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ころしたい

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 ホームルームが終わった途端、クラスメイトは騒ぎ出した。
「写真って?」
「誰が撮ったんだろう?」
「やっぱり大平くんだよね」
 
 全てがうるさい。耳に入れたくなかった。
 とりあえず今できるのは連絡を取ることだ。

「どうしたの?」
 そう送ろうか。いや、白々しくて嫌かもしれない。ハッキリ状況を伝えてしまおうか。

「写真がバラまかれた。撮ったのは紫織さんだ」
 これもダメだ。犯人を特定しても意味が無い。極端な事を言えば紫織さんを殴りつけても画像はもう回収できない。
 
 そうなると一つしかない。
「あいたい」
 良くなることを祈って、四文字だけを送信した。とにかく会って話すこと。それしかない様な気がした。

「ねぇ勇人。トイレ行こうよ。ケイも一緒に」
 小さい影と大きい影が机に映りこむ。誘ってくれたのはシュンだった。
 すぐに席を立って二人と一緒に教室を出た。今日に限って廊下にやたらと人が居る。誰もかれもがスマホを見ている。とにかく現代は情報が巡るのが早い。ネット上にプライバシーは存在しなくなっている。高速化した現代の弊害だ。

「俺は、麗人くんの事はまだよく知らない。だから心配しているのはお前だ」
 言ったのは圭吾だ。両隣の二人だけはスマホじゃなくて俺を見てくれている。

「俺は大丈夫じゃないか?」
 楽観的な意見だったのか、シュンの顔が一瞬で曇ってしまった。それから小さい声で話し出す。

「正直言って噂は広がるかもしれない。つまり……。ゲイだとか。大平くんと付き合ってるとか。俺はもうそう言うのは卒業したけど」
 シュンは確かに理解してくれた。普通はゲイだとか、バイとか、トランスだとか、人は名前を付けたがる。きっと安心したいからだ。
 でも、俺はそんな事は考えていない。たまたまレイの事が好きだった。女でも好きになっただろうし、男でも好きだ。
 
 トイレに向かって歩いていくと嫌な顔が目に入った。紫織さんだ。あの時見た褐色肌の男までいる。うちの学校の生徒だったのか。
 男の方が口を歪ませてこちらを見ている。

「気にするな」
 圭吾が短くそう言った。ちょうど俺たちとすれ違う。圭吾が一番、アイツに近い。
 近づいていると思うと体が熱くなる。こめかみが締め付けられて血が溜まる。拳の中で爪が掌に食い込んでいる。

「きっしょ」
 確かに聞こえて破裂した。
 右隣の圭吾を突き飛ばす。
「やめとけ!」
「勇人だめだよ!」
 
 二人が制止する音だけ聞こえた。意味はまったく分からない。褐色肌の男は自分よりも背が高い。左手で襟をつかんで顔を引き寄せる。
 自分が何か叫んだ気がした。
 褐色肌の男は左に飛んで倒れている。右の拳が痛かった。
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