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初めましてご両親
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土曜日の昼、両親が家にいる事は確認済みだ。
「なんか不思議な感じ。学校をサボって行くのがハヤトのご両親の所なんて」
自宅の前で話していた。両親に会わせるため、あえてレイには女装してもらった。グレーのニットと黒のロングスカート、ウィッグは肩に掛かるくらい。できるだけ清楚なイメージにしてくれた。
一方の自分は制服だ。高校をサボって居る人間がしていい格好かは分からない。それでもしっかりするための服はまだこれしか無い。人生経験の程度が服装には現れるのかもしれない。
「じゃあ、先に話してくるから合図したら入って来てくれ」
「うん。いってらっしゃい。ハヤト」
家に入ると両親はすでに食卓に着いていた。父親の四角い眼鏡は一層、四角い気がするし、お母さんは皺が増えた気がする。
「お父さん。お母さん。今日は大事な話があります」
腕を組む父親。お母さんは心配そうな表情をしている
「高校の事か? ケンカしたくらいで10日も休むことないだろう。家にもあまり帰ってきてないらしいし」
「いや、今回はそっちじゃないんだ」
そう言うと父親の顔のパーツ全てが中央に寄った。怪訝そうな顔。
「紹介したい人が居ます」
今度はお母さんの方が驚いた。両手を口の前に当てている。
「に、妊娠させたの……?」
父親の方を見て消えそうな声でそう言った。そうなると父親は毅然とした態度を取ろうとする。今にも責任についてお説教を始めそうだ。
「違うから。ある意味一番遠いよ。妊娠からは。レイ入って来てくれないか」
玄関から廊下。足音が徐々に近づくにつれて両親の顔は強張る。
リビングルームの扉が開く。パートナーの登場だ。
「初めまして。お父さん、お母さん。大平麗人です」
両親とも目が大きく開いている。視覚情報と聴覚情報が一致していないのだろう。
レイが席に着く。許可を取ってからマスクを外した。
「ん? 彼女なのか? 妊娠は?」
戸惑う父親には自分で説明したい。
「彼女だし、彼氏だし。俺のパートナーです。付き合っています」
俺たちの間に明確な交際宣言は無かった。それでも泊まったりキスをしたりしているわけだから、付き合って居ると言ってもいいだろう。それが共通認識だった。
「なっ。えぇ?」
父親は奇妙な叫び声とともに立ち上がって頭を抱えた。お母さんは相変わらず両手で口元を抑えている。
それから二人で交際に至るまでの事、レイの事を説明した。
席に着いた父親から質問が飛ぶ。
「それは……。勇人はゲイって事なのか? それで麗人くん、いや麗人さんはトランスジェンダー? 性同一性障害なのか?」
これが当事者でない人の一般的な驚き方かもしれない。
「俺は自分でゲイだと思ったことはありません。たぶん女の子も好きになれます。ただ今は、レイの事が好きで付き合っているんです」
随分キッパリ言い切れた。レイと一緒に居るようになって大分自分の事を話せるようになったらしい。
続けてレイの方から話す。両手は膝の上で握りこぶしになっている。さすがに緊張している様だ。
「ぼくも自分で何かの障害があると思ったことはありません。ただ僕は女装が好きで、ありのままのぼくを認めてくれるハヤトがすきなんです」
真剣な場で言われると胸がときめく。二人で言い合う時よりも説得力がある気がした。
「そう……か。分かったよ。父さんは古い人間だから……。なんて言えばいいのか分からないけど」
それから5秒ほど黙って、ゆっくりと口が動き始めた。
「おめでとう、でいいのかな? 麗人くん、俺の息子と仲良くしてくれてありがとう」
頭を下げる父親を見たのは初めてだった。ずっと下げ続けて、もしかしたら泣いていたかもしれない。
「お母さんはどう?」
お母さんの表情は悪くなかった。話の途中からむしろ楽しげだった気もする。
「そりゃあ……。ショック、と言うより驚いたわよ。普通、息子の母親は将来の孫を期待するでしょ? そういう未来設計が崩れたというか、変わったわけだから」
それを聞くとレイも俺も答え方が分からなくなる。
「でもね。息子が好きな人を連れてきて、嬉しくない母親なんて居ないはずよ。麗人さん。ウチの勇人をよろしくお願いします」
お母さんまで頭を下げた。涙は無い。その代わり笑顔だった。こういう時は父親より母親の方が強いらしい。
「ありがとうございます。お母さん」
そう答えるレイの表情は晴れやかだった。思えば他の人に女装が認められるのは初めてかもしれない。
「お母さん。お父さん。ありがとう」
俺がそう言うと暫く食卓は静かになった。重い沈黙ではなくて、肩の力が抜けるような雰囲気だ。
それから沈黙の中でお母さんが満面の笑みで口を開く。
「それで……。二人はどこまでいったの?」
「お母さん!」
父親と同時に叫んでしまった。
どんな時でも人間は、特に母親は恋の話をしたがるらしい。
「なんか不思議な感じ。学校をサボって行くのがハヤトのご両親の所なんて」
自宅の前で話していた。両親に会わせるため、あえてレイには女装してもらった。グレーのニットと黒のロングスカート、ウィッグは肩に掛かるくらい。できるだけ清楚なイメージにしてくれた。
一方の自分は制服だ。高校をサボって居る人間がしていい格好かは分からない。それでもしっかりするための服はまだこれしか無い。人生経験の程度が服装には現れるのかもしれない。
「じゃあ、先に話してくるから合図したら入って来てくれ」
「うん。いってらっしゃい。ハヤト」
家に入ると両親はすでに食卓に着いていた。父親の四角い眼鏡は一層、四角い気がするし、お母さんは皺が増えた気がする。
「お父さん。お母さん。今日は大事な話があります」
腕を組む父親。お母さんは心配そうな表情をしている
「高校の事か? ケンカしたくらいで10日も休むことないだろう。家にもあまり帰ってきてないらしいし」
「いや、今回はそっちじゃないんだ」
そう言うと父親の顔のパーツ全てが中央に寄った。怪訝そうな顔。
「紹介したい人が居ます」
今度はお母さんの方が驚いた。両手を口の前に当てている。
「に、妊娠させたの……?」
父親の方を見て消えそうな声でそう言った。そうなると父親は毅然とした態度を取ろうとする。今にも責任についてお説教を始めそうだ。
「違うから。ある意味一番遠いよ。妊娠からは。レイ入って来てくれないか」
玄関から廊下。足音が徐々に近づくにつれて両親の顔は強張る。
リビングルームの扉が開く。パートナーの登場だ。
「初めまして。お父さん、お母さん。大平麗人です」
両親とも目が大きく開いている。視覚情報と聴覚情報が一致していないのだろう。
レイが席に着く。許可を取ってからマスクを外した。
「ん? 彼女なのか? 妊娠は?」
戸惑う父親には自分で説明したい。
「彼女だし、彼氏だし。俺のパートナーです。付き合っています」
俺たちの間に明確な交際宣言は無かった。それでも泊まったりキスをしたりしているわけだから、付き合って居ると言ってもいいだろう。それが共通認識だった。
「なっ。えぇ?」
父親は奇妙な叫び声とともに立ち上がって頭を抱えた。お母さんは相変わらず両手で口元を抑えている。
それから二人で交際に至るまでの事、レイの事を説明した。
席に着いた父親から質問が飛ぶ。
「それは……。勇人はゲイって事なのか? それで麗人くん、いや麗人さんはトランスジェンダー? 性同一性障害なのか?」
これが当事者でない人の一般的な驚き方かもしれない。
「俺は自分でゲイだと思ったことはありません。たぶん女の子も好きになれます。ただ今は、レイの事が好きで付き合っているんです」
随分キッパリ言い切れた。レイと一緒に居るようになって大分自分の事を話せるようになったらしい。
続けてレイの方から話す。両手は膝の上で握りこぶしになっている。さすがに緊張している様だ。
「ぼくも自分で何かの障害があると思ったことはありません。ただ僕は女装が好きで、ありのままのぼくを認めてくれるハヤトがすきなんです」
真剣な場で言われると胸がときめく。二人で言い合う時よりも説得力がある気がした。
「そう……か。分かったよ。父さんは古い人間だから……。なんて言えばいいのか分からないけど」
それから5秒ほど黙って、ゆっくりと口が動き始めた。
「おめでとう、でいいのかな? 麗人くん、俺の息子と仲良くしてくれてありがとう」
頭を下げる父親を見たのは初めてだった。ずっと下げ続けて、もしかしたら泣いていたかもしれない。
「お母さんはどう?」
お母さんの表情は悪くなかった。話の途中からむしろ楽しげだった気もする。
「そりゃあ……。ショック、と言うより驚いたわよ。普通、息子の母親は将来の孫を期待するでしょ? そういう未来設計が崩れたというか、変わったわけだから」
それを聞くとレイも俺も答え方が分からなくなる。
「でもね。息子が好きな人を連れてきて、嬉しくない母親なんて居ないはずよ。麗人さん。ウチの勇人をよろしくお願いします」
お母さんまで頭を下げた。涙は無い。その代わり笑顔だった。こういう時は父親より母親の方が強いらしい。
「ありがとうございます。お母さん」
そう答えるレイの表情は晴れやかだった。思えば他の人に女装が認められるのは初めてかもしれない。
「お母さん。お父さん。ありがとう」
俺がそう言うと暫く食卓は静かになった。重い沈黙ではなくて、肩の力が抜けるような雰囲気だ。
それから沈黙の中でお母さんが満面の笑みで口を開く。
「それで……。二人はどこまでいったの?」
「お母さん!」
父親と同時に叫んでしまった。
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