42 / 54
第四章
4-3 すべて虚構
しおりを挟む
「どういう関係って……ただの高校の先輩と後輩だろ?ってか、何で蒼空はそんなこと……」
「俺、たぶん、あの2人が話してんの聞いたんだよ」
壱星が重森真宙と……?
いや、そんなことあり得るだろうか。
そうだとしたら、壱星の涙は何だ?あの時、重森が同じ大学にいることを指摘された壱星は、「ごめんね、智暁君。怖かったんだ」と悲しそうに泣き、それでも追求をやめない俺に「じゃあ俺のスマホ見てみる?!」と今度は怒りながら泣いていた。
嘘をついているようには見えなかった。
でも、壱星は以前もそうやって……。
「智暁?大丈夫?」
ハッとして顔を上げると、蒼空がこちらに身を乗り出して不安そうに俺を見つめていた。
「智暁、お前、ほんとに何も知らないの?」
「し、知らない……。え、ってか、いつ?何で?あの2人が話してたから何なの?何で俺にそんなこと……」
蒼空は何かを探るように真っ直ぐ俺の目を見ながら、慎重そうに言葉を選ぶ。
「ゴールデンウィーク明けて1週間後くらいだっけか、俺たち駅ビルで会ったじゃん?あの日……」
こみかみの辺りがピクピクと勝手に動き出してしまう。
今から1ヶ月も前。そのことに再び視界が暗くなるような気がしたが、俺はあることに気が付いて上擦った声を上げた。
「まっ、待てよ。それ、お前が壱星と会う前じゃね?」
「……え?」
「だから、俺とお前と壱星が食堂で鉢合わせるより前じゃないかってこと。お前らは知り合いじゃないだろ?なのに何でそれが壱星だってわかるんだよ?おかしいよな?」
アリバイの矛盾をつく探偵にでもなったような気持ちで俺は捲し立てた。
蒼空はそんな俺の様子に動揺することもなく、「あぁ、それは」と言葉を繋げる。
「真宙さんが砂原って呼んでたんだよ。もちろんその時はそれが誰かなんて知らなかったけど。それから、智暁って名前も聞こえて」
「……え、俺の?」
蒼空は「そう、だから」と言ったきり、不安そうに斜め下を見つめ、その薄い唇を噛んだまま黙り込んでしまった。
「な、何だよ。どういうことだよ」
続きを促す俺の声は震えている。俺の不安が蒼空から言葉を奪っているとわかっていても、もはや狼狽を隠すことなんてできなかった。
「頼む。教えてくれ。お願いだから」
「……智暁、お前、やっぱり……」
何かを言いかけた蒼空は悲しそうに目を伏せてから、意を決したかのように顔を上げた。
「俺もこの間まで……智暁のスマホ見て、壱星って人の苗字が砂原だって知るまで忘れてたんだ。だから記憶が曖昧かも――」
「いいから!何話してた?あの2人は、どんな……」
揺さぶるように肩を掴むと、蒼空はようやく自分が聞いたという会話について話し始めた。
――その日の夕方、蒼空は課題をするため図書館にいたのだが、忘れ物をしたことに気が付き教室へと引き返したらしい。その時、5限終わりでもう誰もいないはずの教室から俺の名前が聞こえてきて、思わず耳をそばだててしまったという。
「あれは間違いなく真宙さんの声だった。それから、その人は……真宙さんから砂原って呼ばれてたその人は、1回だけ真宙さんのことを重森先輩って呼んでた」
俺に抱かれた壱星の「重森先輩」という熱っぽい声が脳裏に蘇る。
「それで、2人は……たぶん、金のやり取りをしてた。見たわけじゃないけど、内容的に、砂原って人が真宙さんに金を渡してた。その……結構な大金を」
重森が壱星をカツアゲしてたってことだろうか。金持ちの壱星なら標的にされてもおかしくない。そういえば中村も重森が信者から金を巻き上げているとかそんな話をしていた。
蒼空は苦しそうにこめかみを押さえて下を向いた。数秒後、様子を伺うようにゆっくりと顔を上げて再び口を開く。
「それから友達とかにそれとなく聞いてみたんだけど、砂原って人と真宙さんの関係は普通じゃないらしい。高校の頃からずっと、あの2人が変なことしてるって噂があるらしい」
「何それ……」
「詳しくは知らないけど、砂原って人は真宙さんの言いなり的な。その時、俺が聞いた会話も変だったんだよ。真宙さんが『俺のためなら何でもできる?』って聞いたりしてて……」
蒼空の話がわからない。壱星が重森にいいように扱われ、金まで捲き上げられているんだとすれば……壱星は何で俺に嘘をつく?大切そうにしていた選挙公約は?
……嘘をついているのは、本当に壱星だろうか。
「俺、たぶん、あの2人が話してんの聞いたんだよ」
壱星が重森真宙と……?
いや、そんなことあり得るだろうか。
そうだとしたら、壱星の涙は何だ?あの時、重森が同じ大学にいることを指摘された壱星は、「ごめんね、智暁君。怖かったんだ」と悲しそうに泣き、それでも追求をやめない俺に「じゃあ俺のスマホ見てみる?!」と今度は怒りながら泣いていた。
嘘をついているようには見えなかった。
でも、壱星は以前もそうやって……。
「智暁?大丈夫?」
ハッとして顔を上げると、蒼空がこちらに身を乗り出して不安そうに俺を見つめていた。
「智暁、お前、ほんとに何も知らないの?」
「し、知らない……。え、ってか、いつ?何で?あの2人が話してたから何なの?何で俺にそんなこと……」
蒼空は何かを探るように真っ直ぐ俺の目を見ながら、慎重そうに言葉を選ぶ。
「ゴールデンウィーク明けて1週間後くらいだっけか、俺たち駅ビルで会ったじゃん?あの日……」
こみかみの辺りがピクピクと勝手に動き出してしまう。
今から1ヶ月も前。そのことに再び視界が暗くなるような気がしたが、俺はあることに気が付いて上擦った声を上げた。
「まっ、待てよ。それ、お前が壱星と会う前じゃね?」
「……え?」
「だから、俺とお前と壱星が食堂で鉢合わせるより前じゃないかってこと。お前らは知り合いじゃないだろ?なのに何でそれが壱星だってわかるんだよ?おかしいよな?」
アリバイの矛盾をつく探偵にでもなったような気持ちで俺は捲し立てた。
蒼空はそんな俺の様子に動揺することもなく、「あぁ、それは」と言葉を繋げる。
「真宙さんが砂原って呼んでたんだよ。もちろんその時はそれが誰かなんて知らなかったけど。それから、智暁って名前も聞こえて」
「……え、俺の?」
蒼空は「そう、だから」と言ったきり、不安そうに斜め下を見つめ、その薄い唇を噛んだまま黙り込んでしまった。
「な、何だよ。どういうことだよ」
続きを促す俺の声は震えている。俺の不安が蒼空から言葉を奪っているとわかっていても、もはや狼狽を隠すことなんてできなかった。
「頼む。教えてくれ。お願いだから」
「……智暁、お前、やっぱり……」
何かを言いかけた蒼空は悲しそうに目を伏せてから、意を決したかのように顔を上げた。
「俺もこの間まで……智暁のスマホ見て、壱星って人の苗字が砂原だって知るまで忘れてたんだ。だから記憶が曖昧かも――」
「いいから!何話してた?あの2人は、どんな……」
揺さぶるように肩を掴むと、蒼空はようやく自分が聞いたという会話について話し始めた。
――その日の夕方、蒼空は課題をするため図書館にいたのだが、忘れ物をしたことに気が付き教室へと引き返したらしい。その時、5限終わりでもう誰もいないはずの教室から俺の名前が聞こえてきて、思わず耳をそばだててしまったという。
「あれは間違いなく真宙さんの声だった。それから、その人は……真宙さんから砂原って呼ばれてたその人は、1回だけ真宙さんのことを重森先輩って呼んでた」
俺に抱かれた壱星の「重森先輩」という熱っぽい声が脳裏に蘇る。
「それで、2人は……たぶん、金のやり取りをしてた。見たわけじゃないけど、内容的に、砂原って人が真宙さんに金を渡してた。その……結構な大金を」
重森が壱星をカツアゲしてたってことだろうか。金持ちの壱星なら標的にされてもおかしくない。そういえば中村も重森が信者から金を巻き上げているとかそんな話をしていた。
蒼空は苦しそうにこめかみを押さえて下を向いた。数秒後、様子を伺うようにゆっくりと顔を上げて再び口を開く。
「それから友達とかにそれとなく聞いてみたんだけど、砂原って人と真宙さんの関係は普通じゃないらしい。高校の頃からずっと、あの2人が変なことしてるって噂があるらしい」
「何それ……」
「詳しくは知らないけど、砂原って人は真宙さんの言いなり的な。その時、俺が聞いた会話も変だったんだよ。真宙さんが『俺のためなら何でもできる?』って聞いたりしてて……」
蒼空の話がわからない。壱星が重森にいいように扱われ、金まで捲き上げられているんだとすれば……壱星は何で俺に嘘をつく?大切そうにしていた選挙公約は?
……嘘をついているのは、本当に壱星だろうか。
1
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
バイバイ、セフレ。
月岡夜宵
BL
『さよなら、君との関係性。今日でお別れセックスフレンド』
尚紀は、好きな人である紫に散々な嘘までついて抱かれ、お金を払ってでもセフレ関係を繋ぎ止めていた。だが彼に本命がいると知ってしまい、円満に別れようとする。ところが、決意を新たにした矢先、とんでもない事態に発展してしまい――なんと自分から突き放すことに!? 素直になれない尚紀を置きざりに事態はどんどん劇化し、最高潮に達する時、やがて一つの結実となる。
前知らせ)
・舞台は現代日本っぽい架空の国。
・人気者攻め(非童貞)×日陰者受け(処女)。
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
君だけを愛してる
粉物
BL
ずっと好きだった椿に告白されて幼馴染から恋人へと進展して嬉しかったのに、気がつくと椿は次から次へと浮気を繰り返していた。
すっと我慢してたけどもうそろそろ潮時かもしれない。
◇◇◇
浮気症美形×健気平凡
いつか愛してると言える日まで
なの
BL
幼馴染が大好きだった。
いつか愛してると言えると告白できると思ってた…
でも彼には大好きな人がいた。
だから僕は君たち2人の幸せを祈ってる。いつまでも…
親に捨てられ施設で育った純平、大好きな彼には思い人がいた。
そんな中、問題が起こり…
2人の両片想い…純平は愛してるとちゃんと言葉で言える日は来るのか?
オメガバースの世界観に独自の設定を加えています。
予告なしに暴力表現等があります。R18には※をつけます。ご自身の判断でお読み頂きたいと思います。
お読みいただきありがとうございました。
本編は完結いたしましたが、番外編に突入いたします。
浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした
雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。
遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。
紀平(20)大学生。
宮内(21)紀平の大学の同級生。
環 (22)遠堂のバイト先の友人。
【BL】声にできない恋
のらねことすていぬ
BL
<年上アルファ×オメガ>
オメガの浅葱(あさぎ)は、アルファである樋沼(ひぬま)の番で共に暮らしている。だけどそれは決して彼に愛されているからではなくて、彼の前の恋人を忘れるために番ったのだ。だけど浅葱は樋沼を好きになってしまっていて……。不器用な両片想いのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる