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第四章
4-5 決意
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「で、どーすんの?壱星ってヤツとは」
アイスを食べ終えた後、蒼空はまるで週末の予定でも聞くような調子で尋ねてきた。……まぁ、実際、今週末別れる予定だったんだけど。
「別れるよ。で、重森真宙のことは聞かない」
とにかく、ちゃんとケジメをつけようと思う。重森とのことを隠されていたのはショックだけど、どうせ終わりにするんだから追及する必要もないだろう。
でも、もしも壱星が俺と別れたくないとごねるなら、その時には……。
「そっか。なら俺、余計なこと話しちゃったな」
蒼空はバツが悪そうに頭を掻いて俺から視線を逸らした。
「そんなことない。蒼空の話聞いたお陰で決心がついたよ。あの2人に何があるのか知らないし、壱星は利用されてるだけなのかも知れないけど。それでも、あんな風に嘘をつく相手とは……」
……嘘。俺も嘘をついていた。お互い様のくせに、偉そうだな、俺は。
俺が言葉を切ったことで蒼空は視線だけ動かしてチラッとこちらを見たが、あらぬ方へ顔を向けたまま口を開いた。
「なぁ、言いたくなかったら答えなくてもいいんだけど」
ローテーブルに頬杖をついた蒼空の髪の毛が、窓から差し込む日の光に照らされて、ほんのり赤くキラキラと輝く。
「智暁っていつ……男が好きだって気付いた?」
髪だけでなく、頬まで赤く染まっているのは夕焼けのせいだろうか。
「いや、やっぱごめん。答えたくないよな、そんな――」
「高3の7月」
「え?」
大きな垂れ目がさらに大きく見開かれて、真っ直ぐ俺を見つめる。
「英語が終わった後の昼休みかな」
蒼空が染谷さんと付き合い始めたと知った時のこと。
「え?そんなピンポイントで?授業で何かあったってこと?」
蒼空は、今もあの時も、それよりも前から、ずっと変わらない。
見慣れた表情も、初めて見る笑顔も……ずっと、俺の大好きな蒼空のまま。
「いや、だから授業の後だって。忘れられないんだよ、あの瞬間が」
蒼空は首を傾げながら前髪を掻き上げ、考え込むような素振りを見せていたが、やがて表情を崩して笑った。
「忘れられない瞬間ね……。よくわかんないけど、なんかいいな、そういうの」
そのはにかむような笑顔は、あの時染谷さんに向けていたものとも、また違うような気がした。
「……そうだな。いいかも」
自覚すると同時に終わったはずの俺の恋は、どうやら今も続いている。
◇◇◇
「じゃーな、智暁。何かあったらいつでも連絡しろよ。また胸貸してやるから」
玄関先まで俺を見送りに来た蒼空はいたずらっぽく笑った。
「うるせー。二度とあんなことしねぇよ」
「あんなことって?」
「あー、うぜー。マジで忘れろよ」
自転車を引き、楽しそうな笑い声を背に数歩進んでから、首だけ振り返って蒼空を見る。
「じゃ。……ありがとな、色々」
「どーいたしまして。またな、智暁」
「……おう。またな、蒼空」
今までは寂しくて言えなかった「またな」という言葉が、この時は自然と口から溢れた。それが嬉しくて、俺はペダルを漕ぎ出した後、もう一度蒼空を振り返る。
ガレージの門を閉めている手を止めて、あいつは大きく手を振ってくれた。前へ向き直りながら片手を上げてそれに答え、少しずつ暖かくなってきた夜の空気を吸い込んだ。
壱星と別れた後、蒼空との関係がどうなるのかはわからない。両思いだとしても、恋人同士になって上手くいく保証はないし、いっそこのままの方がいいのかも知れない。
だけど……風を切る唇が、蒼空の感触を覚えている。叶うことならばもう一度、今度はちゃんと、キスをしたい。
そして、きちんと目を見て伝えたい。俺は蒼空のことが、この世界の誰よりも好きなんだって。
アイスを食べ終えた後、蒼空はまるで週末の予定でも聞くような調子で尋ねてきた。……まぁ、実際、今週末別れる予定だったんだけど。
「別れるよ。で、重森真宙のことは聞かない」
とにかく、ちゃんとケジメをつけようと思う。重森とのことを隠されていたのはショックだけど、どうせ終わりにするんだから追及する必要もないだろう。
でも、もしも壱星が俺と別れたくないとごねるなら、その時には……。
「そっか。なら俺、余計なこと話しちゃったな」
蒼空はバツが悪そうに頭を掻いて俺から視線を逸らした。
「そんなことない。蒼空の話聞いたお陰で決心がついたよ。あの2人に何があるのか知らないし、壱星は利用されてるだけなのかも知れないけど。それでも、あんな風に嘘をつく相手とは……」
……嘘。俺も嘘をついていた。お互い様のくせに、偉そうだな、俺は。
俺が言葉を切ったことで蒼空は視線だけ動かしてチラッとこちらを見たが、あらぬ方へ顔を向けたまま口を開いた。
「なぁ、言いたくなかったら答えなくてもいいんだけど」
ローテーブルに頬杖をついた蒼空の髪の毛が、窓から差し込む日の光に照らされて、ほんのり赤くキラキラと輝く。
「智暁っていつ……男が好きだって気付いた?」
髪だけでなく、頬まで赤く染まっているのは夕焼けのせいだろうか。
「いや、やっぱごめん。答えたくないよな、そんな――」
「高3の7月」
「え?」
大きな垂れ目がさらに大きく見開かれて、真っ直ぐ俺を見つめる。
「英語が終わった後の昼休みかな」
蒼空が染谷さんと付き合い始めたと知った時のこと。
「え?そんなピンポイントで?授業で何かあったってこと?」
蒼空は、今もあの時も、それよりも前から、ずっと変わらない。
見慣れた表情も、初めて見る笑顔も……ずっと、俺の大好きな蒼空のまま。
「いや、だから授業の後だって。忘れられないんだよ、あの瞬間が」
蒼空は首を傾げながら前髪を掻き上げ、考え込むような素振りを見せていたが、やがて表情を崩して笑った。
「忘れられない瞬間ね……。よくわかんないけど、なんかいいな、そういうの」
そのはにかむような笑顔は、あの時染谷さんに向けていたものとも、また違うような気がした。
「……そうだな。いいかも」
自覚すると同時に終わったはずの俺の恋は、どうやら今も続いている。
◇◇◇
「じゃーな、智暁。何かあったらいつでも連絡しろよ。また胸貸してやるから」
玄関先まで俺を見送りに来た蒼空はいたずらっぽく笑った。
「うるせー。二度とあんなことしねぇよ」
「あんなことって?」
「あー、うぜー。マジで忘れろよ」
自転車を引き、楽しそうな笑い声を背に数歩進んでから、首だけ振り返って蒼空を見る。
「じゃ。……ありがとな、色々」
「どーいたしまして。またな、智暁」
「……おう。またな、蒼空」
今までは寂しくて言えなかった「またな」という言葉が、この時は自然と口から溢れた。それが嬉しくて、俺はペダルを漕ぎ出した後、もう一度蒼空を振り返る。
ガレージの門を閉めている手を止めて、あいつは大きく手を振ってくれた。前へ向き直りながら片手を上げてそれに答え、少しずつ暖かくなってきた夜の空気を吸い込んだ。
壱星と別れた後、蒼空との関係がどうなるのかはわからない。両思いだとしても、恋人同士になって上手くいく保証はないし、いっそこのままの方がいいのかも知れない。
だけど……風を切る唇が、蒼空の感触を覚えている。叶うことならばもう一度、今度はちゃんと、キスをしたい。
そして、きちんと目を見て伝えたい。俺は蒼空のことが、この世界の誰よりも好きなんだって。
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