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第三章
3-8 隠し事
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あれから、落ち着いた俺達は適当に晩飯を食ってまったり過ごし、今はちょうど俺が風呂から上がったところだった。
「あ、智暁君。そのTシャツもう捨てるから貸して」
「え?捨てんの?何で?」
今日着ていた物を洗濯かごに入れようとしたら壱星に呼び止められて手を止めた。なぜか少し苛立っているような口調だ。
「俺が引っ張っちゃって首のとこ伸びちゃったでしょ」
「そんな伸びてないけど……ってか、確実にまだ着れるよ?」
「着れないよ。智暁君にはヨレヨレの服なんて着てほしくない」
壱星は金持ちの息子だし、オシャレが好きだからそう思うんだろう。価値観の差を感じてしまうが、元々これも壱星が買った服だし、俺は黙って従うことにした。着心地いいし気に入ってたんだけど。
手渡したTシャツをゴミ箱代わりにしている大きくて透明なゴミ袋に入れながら、壱星は「そういえば」と切り出した。
「ねぇ、智暁君。あの笹山さんって人なんだけど……」
「そ、笹山?」
蒼空と呼びそうになり慌てて言い換えた。
「うん。食堂で会った人。この前あの人見かけたよ」
壱星は急に楽しそうな表情を浮かべて俺を見上げる。
「そこのコンビニあるでしょ?日曜日の夜、あそこにいたよ。女の人と一緒に」
「……え?日曜?あいつが?女の人と?」
「うん。その、彼女さんなのかな?と一緒に、アイスどれ買うかって話しながら楽しそうにしてて」
彼女……まさか、蒼空に彼女なんて。
「智暁君もアイス買うときいつも悩むでしょ?なんか似てるなって思ったからつい見ちゃって。そしたら笹山さんだった。向こうは俺のこと全然気が付いてなかったけど」
「え、ほんとに、そ、その、笹山だった?人違いじゃない?だってあいつが土日この辺にいるわけないし、彼女いるなんて俺は……」
「んー、でも、あんな感じで背が高くて、蒼空って呼ばれてたから間違いないと思うけど。じゃあ、俺もシャワー浴びてくるね。智暁君、上がったら俺達もさっき買ったアイス食べよ」
動揺する俺を他所に、壱星は大したことじゃないという風に話を切り上げると浴室へと去っていった。
蒼空に彼女?俺には何も話してくれてないのに。日曜の夜、そこのコンビニにいたってことは泊まったのか?
いやいや、壱星の勘違いだろ?一瞬会っただけだし、蒼空みたいな顔の奴も、蒼空みたいな名前の奴もこの世にはたくさんいるはず。
でも……あいつ、アイスは悩むよな。基本的にシャーベット系が好きだけど、たまには濃厚なやつが食べたいとか、いつもそんなこと言ってたっけ。いや、でも、そんなの誰だって悩むよな?
俺は立ち上がるとカーテンを少し開き、どこかに見えるはずのコンビニの明かりを意味もなく探した。
まるで、そこに蒼空がいるような気がした。俺の知らない笑顔を浮かべた蒼空が、あの大きくて骨張った手を他の人の手に重ねる光景が頭に浮かんできてしまう。そんな、見たこともない光景が……。
しばらくそうしていたが、窓ガラスに映る自分の表情の険しさに驚いて、俺は慌ててその場を離れた。
◇◇◇
壱星に蒼空の話をされてからというものの、蒼空の彼女が気になって仕方がない。
来週の火曜日は俺の誕生日で、壱星と出掛ける予定となっているため、バス停で蒼空に会って話を聞くこともできない。
俺の気持ちを知らない蒼空は、いつもと変わらない感じでゲームの進捗状況などを送ってくるだけだ。
重森真宙の一件が解決したとメッセージで報告した時も「よかったな」と一言あっただけで、自分のことは何も話してくれなかった。
「あ、智暁君。そのTシャツもう捨てるから貸して」
「え?捨てんの?何で?」
今日着ていた物を洗濯かごに入れようとしたら壱星に呼び止められて手を止めた。なぜか少し苛立っているような口調だ。
「俺が引っ張っちゃって首のとこ伸びちゃったでしょ」
「そんな伸びてないけど……ってか、確実にまだ着れるよ?」
「着れないよ。智暁君にはヨレヨレの服なんて着てほしくない」
壱星は金持ちの息子だし、オシャレが好きだからそう思うんだろう。価値観の差を感じてしまうが、元々これも壱星が買った服だし、俺は黙って従うことにした。着心地いいし気に入ってたんだけど。
手渡したTシャツをゴミ箱代わりにしている大きくて透明なゴミ袋に入れながら、壱星は「そういえば」と切り出した。
「ねぇ、智暁君。あの笹山さんって人なんだけど……」
「そ、笹山?」
蒼空と呼びそうになり慌てて言い換えた。
「うん。食堂で会った人。この前あの人見かけたよ」
壱星は急に楽しそうな表情を浮かべて俺を見上げる。
「そこのコンビニあるでしょ?日曜日の夜、あそこにいたよ。女の人と一緒に」
「……え?日曜?あいつが?女の人と?」
「うん。その、彼女さんなのかな?と一緒に、アイスどれ買うかって話しながら楽しそうにしてて」
彼女……まさか、蒼空に彼女なんて。
「智暁君もアイス買うときいつも悩むでしょ?なんか似てるなって思ったからつい見ちゃって。そしたら笹山さんだった。向こうは俺のこと全然気が付いてなかったけど」
「え、ほんとに、そ、その、笹山だった?人違いじゃない?だってあいつが土日この辺にいるわけないし、彼女いるなんて俺は……」
「んー、でも、あんな感じで背が高くて、蒼空って呼ばれてたから間違いないと思うけど。じゃあ、俺もシャワー浴びてくるね。智暁君、上がったら俺達もさっき買ったアイス食べよ」
動揺する俺を他所に、壱星は大したことじゃないという風に話を切り上げると浴室へと去っていった。
蒼空に彼女?俺には何も話してくれてないのに。日曜の夜、そこのコンビニにいたってことは泊まったのか?
いやいや、壱星の勘違いだろ?一瞬会っただけだし、蒼空みたいな顔の奴も、蒼空みたいな名前の奴もこの世にはたくさんいるはず。
でも……あいつ、アイスは悩むよな。基本的にシャーベット系が好きだけど、たまには濃厚なやつが食べたいとか、いつもそんなこと言ってたっけ。いや、でも、そんなの誰だって悩むよな?
俺は立ち上がるとカーテンを少し開き、どこかに見えるはずのコンビニの明かりを意味もなく探した。
まるで、そこに蒼空がいるような気がした。俺の知らない笑顔を浮かべた蒼空が、あの大きくて骨張った手を他の人の手に重ねる光景が頭に浮かんできてしまう。そんな、見たこともない光景が……。
しばらくそうしていたが、窓ガラスに映る自分の表情の険しさに驚いて、俺は慌ててその場を離れた。
◇◇◇
壱星に蒼空の話をされてからというものの、蒼空の彼女が気になって仕方がない。
来週の火曜日は俺の誕生日で、壱星と出掛ける予定となっているため、バス停で蒼空に会って話を聞くこともできない。
俺の気持ちを知らない蒼空は、いつもと変わらない感じでゲームの進捗状況などを送ってくるだけだ。
重森真宙の一件が解決したとメッセージで報告した時も「よかったな」と一言あっただけで、自分のことは何も話してくれなかった。
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