけど、わたしのこの行動って不審者だから警戒されたと思う⦆」
「「〔〔〔⦅………………気付いてなかった……のか?⦆〕〕〕」」
「⦅……え?⦆」
「「〔〔〔⦅……え?⦆〕〕〕」」
従魔を含め大人たちが固まる中、その足元では子供の従魔が2匹絡まり合って転がっていた。
「⦅ま、まあいい、このまま香りが広がれば誰か出てくるだろう⦆」
「⦅良くはないけど!? 気付いてたら教えて!?⦆」
知らずに不審者し続けてましたけど~!?
「いいにおい……」
「ここで何してるの? それな~に?」
お!? 効果が出はじめたか? 小さな子供たちが数人匂いに釣られて近づいて来たが、どの子も痩せていて着ている服もボロボロだ。
「これはお腹に優しい食べ物です。お父さんかお母さんはいますか?」
「いるよ~、よんでくるね~」
「くるね~」
数人の子供が走ってどこかに行った……
「アン、何をしているの?」
「あ、おか~さん! いいにおいなの~、やさしいんだって~」
「え? あの……あなた方は? ここで鍋を出して何をされているんですか?」
「突然現れた我々に警戒もあるでしょうから、まずは温かい物を食べてください。少し深めのお皿とスプーンはありますか? 他にもご家族がいらっしゃるならご一緒にどうぞ」
子供を探していて見知らぬ人と一緒にいる我が子を見つけたのだろう。
心配しながらも丁寧に問いかけてきた母親に食べ物があることを説明すると、戸惑いながらも子供にご飯を食べさせることを優先したのか、皿を取って来ると言ってどこかへ……。
その後、先に大人を呼びに戻っていた子供達が親を引っ張って来たので、何度も手間をかけさせてしまうことを申し訳ないとは思ったが、先ほどの母親に説明したように皿とスプーンを用意してもらう。
突然の事に大人たちは警戒していても、子供達は美味しそうな匂いに我慢の限界が近いようで、安心してもらうためにキレイなスプーンで鍋から一匙掬い取りちょっと冷ましてからパクリ!
ん! 味付け最高、上手に出来た~♡
「ゴクリッ」
どこからか生唾を飲み込む音が! やはり空腹なのか、それとも匂いの影響か。
家族ごとで皿を持って並んでもらいお皿に盛り付けたらねぎをパラパラ……あ、コップが欲しかったな~、キビトウ茶持ってきたのに。
"木のコップくらい配ってもいいか~"って事で、ちゃちゃっと地属性魔法で木のコップ作成したら、キビトウ茶を注いで一緒に配っていく。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
「あちゅいでしゅよ~、ゆっくり~。はい、おちゃ、ど~じょ~」
「茶色……あのこれ……」
「あ~、色は驚くだろうが、美味しいお茶だ。大丈夫だから飲んでみてくれ」
「!? とても美味しいです、ありがとうございます」
「えへへ~、よかっちゃ! どっちみょ、おかわりありましゅ、ゆっくりにぇ~」
ビャクの背中から降りてチョコチョコと(実際はポテポテだけど……)歩き回り始めたエア
ビャク達従魔は大きな姿が恐怖を与えてしまわない様にと、エアが降りてからは横座りや伏せの状態でエアの動きを見守り、2匹の子供達はエアの手伝いをしているつもりで周りをチョロチョロし、ザックとカイルは皿やコップにお代わりをよそっていた。
「あの~、この皿にもいただけますか?」
エアに声を掛けてきたのは、脚を引きずっていて歳は40代くらいで穏やかで人が良さそうな男の人。
従魔達は(もちろん子供も)気付いていたが、ザックとカイルは不意に嫌な何かを感じ周囲に意識を向けると、エアが向かっていく先に男が1人。
傍目には人当たりの良さそうな穏やかな40代……にもかかわらず、微かに違和感がぬぐえない何かを感じて急いでエアの元へ駆けつけようとするが、
「⦅大丈夫だよ分かってるから。みんなはそのままでいて。子供達が怯えちゃったら可哀想だからね⦆」
と、エアに言われてしまえばどうする事も出来ない。
それどころか
「⦅油断させたいから、他の方向見てて~⦆」
とまで言われてしまった!! 確かに強いのは知っている……だがしかし……
「はい、ど~じょ! あ……おしゃりゃ、かちてくだしゃい、もっちぇきましゅ」
足を引きずっているなら手助けをと、エアがポテポテと近づき皿を預かろうとした時……男の表情は全く変わらないが、纏う雰囲気が変わった!
スラムの住人達は食べる事に、今日突然現れた者は食事を配ることにそれぞれ集中し、従魔だろう獣たちはウトウトしたり遊んでいる2匹の仔を見守っていて、足の悪い自分の事など見ていない。
警戒する事もなく近づいて来た子供の腕を一瞬で掴み、引き寄せ口をふさいで周囲に気付かれないようにそっとこの場を離れればいい。
小さな子供のくせに上等な服を着て、マジックバッグなどという高級品まで身に着けた見た目の良い子供。
貴族かも知れないがそれがどうした? 貴族なら"返して欲しければ"と脅しても良いし、どこかに奴隷として売っても良い。どちらにしても金になる事には変わりないなら、どちらにするかはゆっくり考えよう。
『くくく。馬鹿な奴らだ、善人ぶってこんなスラムなんかに来たのが間違いだったんだ。ま、お陰で俺は稼がせてもらえるから感謝だがな!
俺の事を気にしていないだけじゃなく、害がないと思っているんだろう? それでいい、その間にこのガキは俺が貰ってやるよ』
警戒することを知らないかのように近づいて来た身なりの良い上物のガキ。考えていた通りに捕まえる事に成功し気付かれないように静かに気配を消して後退りながら、周囲に視線を走らせる……。
『よし。気付いていない、上手くいったぜ。これで大金が手に入る! あと少し、もう少し移動すれば完全に奴らの視界から……』
トントン
いきなり背後から肩を叩かれ、男は思わず固まってしまうが、すぐに気を取り直して……
「はい? なんでしょう(くそっ! ま、まだ大丈夫だ。この程度の事、切り抜けられる)」
振り返れば若い男が1人。少し離れた所にもチラホラと男の姿が見えるが無関係なのだろう。
「失礼。……小さな子供の口をふさいでいるようですが、どうかされましたか?」
「実は、この先に大きな魔物が数匹いまして……見つかる前に離れようと思ったんですが、この子はまだ幼いので危険も分からず声を出しては大変なのでね。私もこんな足ですし」
「そうですか。ですがもう手を放してあげても大丈夫なのでは? 我々がこれだけ話をしていても魔物は来ないようですよ?
かわいい子ですね娘さんですか? 何歳かな? お名前は?」
「そ、そうですね。ええ、娘でして、今……小さいですが4歳で、名前は……アンです」
「アン、そうですか、4歳で……ふふふふふ」
「「「その子は3歳ですよ?」」」
目の前の肩を叩いて声を掛けて来た男は不気味に笑い出し、周りからまで声が上がった……
「しかも冒険者ギルドでは有名人ですし」
「俺達の大事な家族に何の用だ? いつお前の娘になった?」
後ろからの声に慌てて振り返ると、食事を配っていた男二人と側で横になっていた魔物が……く、くそっ!
「よいちょっちょ! おっちゃん! わたちは、あんじゃにゃいでしゅ! しょりぇに……ちっちゃくちぇわりゅかっちゃでしゅね! しゃんしゃいでしゅよ!
あちょ! まもにょ!? わたちにょかじょくにしちゅりぇ~よ!」
しっかり捕まえていたはずなのに、何で勝手に降りて喋ってるんだ!? 手を放した覚えはないぞ!? 急いで手を伸ばし再び捕まえようとするが……おかしい……体が動かない?
「むりでしゅ。うごけましぇんよ? ようじゆうかいにょ、げんこうはんでしゅ!!」
そのまま取り押さえられ、連行される時にはさっき動けなかったのが嘘のよう……な、なんなんだ!?
〘よく覚えておくがいい、貴様は手を出してはならぬ者に手を出したのだ。この罪逃れる事は出来ぬと思え〙
いきなりの頭の中に響く声……ただ金儲けしようと思っただけなのに……こんな事になるとは……俺は……どうなるんだ?
くびれのない腰に手を当て、正直胸よりお腹のポッコリが目立つが気分としては胸を反り、フンっ! と鼻息荒く連行されていく悪者を見送るエア。
大事なカッコ可愛い従魔のビャク達をよりによって魔物だなんて! とプリプリしていると……後ろからヒンヤリとした冷たい空気。
やばい。局地的寒波かな? 風邪ひいちゃう……かも?
「さて、エアさん。いったいどういう事でこんな事になったんでしょうか? 説明……していただけますよね!?」
ひぃやぁぁぁ~!! 般若がぁ~、般若がたくさん~! こわいよ~!
何をするのかと言えば……差し入れ。失礼な考えかもしれないけれど、スラムって事はまともに働けず食事も満足に出来ていない感じがするから、いきなりの食事じゃなく、おかゆ……雑炊とかいいかもね?
わたしはたっぷり卵の雑炊が好きです♪
炊き立てのご飯と薄口しょうゆ、みりんと前世の顆粒だしと水を入れ火にかけて、ごはんが汁を吸ってきたら溶き卵を流し入れる。刻みネギは器に入れて配る時に上からパラパラ~でいいでしょ!
初めて足を踏み入れたスラムは、それまでとは空気が違うような気さえする陰気陰鬱という言葉がぴったりな雰囲気の場所。
「⦅エア、絶対にビャクの背中から降りるなよ⦆」
「⦅わかった~⦆」
モフモフモフモフ
「⦅エアさん何処まで行きます?⦆」
「⦅どこまで? どこまで行こうか~?⦆」
モ~フモフモフ♡
〔⦅エアよ……モフモフしてないで、ちゃんと答えてくれ⦆〕
モフモフされっぱなしのビャクは、モフられるのには慣れたが目的地が分からなければ、エアの望みが叶わない事も分かっているし、あまり奥にエアを連れて行きたくはない。
「⦅でもね……ここよくわからないから。人が多そうなところ……かな?⦆」
それなら……と、たどり着いたのは、ほんの少し広い場所。姿はまったく見えないけど小さな気配がいくつか感じられる。
警戒させちゃったかな? まぁいい、いい匂いに気付けば出て来てくれるだろう。
周囲をキョロキョロと見回してかまどに使えそうな物を探すが何もないので、地属性魔法で簡単にかまどを作成。
インベントリからクルミのチップを作ったときの残りを出して、火属性魔法で着火。時間停止だったと気付かれないように鍋を火にかけ、焦げ付かないように混ぜる。
香りが届いたのか、物陰からわたし達の様子を伺うような気配に変わった。でもまだ焦らないよ~。いきなり自分達のテリトリーに入って来るだけじゃなく、かまどを作って鍋をかき回すなんて……普通じゃないもんね。
改めてわたし自身の行動を振り返ってみて……ちょっと変わった不審者だ、もし反対の立場なら近付くのを避けるくらいの。
「⦅ね~。今気づいたんだけど、わたしのこの行動って不審者だから警戒されたと思う⦆」
「「〔〔〔⦅………………気付いてなかった……のか?⦆〕〕〕」」
「⦅……え?⦆」
「「〔〔〔⦅……え?⦆〕〕〕」」
従魔を含め大人たちが固まる中、その足元では子供の従魔が2匹絡まり合って転がっていた。
「⦅ま、まあいい、このまま香りが広がれば誰か出てくるだろう⦆」
「⦅良くはないけど!? 気付いてたら教えて!?⦆」
知らずに不審者し続けてましたけど~!?
「いいにおい……」
「ここで何してるの? それな~に?」
お!? 効果が出はじめたか? 小さな子供たちが数人匂いに釣られて近づいて来たが、どの子も痩せていて着ている服もボロボロだ。
「これはお腹に優しい食べ物です。お父さんかお母さんはいますか?」
「いるよ~、よんでくるね~」
「くるね~」
数人の子供が走ってどこかに行った……
「アン、何をしているの?」
「あ、おか~さん! いいにおいなの~、やさしいんだって~」
「え? あの……あなた方は? ここで鍋を出して何をされているんですか?」
「突然現れた我々に警戒もあるでしょうから、まずは温かい物を食べてください。少し深めのお皿とスプーンはありますか? 他にもご家族がいらっしゃるならご一緒にどうぞ」
子供を探していて見知らぬ人と一緒にいる我が子を見つけたのだろう。
心配しながらも丁寧に問いかけてきた母親に食べ物があることを説明すると、戸惑いながらも子供にご飯を食べさせることを優先したのか、皿を取って来ると言ってどこかへ……。
その後、先に大人を呼びに戻っていた子供達が親を引っ張って来たので、何度も手間をかけさせてしまうことを申し訳ないとは思ったが、先ほどの母親に説明したように皿とスプーンを用意してもらう。
突然の事に大人たちは警戒していても、子供達は美味しそうな匂いに我慢の限界が近いようで、安心してもらうためにキレイなスプーンで鍋から一匙掬い取りちょっと冷ましてからパクリ!
ん! 味付け最高、上手に出来た~♡
「ゴクリッ」
どこからか生唾を飲み込む音が! やはり空腹なのか、それとも匂いの影響か。
家族ごとで皿を持って並んでもらいお皿に盛り付けたらねぎをパラパラ……あ、コップが欲しかったな~、キビトウ茶持ってきたのに。
"木のコップくらい配ってもいいか~"って事で、ちゃちゃっと地属性魔法で木のコップ作成したら、キビトウ茶を注いで一緒に配っていく。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
「あちゅいでしゅよ~、ゆっくり~。はい、おちゃ、ど~じょ~」
「茶色……あのこれ……」
「あ~、色は驚くだろうが、美味しいお茶だ。大丈夫だから飲んでみてくれ」
「!? とても美味しいです、ありがとうございます」
「えへへ~、よかっちゃ! どっちみょ、おかわりありましゅ、ゆっくりにぇ~」
ビャクの背中から降りてチョコチョコと(実際はポテポテだけど……)歩き回り始めたエア
ビャク達従魔は大きな姿が恐怖を与えてしまわない様にと、エアが降りてからは横座りや伏せの状態でエアの動きを見守り、2匹の子供達はエアの手伝いをしているつもりで周りをチョロチョロし、ザックとカイルは皿やコップにお代わりをよそっていた。
「あの~、この皿にもいただけますか?」
エアに声を掛けてきたのは、脚を引きずっていて歳は40代くらいで穏やかで人が良さそうな男の人。
従魔達は(もちろん子供も)気付いていたが、ザックとカイルは不意に嫌な何かを感じ周囲に意識を向けると、エアが向かっていく先に男が1人。
傍目には人当たりの良さそうな穏やかな40代……にもかかわらず、微かに違和感がぬぐえない何かを感じて急いでエアの元へ駆けつけようとするが、
「⦅大丈夫だよ分かってるから。みんなはそのままでいて。子供達が怯えちゃったら可哀想だからね⦆」
と、エアに言われてしまえばどうする事も出来ない。
それどころか
「⦅油断させたいから、他の方向見てて~⦆」
とまで言われてしまった!! 確かに強いのは知っている……だがしかし……
「はい、ど~じょ! あ……おしゃりゃ、かちてくだしゃい、もっちぇきましゅ」
足を引きずっているなら手助けをと、エアがポテポテと近づき皿を預かろうとした時……男の表情は全く変わらないが、纏う雰囲気が変わった!
スラムの住人達は食べる事に、今日突然現れた者は食事を配ることにそれぞれ集中し、従魔だろう獣たちはウトウトしたり遊んでいる2匹の仔を見守っていて、足の悪い自分の事など見ていない。
警戒する事もなく近づいて来た子供の腕を一瞬で掴み、引き寄せ口をふさいで周囲に気付かれないようにそっとこの場を離れればいい。
小さな子供のくせに上等な服を着て、マジックバッグなどという高級品まで身に着けた見た目の良い子供。
貴族かも知れないがそれがどうした? 貴族なら"返して欲しければ"と脅しても良いし、どこかに奴隷として売っても良い。どちらにしても金になる事には変わりないなら、どちらにするかはゆっくり考えよう。
『くくく。馬鹿な奴らだ、善人ぶってこんなスラムなんかに来たのが間違いだったんだ。ま、お陰で俺は稼がせてもらえるから感謝だがな!
俺の事を気にしていないだけじゃなく、害がないと思っているんだろう? それでいい、その間にこのガキは俺が貰ってやるよ』
警戒することを知らないかのように近づいて来た身なりの良い上物のガキ。考えていた通りに捕まえる事に成功し気付かれないように静かに気配を消して後退りながら、周囲に視線を走らせる……。
『よし。気付いていない、上手くいったぜ。これで大金が手に入る! あと少し、もう少し移動すれば完全に奴らの視界から……』
トントン
いきなり背後から肩を叩かれ、男は思わず固まってしまうが、すぐに気を取り直して……
「はい? なんでしょう(くそっ! ま、まだ大丈夫だ。この程度の事、切り抜けられる)」
振り返れば若い男が1人。少し離れた所にもチラホラと男の姿が見えるが無関係なのだろう。
「失礼。……小さな子供の口をふさいでいるようですが、どうかされましたか?」
「実は、この先に大きな魔物が数匹いまして……見つかる前に離れようと思ったんですが、この子はまだ幼いので危険も分からず声を出しては大変なのでね。私もこんな足ですし」
「そうですか。ですがもう手を放してあげても大丈夫なのでは? 我々がこれだけ話をしていても魔物は来ないようですよ?
かわいい子ですね娘さんですか? 何歳かな? お名前は?」
「そ、そうですね。ええ、娘でして、今……小さいですが4歳で、名前は……アンです」
「アン、そうですか、4歳で……ふふふふふ」
「「「その子は3歳ですよ?」」」
目の前の肩を叩いて声を掛けて来た男は不気味に笑い出し、周りからまで声が上がった……
「しかも冒険者ギルドでは有名人ですし」
「俺達の大事な家族に何の用だ? いつお前の娘になった?」
後ろからの声に慌てて振り返ると、食事を配っていた男二人と側で横になっていた魔物が……く、くそっ!
「よいちょっちょ! おっちゃん! わたちは、あんじゃにゃいでしゅ! しょりぇに……ちっちゃくちぇわりゅかっちゃでしゅね! しゃんしゃいでしゅよ!
あちょ! まもにょ!? わたちにょかじょくにしちゅりぇ~よ!」
しっかり捕まえていたはずなのに、何で勝手に降りて喋ってるんだ!? 手を放した覚えはないぞ!? 急いで手を伸ばし再び捕まえようとするが……おかしい……体が動かない?
「むりでしゅ。うごけましぇんよ? ようじゆうかいにょ、げんこうはんでしゅ!!」
そのまま取り押さえられ、連行される時にはさっき動けなかったのが嘘のよう……な、なんなんだ!?
〘よく覚えておくがいい、貴様は手を出してはならぬ者に手を出したのだ。この罪逃れる事は出来ぬと思え〙
いきなりの頭の中に響く声……ただ金儲けしようと思っただけなのに……こんな事になるとは……俺は……どうなるんだ?
くびれのない腰に手を当て、正直胸よりお腹のポッコリが目立つが気分としては胸を反り、フンっ! と鼻息荒く連行されていく悪者を見送るエア。
大事なカッコ可愛い従魔のビャク達をよりによって魔物だなんて! とプリプリしていると……後ろからヒンヤリとした冷たい空気。
やばい。局地的寒波かな? 風邪ひいちゃう……かも?
「さて、エアさん。いったいどういう事でこんな事になったんでしょうか? 説明……していただけますよね!?」
ひぃやぁぁぁ~!! 般若がぁ~、般若がたくさん~! こわいよ~!
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