夜が明けるまで嘘を抱く

雛菊ニゲラ

文字の大きさ
上 下
34 / 57
第三章

3-8 隠し事

しおりを挟む
 あれから、落ち着いた俺達は適当に晩飯を食ってまったり過ごし、今はちょうど俺が風呂から上がったところだった。

「あ、智暁君。そのTシャツもう捨てるから貸して」
「え?捨てんの?何で?」

 今日着ていた物を洗濯かごに入れようとしたら壱星に呼び止められて手を止めた。なぜか少し苛立っているような口調だ。

「俺が引っ張っちゃって首のとこ伸びちゃったでしょ」
「そんな伸びてないけど……ってか、確実にまだ着れるよ?」
「着れないよ。智暁君にはヨレヨレの服なんて着てほしくない」

 壱星は金持ちの息子だし、オシャレが好きだからそう思うんだろう。価値観の差を感じてしまうが、元々これも壱星が買った服だし、俺は黙って従うことにした。着心地いいし気に入ってたんだけど。

 手渡したTシャツをゴミ箱代わりにしている大きくて透明なゴミ袋に入れながら、壱星は「そういえば」と切り出した。

「ねぇ、智暁君。あの笹山さんって人なんだけど……」
「そ、笹山?」

 蒼空と呼びそうになり慌てて言い換えた。

「うん。食堂で会った人。この前あの人見かけたよ」

 壱星は急に楽しそうな表情を浮かべて俺を見上げる。

「そこのコンビニあるでしょ?日曜日の夜、あそこにいたよ。女の人と一緒に」
「……え?日曜?あいつが?女の人と?」
「うん。その、彼女さんなのかな?と一緒に、アイスどれ買うかって話しながら楽しそうにしてて」

 彼女……まさか、蒼空に彼女なんて。

「智暁君もアイス買うときいつも悩むでしょ?なんか似てるなって思ったからつい見ちゃって。そしたら笹山さんだった。向こうは俺のこと全然気が付いてなかったけど」

「え、ほんとに、そ、その、笹山だった?人違いじゃない?だってあいつが土日この辺にいるわけないし、彼女いるなんて俺は……」

「んー、でも、あんな感じで背が高くて、蒼空って呼ばれてたから間違いないと思うけど。じゃあ、俺もシャワー浴びてくるね。智暁君、上がったら俺達もさっき買ったアイス食べよ」

 動揺する俺を他所に、壱星は大したことじゃないという風に話を切り上げると浴室へと去っていった。

 蒼空に彼女?俺には何も話してくれてないのに。日曜の夜、そこのコンビニにいたってことは泊まったのか?

 いやいや、壱星の勘違いだろ?一瞬会っただけだし、蒼空みたいな顔の奴も、蒼空みたいな名前の奴もこの世にはたくさんいるはず。

 でも……あいつ、アイスは悩むよな。基本的にシャーベット系が好きだけど、たまには濃厚なやつが食べたいとか、いつもそんなこと言ってたっけ。いや、でも、そんなの誰だって悩むよな?

 俺は立ち上がるとカーテンを少し開き、どこかに見えるはずのコンビニの明かりを意味もなく探した。

 まるで、そこに蒼空がいるような気がした。俺の知らない笑顔を浮かべた蒼空が、あの大きくて骨張った手を他の人の手に重ねる光景が頭に浮かんできてしまう。そんな、見たこともない光景が……。

 しばらくそうしていたが、窓ガラスに映る自分の表情の険しさに驚いて、俺は慌ててその場を離れた。

◇◇◇

 壱星に蒼空の話をされてからというものの、蒼空の彼女が気になって仕方がない。

 来週の火曜日は俺の誕生日で、壱星と出掛ける予定となっているため、バス停で蒼空に会って話を聞くこともできない。

 俺の気持ちを知らない蒼空は、いつもと変わらない感じでゲームの進捗状況などを送ってくるだけだ。

 重森真宙の一件が解決したとメッセージで報告した時も「よかったな」と一言あっただけで、自分のことは何も話してくれなかった。



しおりを挟む
第12回BL大賞に参加しております。
応援よろしくお願いいたします!!

感想もお気軽にどうぞ♪
匿名コメントはWaveboxへお願いします!
Waveboxはこちら
感想 2

あなたにおすすめの小説

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった” 長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、 ひと夏の契約でリゾートにやってきた。 最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、 気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。 そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。 ***前作品とは完全に切り離したお話ですが、 世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***

春風の香

梅川 ノン
BL
 名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。  母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。  そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。  雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。  自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。  雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。  3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。  オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。    番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...