まさか転生? 

花菱

文字の大きさ
上 下
78 / 111

78

しおりを挟む
「すまん待たせたな。今王都に行く準備をしていてな、それときちんと報告しておこう。孤児院の件だが、運営費と修繕費の横領をしていた者は明日すべての証拠が揃い次第捕らえることになっている。
 それで今日はどうした?」


 エアと別れ急いで領主邸へ来たビクターギルマスに孤児院の件でいい報告がもたらされた。

「それはいい知らせですね。(来てよかった。王都という事は神獣様方の報告でしょうかね?)
 実は今日伺いましたのは……こちら、ご覧ください。
 これはレンガです、このまま使う事も出来ますが、大きさや厚さを変える事も出来まして、何よりお伝えしたい事は、消臭と浄化が付与されているという事です。
 それからこちらトイレなんですが、これにも消臭と浄化が。この2種類は街が汚れる原因の根本から無くしていくための商品です。
 そして……実際に見ていただきたいので、井戸に案内していただけますでしょうか? それと公表していない物ですので目隠しもお願いします」


 目の前に出す物の一つ一つに驚き質問をしようとしてくる領主を黙らせ………………

 領主邸の執事に案内されてきた裏庭の井戸、魔法と魔道具を併用して周囲から見えないようにしてもらう……(さすが領主邸いい人材と道具を持っていますね)


「これは手押しポンプと言います。このように井戸に設置しましたら……このように……安全に、またそれほど強い力が必要なく水を汲むことが出来ます……が、領主様は水汲みの苦労など経験が無いでしょうから、一度試された方が良いでしょうね」

 そう言うとビクターギルマスはサッサと先程設置したばかりの手押しポンプを外してしまう。だが言われたことは本当にその通りで……

「ぐっ! なんて重いんだ……水が入るだけでこんなにも!」

 街では女子供が毎日している井戸からの水汲みだが、初めて経験する者からしたらロープが手に食い込みとても大変な作業だと初めて認識できる。

「おわかりになりましたか? 街でもこの領主邸でも、恐らく女子供の仕事でしょう。また子供であれば身体が軽い分水の重みで落ちる危険と隣合わせの危険な仕事です。
 ですが先程の手押しポンプなら……もう一度どうぞ?」

 再びサッサと設置して

「お、おお!? なんだ、どうなっているんだ? ほとんど力が要らないぞ!?」


 この手押しポンプ本来なら呼び水が必要なんだけど、レンガの時みたいに粉にした魔石を混ぜ込むことで、使用者でも感じない程の極少量の魔力を自動で使用して呼び水を作ってくれるようにしたの。
 だから使用者はただハンドルを動かしているだけに感じるくらい軽く水を汲むことが出来るという優れもの。


 せっかく汲んだ水なので利用してもらうのだが、代わりに利用後の汚れた水と空のタライをもらい、次はレンガとタイル、そしてトイレの実験をしてみる事に。


「ビクター、これはどのように使うんだ!? 早く教えてくれ!」

 領主としての威厳など無くし、只々、目新しく素晴らしい物に夢中な様子を隠すことなく興奮している一人の男。

「お待ちください、すぐ準備しますので……(全く領主らしさはどこに行ったんです? 子供ですか!?)まずはレンガからにしましょうか?
 このレンガを並べ路を作るそうです、道の終わりにはタライを置きますね……縁も作りましょうか。ここに汚れた水を流すと……」

「なんと!? キレイになったぞ? レンガと言ったか、この路の上を通すだけで……」

 本当に驚きです。確かに説明で消臭と浄化をすると聞いていましたが、これほどの違いを見てしまうと言葉を失いますね。


「次はタイルなんですが、これはレンガを薄く切った物との事なので、効果は先程と同じだと思います。
 ですので、トイレを試してみましょう。
 これはその場に置くだけで良いそうです。そしてこの蓋を上げて使用……今回は汚れた水を入れます、使用後は蓋を閉める。そうすれば……これまたすごいですね」

「………………」

 ちょっと領主様!? 無言は無いでしょう……わかりますけど。領主らしさが!! 威厳が!!


「これらはある方が商品登録の申請をされたものです。まず手押しポンプとタイルは共用水場と井戸に設置していただきたい。
 そしてレンガですが、以前お知らせした軽犯罪者へのバツ掃除で、ほんの少し臭い問題は抑えられるでしょうが、根本の改善には至りませんので、これを下水路に敷く事を提案されました。
 "下水や環境の悪さは人の健康を損ねる"と、とても気にしておられまして、もし共用水場と井戸、下水路への設置をしていただけるのなら、3つの商品を格安で販売して下さるそうです」

 実際に商品を使ってみると、なぜ今までこういった道具が無かったのかと不思議なほど。冒険者たちの遠征道具は勿論、生活の中にも魔道具は多くあるのに……しかも付与されている魔法は消臭と浄化……消臭は恥ずかしながら思い付かなかったが、浄化なら考えた事はある。でも、定期的に浄化を掛けるにも時間と人数が必要で実行できなかったのだ。

「このような理想が……現実に魔道具として可能になるとは……。
 ビクター! 費用はいくらかかっても構わん、街中に設置するのに必要な人員や数量等を執事のセイバスと相談してくれ。
 セイバス! ビクター達の手助けを。これから街が変わるぞ!」

「かしこまりました」

 領主よりの指示を受けた執事のセイバスは、一度礼をして部屋を出て行った。おそらく他の使用人にも指示を出すのだろう。

「ところで、ビクターよ。これらを考え出した方にお会いして礼を「結構です!」……ええぇぇ……」

 作ったのはエアさんなのに教えるはずがないでしょう。まったく油断できません。






 

 私はここザーリアの街の領主、アドルフ・フォン・グスマン・レザリア。

 ここ数日色々な事が立て続けに起こり、ちょっとお疲れ気味……でもそれも仕方がないと思わないか!?


 確かにザーリアの街は強い魔物が多く生息する黒の森に面している辺境と呼ばれる場所で、過去何度も魔物の氾濫で街が壊滅に近い状態になることも。
 防壁を築き、冒険者や警備隊などが日々魔物を適度に間引く事で、氾濫の回数が目に見えて減ったが常に緊張と隣り合わせだ。


 そんな中、神獣様が2体とその番と仔の出現に、その全てが同じ主人を仰ぐと聞かされて……調べれば調べるほど驚き疲れる事ばかり。

 さらには気掛かりだった街を挙げての孤児の救済が、ずっと数名の馬鹿貴族が行っていた不正の犠牲に苦しめられていた事をいまさらではあるが知ることとなった。


 自身の力のなさに打ちのめされながらも、挽回するべく証拠集めを行い馬鹿共を捕らえる準備を行っている。それに並行して神獣様方について、国王陛下へ報告するための準備にも余念がなかったところに新たな知らせ。

 

 正直"今度は何だ!?"と戦々恐々としていたのは内緒だ!! 領主だからな、威厳が必要なのだ!


 だが今日とても素晴らしい魔道具の誕生が知らされた。

 それは手押しポンプ・タイル・レンガ・トイレの4種類……タイルはレンガを薄く切った物らしいので実質3種類らしいが、これがとんでもなく素晴らしい物だった!


 この街はそれほど荒れて汚いわけではないが、どうしても汚水・汚物は存在し風向きによって異臭がする。それはどうしようもない事だと思っていた……なのにそれが完全に覆されたのだ! 


 レンガとタイルはただ地面に敷き詰めるだけ、それも井戸周辺など汚水の流し口付近にはキッチリと敷き、それ以外の下水路には等間隔で設置をすれば見違えるほどきれいな水に!

 手押しポンプについては、これまでの長い時間で水汲みをしたことが無かったが、商業ギルドのビクターギルマスに言われるがまま今までの方法と手押しポンプでの水汲みを試してみてその違いに驚き、また大変な力仕事を子供も行っている事を知り恥ずかしくなった……。

 これらは街の暮らす者のためならばと格安提供の提案をもらったので、ありがたく甘える事にした。


 最後の1つ、トイレだ! 今まで見た事もない素晴らしい物! 流石にタイルなどのように格安の提案は無かったが、これならいくら高額でも貴族なら間違いなく欲しがるだろう。事実わたしは領主邸内すべてのトイレを変更する指示を出したからな!



 ビクターに製作者に礼を言いたいといったら即答……というより被せて拒否されてしまったが……これって不敬じゃないか!?



 今回の魔道具について気になることがある。それは製作者だ!

 もしかしてと思い浮かぶ存在はあるが、今日までに届いた情報から見て、いやそんなまさか……と思う気持ちもあるが今までこんな魔道具は無かった。
 実際目の前に並べられると、なぜこの方法を考えつかなかったのかと逆に疑問がわき出てくるほどで、商品登録はされたらしいが、作り方の公表はされたかどうかわからない。

 もしも製作者が想像した通りなら、今後どう動くべきか……

 街を良くするための素晴らしい物を開発してもらったが、人の出入りがある以上今回の魔道具の話は必ず他の街に話は伝わるだろう。

 馬鹿でなくとも王都にもこの魔道具が普及することを希望する貴族が現れる。私は既にその一人だが、登録された物は許可を得ている者以外が生産することは禁じられている……そうなると間違いなく馬鹿が湧き出て、製作者の囲い込みや利権を得るための強引な手段を取る事が予想出来る以上、ビクターに拒否された挨拶は無理でも対策の相談が必要だ。

 
 今後大量生産が必要になるのが間違いないので、製作者の今後についての考えも聞きたいところだが恐らくビクターもブルックも警戒するだろうし……。



 大体いくら私が貴族だからって……ちょっとくらい味方をして口添えしてくれても良いんじゃないか!? 別に権力を振りかざすつもりも何もないんだぞ!?
 
 間違いなくビクターもブルックも……いや! 2人だけじゃないサブマスのハリスとハンスもだ、あの4人は絶対に神獣様方にもその主の幼女にも会っているはずなんだ、それぞれギルマスとサブマスだからな!

 貴族が嫌いとの事だが今後の事を考えると、やはり一度でいいから挨拶だけでもさせて欲しいんだよな~。

 それに冒険者ギルドで見かけた幼女はとても可愛かったからな、何か欲しがるものを何でもいいから買ってあげたい!!


 我が家は息子ばかりだし……絶対妻も喜んで可愛がるだろうな~。

 孤児院の問題が解決したら4人になんとかお願いしてみるかな……でもあの4人は私を"領主様"と口では言いつつ、全く敬うって事を知らないからな。

 往々にして不敬な事ばかりだ……貴族……しかも領主なんだけどな……領土内では一番偉いんだぞ!?
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...