上 下
28 / 37
悟の世界

学校。Ⅲ

しおりを挟む
二人は子供達の方へ歩み寄った。

ミノルはまた、ふと不思議に思った。

なぜ言語が通用するのだろう?これはナオミと始めて会ってからの疑問であった。

しかし、彼にその疑問を解決する方法は無かった。仕方なくその考えを頭の隅に追いやった。

そして別のことを考えなければならなかった。

ナオミの教えている子供は目が見えなかった。

彼にどう読み書きを教えればいいのか見当もつかなかった。

ミノルは初めて、いわゆる障がい者といわれる子供達と出会った。

「ミノルさん!こっちへ来て一緒にお勉強しましょ。言葉は不自由じゃないんじゃなくって?」

ナオミが冗談ったらしく声をかける。それは彼女なりの気遣いであった。

しかし、ミノルは目の見えない子供に対して何を言えばいいのか分からなかった。

そこでさらにナオミが気を利かせた。

「今ね、ミノルさんという男の方が近くに居るわ。彼は口が達者なの。まずは自己紹介からしてもらいましょうか」

ミノルは自己紹介をすることになった。それくらいなら簡単だと思った。

「えー。俺はさっきナオミさんがいったとおり、ミノル。性別は男で、職業は警察官。たぶんサトルの2年後に空から降ってきて、趣味はライトノベルを読むことで・・・」

簡単だと思ったがしかし、この世界での彼の身分は不可解極まりなかった。

「お兄さん不思議なことを言うんだね。ケイサツカン?らいとのべる?僕の知らないことかな?」

目の見えない少年には伝わらなかった。

無論、目が見えようが見えなかろうが伝わらなかっただろうなと思った。

「ふふっ 口達者なこと 彼はね。サトルさんのお友達なの。今日は一緒にお勉強するのよ。」

ナオミは可愛らしくミノルをからかった。

「そ、そうなんだよ。一緒に勉強しよう。」

ミノルにはそう言うのが精一杯だった。

しかし、勉強方法など思いつきもしなかった。

「ミノルさん。彼の手を握ってあげて。そう。一緒に文字を書いて、体の動かし方で覚えてもらうの。」

ミノルは目の見えない子供の手を取った。そして一緒に文字を書いた。

障がいの有無に関わらず伝えるというのは大変な事だと痛感した。

実際、自分が降って来たときもナオミに何を言っているのか理解してもらえなかった。

そう思うとつくづくこのファンタジー世界で自分の言語が通じてよかったと感じた。

そのおかげで今こうして、目の見えない子供に字を教えることができる。

これもある意味、幸せな事だと思った。

自分に障がいが無いからではなく、伝える事の難しさを実感し、そこからどう伝えればいいのか考える事ができる。この自発的な行動ができる事こそが幸せだと思った。

そしてふと思った。目の見えない子供の持っている本には点字が付いていた。

この世界では言語が通じるだけでなく、点字まであるのか!

ミノルは驚き半分、不思議半分だった。

ミノルとナオミが目の見えない子供に字を教えているとサトルが声をかけてきた。

「ごめんね。ちょっとこの口達者なミノルくんを借りていくよ」

サトルは目の見えない子供とナオミにそういうとミノルと一緒に少し離れた場所へ来た。

「どうだい?最初は戸惑うかもしれないけど、普通の子供だろ?子供はかわいいものだね」

サトルはいつもの笑みで言った。

「そうだな。元の世界じゃ障がい者って呼ばれるんだろうけど、ここじゃ普通の子供だ。可愛かったよ。今度は耳の聞こえない子と話してみたいな。どうやって話すんだろう?」

そこまで言うと、サトルは口を開いた。

「今から紹介したい人が居るんだ。彼女が僕を変えてくれたんだ。君の耳の聞こえない子と話したいっていうリクエストにも答えられるよ」

ミノルは驚いた。

それは突然すぎる告白だった。それにサトル自ら紹介してくれるなんて思っても見なかった。

サトルはさらに離れた場所に独特の動きで手を振った。

自分より少し年下くらいの女性が駆けてきた。

「紹介するよ。彼女はユタカ。耳が聞こえない、いわゆる、ろう者だね。」

ミノルは二重に驚いた。

1つは耳の聞こえない彼女があのサトルを変えたと言う事実。

2つはユタカと紹介された女性は元居た世界での自分の部下、青森豊アオモリ ユタカその人だったからだ。



しおりを挟む

処理中です...