14 / 57
第二章
2-2 デート
しおりを挟む
日曜日の昼過ぎ、待ち合わせ場所の駅の改札を出ると、俺を見つけた壱星が犬みたいに駆け寄ってきて嬉しそうな表情を見せた。
「智暁君、おはよ。お昼もう食べた?」
「おー、食ったよ。壱星は?」
「俺も。映画楽しみだね。智暁君、予約ありがと」
「ん。ってかさ、壱星、前のやつ観たことあった?聞かずに誘っちゃったけど」
「……観たよ、昨日。グロかったけど面白かった」
「えっ、昨日?マジかー、ごめんな。ってか言ってよ」
「ううん。いつか観ようと思ってたから」
壱星が頭を左右に振ると、視界の端で艷やかな黒髪が揺れる。触れたくなるようなサラサラの髪で、思わず見惚れてしまう。
「……智暁君?どうかした?」
「え、いや、別に」
「ねぇ、智暁君。その……プロジェクションマッピングも行こうって言ってくれてありがと。今日までなの覚えててくれたの?」
そう言われて初めて、開催期間が今週末までだと壱星が話していたことを思い出す。
「……まぁな。せっかくだからな」
「嬉しい。さすがは智暁君だね」
壱星は俺の嘘に気が付く素振りもみせず、弾むように笑うと口元を抑えた。
◇◇◇
映画を観終わった俺たちは、プロジェクションマッピングをやっている城へと移動するためバス停に向かった。同じような目的の人間が多いのか、すでに長い行列ができており、その一番後ろへ並んだ俺は壱星に対して映画の感想を話し掛ける。
「なんかさ、前作の方が緊張感あってよかったよな。ゾンビに歯が立たない絶望感っていうか。今回は人間側が強くなりすぎて無双だったじゃん。大体、あの環境であんな武器作れる科学力あるなら最初からやれよって感じじゃね?」
「あー……言われてみればそうだね」
「そもそもさ、あんなに人間が生き残ってるのおかしいよな?子どもとかもいてさ。感動させたいのはわかるけど。あと無理やり恋愛ぶち込んでくるのも俺好きじゃないんだよね。ほんとに監督の意図なのかな。あのラストとか不自然だと思わなかった?」
「うーん、そうかなぁ」
「いや、だってさ……」
「あっ、智暁君、列進んだよ」
壱星はそう言うと俺の腰を軽く押した。
「……いや、わかってるし。子どもじゃないんだから」
「そっか、ごめん。でもなんか、夢中になって話してる智暁君見てたら可愛くて」
「なんだよ、それ。別にそんな俺は……」
馬鹿にされているような気がして何か言い返しそうになったが、そもそも壱星はこの映画を観たかったわけではないことを思い出して口を噤む。
本当はこの映画、蒼空と一緒に観たかった。もしもこれが蒼空だったら、駄作だろうと名作だろうと、映画の感想で何時間も語り合えるのに。
何をするのだって、蒼空と一緒ならもっと楽しいのに……。
浮かんでしまった思いを掻き消そうと唇を噛む。蒼空はもう俺の隣にはいないんだという現実を受け入れ切れない自分に腹が立つ。
その時、前から歩いてくる集団に道を譲ろうとした壱星の肩が俺の腕にぶつかった。
「あ、智暁君ごめん」
そう言うと壱星は照れたように笑った。
「そういえばね、智暁君。こないだ智暁君が出れなかった地質学の授業なんだけど……」
途切れてしまった会話を取り繕うように話し始める壱星が健気に見えて、いちいち蒼空を思い出す自分に対してバツの悪い気持ちになっていた。
「智暁君、おはよ。お昼もう食べた?」
「おー、食ったよ。壱星は?」
「俺も。映画楽しみだね。智暁君、予約ありがと」
「ん。ってかさ、壱星、前のやつ観たことあった?聞かずに誘っちゃったけど」
「……観たよ、昨日。グロかったけど面白かった」
「えっ、昨日?マジかー、ごめんな。ってか言ってよ」
「ううん。いつか観ようと思ってたから」
壱星が頭を左右に振ると、視界の端で艷やかな黒髪が揺れる。触れたくなるようなサラサラの髪で、思わず見惚れてしまう。
「……智暁君?どうかした?」
「え、いや、別に」
「ねぇ、智暁君。その……プロジェクションマッピングも行こうって言ってくれてありがと。今日までなの覚えててくれたの?」
そう言われて初めて、開催期間が今週末までだと壱星が話していたことを思い出す。
「……まぁな。せっかくだからな」
「嬉しい。さすがは智暁君だね」
壱星は俺の嘘に気が付く素振りもみせず、弾むように笑うと口元を抑えた。
◇◇◇
映画を観終わった俺たちは、プロジェクションマッピングをやっている城へと移動するためバス停に向かった。同じような目的の人間が多いのか、すでに長い行列ができており、その一番後ろへ並んだ俺は壱星に対して映画の感想を話し掛ける。
「なんかさ、前作の方が緊張感あってよかったよな。ゾンビに歯が立たない絶望感っていうか。今回は人間側が強くなりすぎて無双だったじゃん。大体、あの環境であんな武器作れる科学力あるなら最初からやれよって感じじゃね?」
「あー……言われてみればそうだね」
「そもそもさ、あんなに人間が生き残ってるのおかしいよな?子どもとかもいてさ。感動させたいのはわかるけど。あと無理やり恋愛ぶち込んでくるのも俺好きじゃないんだよね。ほんとに監督の意図なのかな。あのラストとか不自然だと思わなかった?」
「うーん、そうかなぁ」
「いや、だってさ……」
「あっ、智暁君、列進んだよ」
壱星はそう言うと俺の腰を軽く押した。
「……いや、わかってるし。子どもじゃないんだから」
「そっか、ごめん。でもなんか、夢中になって話してる智暁君見てたら可愛くて」
「なんだよ、それ。別にそんな俺は……」
馬鹿にされているような気がして何か言い返しそうになったが、そもそも壱星はこの映画を観たかったわけではないことを思い出して口を噤む。
本当はこの映画、蒼空と一緒に観たかった。もしもこれが蒼空だったら、駄作だろうと名作だろうと、映画の感想で何時間も語り合えるのに。
何をするのだって、蒼空と一緒ならもっと楽しいのに……。
浮かんでしまった思いを掻き消そうと唇を噛む。蒼空はもう俺の隣にはいないんだという現実を受け入れ切れない自分に腹が立つ。
その時、前から歩いてくる集団に道を譲ろうとした壱星の肩が俺の腕にぶつかった。
「あ、智暁君ごめん」
そう言うと壱星は照れたように笑った。
「そういえばね、智暁君。こないだ智暁君が出れなかった地質学の授業なんだけど……」
途切れてしまった会話を取り繕うように話し始める壱星が健気に見えて、いちいち蒼空を思い出す自分に対してバツの悪い気持ちになっていた。
11
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
バイバイ、セフレ。
月岡夜宵
BL
『さよなら、君との関係性。今日でお別れセックスフレンド』
尚紀は、好きな人である紫に散々な嘘までついて抱かれ、お金を払ってでもセフレ関係を繋ぎ止めていた。だが彼に本命がいると知ってしまい、円満に別れようとする。ところが、決意を新たにした矢先、とんでもない事態に発展してしまい――なんと自分から突き放すことに!? 素直になれない尚紀を置きざりに事態はどんどん劇化し、最高潮に達する時、やがて一つの結実となる。
前知らせ)
・舞台は現代日本っぽい架空の国。
・人気者攻め(非童貞)×日陰者受け(処女)。
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
【BL】声にできない恋
のらねことすていぬ
BL
<年上アルファ×オメガ>
オメガの浅葱(あさぎ)は、アルファである樋沼(ひぬま)の番で共に暮らしている。だけどそれは決して彼に愛されているからではなくて、彼の前の恋人を忘れるために番ったのだ。だけど浅葱は樋沼を好きになってしまっていて……。不器用な両片想いのお話。
何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら
たけむら
BL
何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら
何でも出来る美形男子高校生(17)×ちょっと詰めが甘い平凡な男子高校生(17)が、とある生徒からの告白をきっかけに大きく関係が変わる話。
特に秀でたところがない花岡李久は、何でもできる幼馴染、月野秋斗に嫉妬して、日々何とか距離を取ろうと奮闘していた。それにも関わらず、その幼馴染に恋人はいるのか、と李久に聞いてくる人が後を絶たない。魔が差した李久は、ある日嘘をついてしまう。それがどんな結果になるのか、あまり考えもしないで…
*別タイトルでpixivに掲載していた作品をこちらでも公開いたしました。
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる