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第四章
4-11 アスレチック
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蒼空が持ってきたどこかのお土産の饅頭を食べていたら、少しずつ気持ちが落ち着いてきた。
しっとりとした薄皮に包まれた白あんは、ほくほくとした上品な甘みを持っている。舌の上でじわりと溶けて、口の中の水分を全部奪ってしまう。
「これ旨いけど喉乾くな。蒼空、お茶取ってきてよ」
「自分の家なんだから自分で行けよ。……や、その顔じゃ無理か」
蒼空は呆れたようにそう言うと立ち上がる。
「あ、待って、蒼空」
「何?」
「ついでに晩飯いらないって言ってきて」
振り返った蒼空は「お前な」と怒ったような声を出すが、斜め上を見て何かを考えた後、頭を掻いていた手を俺の方に差し出した。
「じゃ、出掛けよ」
「……え、何で?無理」
「でも、俺がそんな伝言したらおばさん心配するじゃん。だから2人で飯食いに行くことにしようぜ」
そんなこと言っても、泣き腫らした顔ではどこにも行けない。
「大丈夫。誰にも会わなくて済むところに行こう」
俺の心の内を察した蒼空が手を取る。その熱に触れた途端、優しさに掻き乱された心が再び涙を誘ってくる。
「うっ……そらぁ、お前何で……うぅ……」
「えっ?あぁっ、もう、泣くなよ。おいで、ほら。これが落ち着いたらでいいから、な?」
蒼空はベッドに腰かけている俺の隣に座り、困ったような表情で頭を撫でてくれた。
◇◇◇
泣き止んだ俺が蒼空に連れてこられたのはいつもの近所の公園だった。
「ほんとに誰にも会わなくて済むのかよ」
「たぶん……な。もう日も暮れてるし大丈夫」
木製のアスレチックの一番上、大人の男2人で座るには狭い空間で、蒼空が自動販売機で買ってくれたペットボトルのお茶を開ける。
「生き返る。マジで干からびるかと思った」
「あんだけ泣けばな。あ、俺にも一口」
手渡したペットボトルに蒼空が口をつけるのを見て、何となく恥ずかしくなって視線を逸らした。間接キスを意識するなんて小学生かよ。
「なぁ、蒼空。何があったか聞かないの?」
「聞こうと思ってた」
顔を隠すために被っていたキャップを脱いで、それを弄ぶ。この帽子も壱星に買ってもらったものだ。
「何だろ……。何かすごいことが起きて、嫌な予言をされて、逆にフラれた」
「……いや、わかんねぇよ。予言?」
蒼空はクスクスと笑いながらも、慰めるように俺の肩を抱き寄せる。
「壱星の家に行ったら、重森がいたんだ。……あの2人は、蒼空の言う通りずっと前から繋がってたらしい」
俺がそう言った途端、蒼空は笑うのをやめて、身構えるようにぎゅっと手に力を込めた。
「なぁ、お前この前、あの2人の関係が普通じゃないって言ってたよな。蒼空は知ってたの?このキャップを買った金が、どこから来たのか」
重森は、壱星が俺に使った金は汚い金だと言っていた。
「キャップ……?金?お前が買ったんじゃないの、それ?」
「壱星に貰った」
「あぁ……え、いや、どういう意味?」
体を使って得た汚い金だと。つまり、あいつは……。
「重森に何させられてたか、聞いたのかなって思って。でも、知らないか。ごめん――」
「いや、ごめん。何となくわかってたかも」
蒼空はそう言うと俺の肩から腕を離した。
「真宙さん、いや、重森はあの時、壱星ってヤツに、今から人に会って金稼いで来いって言ってたから。ごめん、そこまで言わなくてもいいと思って……」
蒼空の声は少し震えている。怒りや苦しみが混じったような低い声だった。
「そっか……」
「ごめん、智暁。ってか、あいつらお前にそんな話したの?何でわざわざそんな傷つけるようなこと……」
その蒼空の姿を見て、俺は壱星に言われたことを再び思い出していた。
蒼空はすごくいい奴だ。誠実で、真面目で、こんな俺のために怒ってくれる。
だからきっと、壱星の言う通りになる。このまま一緒にいれば、俺はきっと、蒼空のことを……。
「いや、いいんだよ、それは。俺も前から何となくわかってたし。俺だってあいつに相当な事やってたから」
今、ここで軽蔑された方がマシなのかな。全てを打ち明けてしまおうか。でも、蒼空に嫌われるのは怖い。
自嘲的な感情と、自分を守る気持ちがせめぎ合う。
「智暁……」
どっちにしろ蒼空を傷つけるなら、今の方が傷は浅い。
「蒼空、あのな、俺……」
でも、何から話せばいいんだろう。俺は蒼空のことが好きで、そのせいで壱星に八つ当たりして、重森をネタにセックスを――。
「智暁、お前…………はっ、はは、なんて顔してんだよ。あははっ、ダセェ」
「……え?」
蒼空は驚いたように目を見開いたが、次の瞬間にはゲラゲラと笑い出し、俺の背中を強い力で何度も叩いた。
しっとりとした薄皮に包まれた白あんは、ほくほくとした上品な甘みを持っている。舌の上でじわりと溶けて、口の中の水分を全部奪ってしまう。
「これ旨いけど喉乾くな。蒼空、お茶取ってきてよ」
「自分の家なんだから自分で行けよ。……や、その顔じゃ無理か」
蒼空は呆れたようにそう言うと立ち上がる。
「あ、待って、蒼空」
「何?」
「ついでに晩飯いらないって言ってきて」
振り返った蒼空は「お前な」と怒ったような声を出すが、斜め上を見て何かを考えた後、頭を掻いていた手を俺の方に差し出した。
「じゃ、出掛けよ」
「……え、何で?無理」
「でも、俺がそんな伝言したらおばさん心配するじゃん。だから2人で飯食いに行くことにしようぜ」
そんなこと言っても、泣き腫らした顔ではどこにも行けない。
「大丈夫。誰にも会わなくて済むところに行こう」
俺の心の内を察した蒼空が手を取る。その熱に触れた途端、優しさに掻き乱された心が再び涙を誘ってくる。
「うっ……そらぁ、お前何で……うぅ……」
「えっ?あぁっ、もう、泣くなよ。おいで、ほら。これが落ち着いたらでいいから、な?」
蒼空はベッドに腰かけている俺の隣に座り、困ったような表情で頭を撫でてくれた。
◇◇◇
泣き止んだ俺が蒼空に連れてこられたのはいつもの近所の公園だった。
「ほんとに誰にも会わなくて済むのかよ」
「たぶん……な。もう日も暮れてるし大丈夫」
木製のアスレチックの一番上、大人の男2人で座るには狭い空間で、蒼空が自動販売機で買ってくれたペットボトルのお茶を開ける。
「生き返る。マジで干からびるかと思った」
「あんだけ泣けばな。あ、俺にも一口」
手渡したペットボトルに蒼空が口をつけるのを見て、何となく恥ずかしくなって視線を逸らした。間接キスを意識するなんて小学生かよ。
「なぁ、蒼空。何があったか聞かないの?」
「聞こうと思ってた」
顔を隠すために被っていたキャップを脱いで、それを弄ぶ。この帽子も壱星に買ってもらったものだ。
「何だろ……。何かすごいことが起きて、嫌な予言をされて、逆にフラれた」
「……いや、わかんねぇよ。予言?」
蒼空はクスクスと笑いながらも、慰めるように俺の肩を抱き寄せる。
「壱星の家に行ったら、重森がいたんだ。……あの2人は、蒼空の言う通りずっと前から繋がってたらしい」
俺がそう言った途端、蒼空は笑うのをやめて、身構えるようにぎゅっと手に力を込めた。
「なぁ、お前この前、あの2人の関係が普通じゃないって言ってたよな。蒼空は知ってたの?このキャップを買った金が、どこから来たのか」
重森は、壱星が俺に使った金は汚い金だと言っていた。
「キャップ……?金?お前が買ったんじゃないの、それ?」
「壱星に貰った」
「あぁ……え、いや、どういう意味?」
体を使って得た汚い金だと。つまり、あいつは……。
「重森に何させられてたか、聞いたのかなって思って。でも、知らないか。ごめん――」
「いや、ごめん。何となくわかってたかも」
蒼空はそう言うと俺の肩から腕を離した。
「真宙さん、いや、重森はあの時、壱星ってヤツに、今から人に会って金稼いで来いって言ってたから。ごめん、そこまで言わなくてもいいと思って……」
蒼空の声は少し震えている。怒りや苦しみが混じったような低い声だった。
「そっか……」
「ごめん、智暁。ってか、あいつらお前にそんな話したの?何でわざわざそんな傷つけるようなこと……」
その蒼空の姿を見て、俺は壱星に言われたことを再び思い出していた。
蒼空はすごくいい奴だ。誠実で、真面目で、こんな俺のために怒ってくれる。
だからきっと、壱星の言う通りになる。このまま一緒にいれば、俺はきっと、蒼空のことを……。
「いや、いいんだよ、それは。俺も前から何となくわかってたし。俺だってあいつに相当な事やってたから」
今、ここで軽蔑された方がマシなのかな。全てを打ち明けてしまおうか。でも、蒼空に嫌われるのは怖い。
自嘲的な感情と、自分を守る気持ちがせめぎ合う。
「智暁……」
どっちにしろ蒼空を傷つけるなら、今の方が傷は浅い。
「蒼空、あのな、俺……」
でも、何から話せばいいんだろう。俺は蒼空のことが好きで、そのせいで壱星に八つ当たりして、重森をネタにセックスを――。
「智暁、お前…………はっ、はは、なんて顔してんだよ。あははっ、ダセェ」
「……え?」
蒼空は驚いたように目を見開いたが、次の瞬間にはゲラゲラと笑い出し、俺の背中を強い力で何度も叩いた。
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