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第二章

2-2 デート

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 日曜日の昼過ぎ、待ち合わせ場所の駅の改札を出ると、俺を見つけた壱星が犬みたいに駆け寄ってきて嬉しそうな表情を見せた。

「智暁君、おはよ。お昼もう食べた?」
「おー、食ったよ。壱星は?」
「俺も。映画楽しみだね。智暁君、予約ありがと」
「ん。ってかさ、壱星、前のやつ観たことあった?聞かずに誘っちゃったけど」
「……観たよ、昨日。グロかったけど面白かった」
「えっ、昨日?マジかー、ごめんな。ってか言ってよ」
「ううん。いつか観ようと思ってたから」

 壱星が頭を左右に振ると、視界の端で艷やかな黒髪が揺れる。触れたくなるようなサラサラの髪で、思わず見惚れてしまう。

「……智暁君?どうかした?」
「え、いや、別に」
「ねぇ、智暁君。その……プロジェクションマッピングも行こうって言ってくれてありがと。今日までなの覚えててくれたの?」

 そう言われて初めて、開催期間が今週末までだと壱星が話していたことを思い出す。

「……まぁな。せっかくだからな」
「嬉しい。さすがは智暁君だね」

 壱星は俺の嘘に気が付く素振りもみせず、弾むように笑うと口元を抑えた。

◇◇◇

 映画を観終わった俺たちは、プロジェクションマッピングをやっている城へと移動するためバス停に向かった。同じような目的の人間が多いのか、すでに長い行列ができており、その一番後ろへ並んだ俺は壱星に対して映画の感想を話し掛ける。

「なんかさ、前作の方が緊張感あってよかったよな。ゾンビに歯が立たない絶望感っていうか。今回は人間側が強くなりすぎて無双だったじゃん。大体、あの環境であんな武器作れる科学力あるなら最初からやれよって感じじゃね?」
「あー……言われてみればそうだね」

「そもそもさ、あんなに人間が生き残ってるのおかしいよな?子どもとかもいてさ。感動させたいのはわかるけど。あと無理やり恋愛ぶち込んでくるのも俺好きじゃないんだよね。ほんとに監督の意図なのかな。あのラストとか不自然だと思わなかった?」
「うーん、そうかなぁ」

「いや、だってさ……」
「あっ、智暁君、列進んだよ」

 壱星はそう言うと俺の腰を軽く押した。

「……いや、わかってるし。子どもじゃないんだから」
「そっか、ごめん。でもなんか、夢中になって話してる智暁君見てたら可愛くて」
「なんだよ、それ。別にそんな俺は……」

 馬鹿にされているような気がして何か言い返しそうになったが、そもそも壱星はこの映画を観たかったわけではないことを思い出して口を噤む。

 本当はこの映画、蒼空と一緒に観たかった。もしもこれが蒼空だったら、駄作だろうと名作だろうと、映画の感想で何時間も語り合えるのに。

 何をするのだって、蒼空と一緒ならもっと楽しいのに……。

 浮かんでしまった思いを掻き消そうと唇を噛む。蒼空はもう俺の隣にはいないんだという現実を受け入れ切れない自分に腹が立つ。

 その時、前から歩いてくる集団に道を譲ろうとした壱星の肩が俺の腕にぶつかった。

「あ、智暁君ごめん」

 そう言うと壱星は照れたように笑った。

「そういえばね、智暁君。こないだ智暁君が出れなかった地質学の授業なんだけど……」

 途切れてしまった会話を取り繕うように話し始める壱星が健気に見えて、いちいち蒼空を思い出す自分に対してバツの悪い気持ちになっていた。


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