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桶狭間の戦いの「俗説」と、なろう系小説の異世界モノの図書館の関係
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2000年代に急速に普及したネット小説投稿サイトで、人気があるのは「異世界」ものの小説でしょう。
儂も、小説家になろうさんや角川書店さんやアルファポリスさんには、たくさんの作品を読ませていただいて、楽しませていただいています。
数多くの【異世界もの小説】の冒頭の数話を読み終わった後、毎回、同じ疑問が浮かんでくるのです。
どの作品も、時代設定はヨーロッパ中世を基準にした「剣と魔法の世界」はずなのに、どの作品にもふつうに図書館が建っていて、主人公だけでなく庶民が普通に利用できるように書いてあるのは、「あり得ないはずなんだけど」と、つい考えてしまうのです。
ですが、「なろう系だから、何でもありかな」「つっこむのは野暮だし」と考えて、あきらめて作品を楽しんでいます。
この記事を読まれている方の中には、「図書館は庶民のためのもので、「あり得ない」といってるあんたの頭の中が、ありえないお花畑状態じゃないのか」とつっこみを入れた方もいるでしょう。
図書館の起源は、紀元前にさかのぼることができるので、図書館が「剣と魔法の世界」にあっても不思議ではありません。
しかし、利用者は王侯貴族や富裕な商人など上流階級に属する人たちがほとんどで、字が読めない庶民が図書館を利用するなどあり得ないのです。
近代になっても、ヨーロッパ庶民の識字率は、十数パーセント程度でしたから、中世はもっと低かったはずです。
また、図書館の蔵書はその国や領主にとって重要な資料も含まれているのですから、情報漏洩や貴重な本の盗難をさけるため、利用者の身分照会は厳格だったはずです。
異世界からきた正体不明の主人公が、簡単に利用できるものではありません。
図書館に簡単に入れるのは、国王の命令で魔法使いが召喚した勇者様ぐらいでしょう。
(国王の身分保障付きだから)
このように考えていくと、「あり得ない」「なぜなんだ」という疑問が、次々とでてきて止まらなくなります。
(冒険者ギルドで登録する際に、申請用紙に自分の名前を書かせる作品が多すぎる。識字率100%の設定か?。それとも、読み書きができないと冒険者登録できない設定か?)
ファンタジー小説における図書館の設定を考えると、現代日本の公共図書館をイメージして描写されていることが推測できます。もちろん、著者の方も気がついていながら、あえてそのまま書いているのでしょう。
では、なぜ、現代日本の公共図書館とほぼ同じものを、ファンタジー小説に登場させるのか。
その理由は、読者の「常識」を前提にして、作品を執筆しているからです。
現代日本に生きる読者にとって図書館は、「日本国内に滞在しているものならば、誰でも利用できる施設」という、「常識」があるからです。
(外国からの旅行者、ホームレスの方も利用できます)
読者が持つ「常識」を前提に作品を書いた方が、無駄な説明を減らすことができ、その分共感できる作品世界を書き込めるからだと思います。
(識字率100%も、同じ理由だと予想されます)
このように、書籍や文献、果ては物事の説明において、理解を促進するために受け手の「常識」に配慮する必要があるのです。
タイトルにある「桶狭間合戦の俗説」も、同様な理由で成立したものなのです。
昭和の時代、桶狭間合戦といえば、
「織田信長率いる三千の兵が今川方に見つからないように迂回して、太子が根という尾根に登り、桶狭間という窪地で昼食休憩中の今川義元本陣に奇襲をかけ、義元を討ち取った」戦い、
というのが「常識」でした。
しかし、この「迂回奇襲作戦」説が確立したのは、近代に入った明治時代だったのです。
もちろん、江戸時代初期に成立した「甫庵信長記」などの読本にも奇襲作戦らしき記述はあったものの、あいまいな書き方でした。
織田軍の迂回ルートを確立させたのは、当時の日本陸軍参謀本部でした。
当時の陸軍は、プロイセン(ドイツの母体)陸軍のメッケルを教官として招聘し、最新の軍事学を学んでいました。その講義の内、戦史研究で「寡兵を持って大敵を破った事例」として桶狭間合戦が選ばれ、その際に地図を見ながら、織田信長の立場に立って作戦が検討され、「迂回奇襲ルート」が作成されたのです。
なぜ、ありもしない迂回奇襲作戦が成立したのか。
それは、受講する学生たちの間に、読本等で「織田信長が今川義元に奇襲をかけた」という「常識」と、メッケルをはじめとする教官側にも「寡兵を持って大敵に勝つため、奇襲が効果的である」という「常識」があったからです。
それは、受講生の「常識」を前提に説明することで、「迂回奇襲作戦」の立案方法や効果を理解しやすくする効果があったのです。
(今川義元の油断も反面教師として利用されました)
それから、この作戦は戦術の事例として教え続けられ、一般にも知られるようになり、いつの間にか旧陸軍参謀本部作成案が「常識」となり、戦後も数十年にわたって信じられていました。
迂回奇襲作戦が否定されるのは、1980年代に藤本正行氏が提唱してから、10年以上かかりました。
ファンタジー小説の図書館と桶狭間合戦の俗説は、我々が知っている「常識」が事実や真実を隠してしまうという、事例の一つでしょうね。
儂も、小説家になろうさんや角川書店さんやアルファポリスさんには、たくさんの作品を読ませていただいて、楽しませていただいています。
数多くの【異世界もの小説】の冒頭の数話を読み終わった後、毎回、同じ疑問が浮かんでくるのです。
どの作品も、時代設定はヨーロッパ中世を基準にした「剣と魔法の世界」はずなのに、どの作品にもふつうに図書館が建っていて、主人公だけでなく庶民が普通に利用できるように書いてあるのは、「あり得ないはずなんだけど」と、つい考えてしまうのです。
ですが、「なろう系だから、何でもありかな」「つっこむのは野暮だし」と考えて、あきらめて作品を楽しんでいます。
この記事を読まれている方の中には、「図書館は庶民のためのもので、「あり得ない」といってるあんたの頭の中が、ありえないお花畑状態じゃないのか」とつっこみを入れた方もいるでしょう。
図書館の起源は、紀元前にさかのぼることができるので、図書館が「剣と魔法の世界」にあっても不思議ではありません。
しかし、利用者は王侯貴族や富裕な商人など上流階級に属する人たちがほとんどで、字が読めない庶民が図書館を利用するなどあり得ないのです。
近代になっても、ヨーロッパ庶民の識字率は、十数パーセント程度でしたから、中世はもっと低かったはずです。
また、図書館の蔵書はその国や領主にとって重要な資料も含まれているのですから、情報漏洩や貴重な本の盗難をさけるため、利用者の身分照会は厳格だったはずです。
異世界からきた正体不明の主人公が、簡単に利用できるものではありません。
図書館に簡単に入れるのは、国王の命令で魔法使いが召喚した勇者様ぐらいでしょう。
(国王の身分保障付きだから)
このように考えていくと、「あり得ない」「なぜなんだ」という疑問が、次々とでてきて止まらなくなります。
(冒険者ギルドで登録する際に、申請用紙に自分の名前を書かせる作品が多すぎる。識字率100%の設定か?。それとも、読み書きができないと冒険者登録できない設定か?)
ファンタジー小説における図書館の設定を考えると、現代日本の公共図書館をイメージして描写されていることが推測できます。もちろん、著者の方も気がついていながら、あえてそのまま書いているのでしょう。
では、なぜ、現代日本の公共図書館とほぼ同じものを、ファンタジー小説に登場させるのか。
その理由は、読者の「常識」を前提にして、作品を執筆しているからです。
現代日本に生きる読者にとって図書館は、「日本国内に滞在しているものならば、誰でも利用できる施設」という、「常識」があるからです。
(外国からの旅行者、ホームレスの方も利用できます)
読者が持つ「常識」を前提に作品を書いた方が、無駄な説明を減らすことができ、その分共感できる作品世界を書き込めるからだと思います。
(識字率100%も、同じ理由だと予想されます)
このように、書籍や文献、果ては物事の説明において、理解を促進するために受け手の「常識」に配慮する必要があるのです。
タイトルにある「桶狭間合戦の俗説」も、同様な理由で成立したものなのです。
昭和の時代、桶狭間合戦といえば、
「織田信長率いる三千の兵が今川方に見つからないように迂回して、太子が根という尾根に登り、桶狭間という窪地で昼食休憩中の今川義元本陣に奇襲をかけ、義元を討ち取った」戦い、
というのが「常識」でした。
しかし、この「迂回奇襲作戦」説が確立したのは、近代に入った明治時代だったのです。
もちろん、江戸時代初期に成立した「甫庵信長記」などの読本にも奇襲作戦らしき記述はあったものの、あいまいな書き方でした。
織田軍の迂回ルートを確立させたのは、当時の日本陸軍参謀本部でした。
当時の陸軍は、プロイセン(ドイツの母体)陸軍のメッケルを教官として招聘し、最新の軍事学を学んでいました。その講義の内、戦史研究で「寡兵を持って大敵を破った事例」として桶狭間合戦が選ばれ、その際に地図を見ながら、織田信長の立場に立って作戦が検討され、「迂回奇襲ルート」が作成されたのです。
なぜ、ありもしない迂回奇襲作戦が成立したのか。
それは、受講する学生たちの間に、読本等で「織田信長が今川義元に奇襲をかけた」という「常識」と、メッケルをはじめとする教官側にも「寡兵を持って大敵に勝つため、奇襲が効果的である」という「常識」があったからです。
それは、受講生の「常識」を前提に説明することで、「迂回奇襲作戦」の立案方法や効果を理解しやすくする効果があったのです。
(今川義元の油断も反面教師として利用されました)
それから、この作戦は戦術の事例として教え続けられ、一般にも知られるようになり、いつの間にか旧陸軍参謀本部作成案が「常識」となり、戦後も数十年にわたって信じられていました。
迂回奇襲作戦が否定されるのは、1980年代に藤本正行氏が提唱してから、10年以上かかりました。
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