22 / 45
世界で一番バカな生き物
しおりを挟む
圭吾の提案を桜子先生は快諾してくれた。物置くらいの広さの空き部屋。中央には木製の机が四つ並んでいる。
そこで俺たち四人は勉強することになった。
いつもの三人にレイが加わる。ちょっと前では考えられなかった。特にシュンが抵抗を示さなかったのが大きい。席に着くや否や、シュンが言い放つ。
「ねぇ、悪かったよ。タイミングが悪くって……。いや、俺が悪い」
「……うん。気持ち悪くない?」
「ないよ。ほんと。キモイのは俺だった」
シュンとレイは向き合って座っている。これでもう大丈夫だろう。男の世界は単純だ。
それにしても俺がレイと居る間、シュンは随分と圭吾に諭されたらしい。圭吾は同級生の癖に父親みたいな男だ。
「じゃあ、勉強するか」
その圭吾が仕切る。俺たちはそれぞれテスト用紙を取り出した。とりあえず英語の小テストの解答を見直すところからだ。
「俺から発表しようかな。20点満点の小テストで、18点だ」
1位は俺じゃなかったか。圭吾も安定していい点数を取る。
「同じだ。俺も18点」
本題はこれからだ。問題は二人の点数。
「せーの。で言わねぇ? 大平……くん」
「いいよ。そうしよう。大場くん」
「「せーの」」
掛け声と同時、机に用紙が投げ出される。20問しかない小さな紙。ほとんど手で隠れているが二人とも潔く、すぐに手を離した。
「あっ」
情けない声をあげたのはレイだ。シュンは逆に口をOの形に開いている。
「2点!? 大平くん……」
「あー。大場くん意外とできるんだ」
視線を右に逸らして俺の方を見るレイ。しかし、出来ると言ってもシュンだって10点だ。赤点は避けられたが、50%しか取れていない。大学生は6割取らないと単位を落とすと聞いたことがある。二人とも落第点だ。
「レイ……。シェークスピアはどうしたんだよ。『ローマの休日』は? 本がぎっちり詰まった本棚も」
要するにテスト対策をしていないのだろう。あれだけ読んだり見たりする能力があるなら、2点なんてことは無いはずだ。
「ごめんなさい」
少し上から頭を下げてくる。
「二人って仲がいいんだな。呼び方とか、部屋とか。空気って言うの?」
シュンの表情は悪くない。不快に思っているわけではなさそうだ。
「うん。Good atmosphere ってやつだ」
「「なにそれ」」
圭吾の英語に二人して同じ聞き方。この二人はそんなに遠い存在ではない気がする。
「雰囲気がいいってさ。今の俺たちだ」
そう言ってやると4人とも笑顔になった。会話には流れがある。仲良くなれそうな流れ。こうなればほとんど友達だ。
それから何とか英語の勉強に持って行った。とにかく単語。これを知らないと文章で何を言われているのか分からない。逆にできれば単語を問われた時、正解できるから2点以上は取れるはずだ。
静かな勉強の最中、レイが唐突に呟く。
「ティッシュってさぁ。日本が一番消費しているんだよね」
テスト用紙を見返すとEnvironmental issues 環境問題という単語があった。そこから連想したのだろうか。
「えー。大平くん。下ネタ?」
何をどうしたらそう取れるのか。シュンがテスト用紙に書き込みながら唸るように言う。
「分かる? 大場くん」
「分かる。じゃあ年間でセックスの回数が世界一位の国、どこだか知ってる?」
何の話だ。ティッシュは環境から連想できるかもしれない。でも回数の話はどこから来たんだ。
「うーん。うーん。どこだろ?」
「英語の勉強より考えてるんじゃないか? レイ」
皮肉を言ってもレイは考えるのを止めない。逆にシュンは楽しそうだ。
「圭吾。なんとか言ってやってくれ」
こういう時、頼りになるのは圭吾だ。小テストの復習もとっくに終わって、タブレットで英語の記事を読んでいた。さすが圭吾。
「あぁ。ギリシャだろ? Greece」
「さすがケイ! 正解」
「えー。圭吾くん凄い!」
思わず自分の額を自分で叩いた。男子高校生は世界で一番バカな生物だ。レイが下ネタを言うとなぜだか俺が恥ずかしい。
「ねぇ。凄いねハヤト」
レイが俺の左肩に手を当てて言う。そんなに感動する話だったのか。
「なんか俺が恥ずかしいよ」
三人が声をあげて笑う。レイはさらに俺の肩を叩く。シュンと圭吾はハイタッチだ。俺もレイの肩を押してみる。服の上から、丸みが分かった。
「ちょっとぉ? ノックしてるんだけど」
声と同時にノックの連打音が聞こえた。ガラス窓から見えるのはアオイちゃんだ。圭吾がすぐに扉を開ける。
「これ、桜子先生が終わったら鍵かけて出てきてって。その後職員室に返して欲しいってさ」
机の中心に古びた鍵が置かれた。そしてアオイちゃんと目が合った。俺の左手はレイの肩の上にある。
「ごめん」
「いいよ。もう」
アオイちゃんにはなんとなくバレてそうだ。レイだけが不思議そうな目でこちらを見ている。
彼女が出て行った後も俺たちは暫く勉強を続けた。勉強が楽しいと思ったのはいつ以来だろうか。
高校生活が楽しい。そう感じるのも初めてかもしれなかった。
そこで俺たち四人は勉強することになった。
いつもの三人にレイが加わる。ちょっと前では考えられなかった。特にシュンが抵抗を示さなかったのが大きい。席に着くや否や、シュンが言い放つ。
「ねぇ、悪かったよ。タイミングが悪くって……。いや、俺が悪い」
「……うん。気持ち悪くない?」
「ないよ。ほんと。キモイのは俺だった」
シュンとレイは向き合って座っている。これでもう大丈夫だろう。男の世界は単純だ。
それにしても俺がレイと居る間、シュンは随分と圭吾に諭されたらしい。圭吾は同級生の癖に父親みたいな男だ。
「じゃあ、勉強するか」
その圭吾が仕切る。俺たちはそれぞれテスト用紙を取り出した。とりあえず英語の小テストの解答を見直すところからだ。
「俺から発表しようかな。20点満点の小テストで、18点だ」
1位は俺じゃなかったか。圭吾も安定していい点数を取る。
「同じだ。俺も18点」
本題はこれからだ。問題は二人の点数。
「せーの。で言わねぇ? 大平……くん」
「いいよ。そうしよう。大場くん」
「「せーの」」
掛け声と同時、机に用紙が投げ出される。20問しかない小さな紙。ほとんど手で隠れているが二人とも潔く、すぐに手を離した。
「あっ」
情けない声をあげたのはレイだ。シュンは逆に口をOの形に開いている。
「2点!? 大平くん……」
「あー。大場くん意外とできるんだ」
視線を右に逸らして俺の方を見るレイ。しかし、出来ると言ってもシュンだって10点だ。赤点は避けられたが、50%しか取れていない。大学生は6割取らないと単位を落とすと聞いたことがある。二人とも落第点だ。
「レイ……。シェークスピアはどうしたんだよ。『ローマの休日』は? 本がぎっちり詰まった本棚も」
要するにテスト対策をしていないのだろう。あれだけ読んだり見たりする能力があるなら、2点なんてことは無いはずだ。
「ごめんなさい」
少し上から頭を下げてくる。
「二人って仲がいいんだな。呼び方とか、部屋とか。空気って言うの?」
シュンの表情は悪くない。不快に思っているわけではなさそうだ。
「うん。Good atmosphere ってやつだ」
「「なにそれ」」
圭吾の英語に二人して同じ聞き方。この二人はそんなに遠い存在ではない気がする。
「雰囲気がいいってさ。今の俺たちだ」
そう言ってやると4人とも笑顔になった。会話には流れがある。仲良くなれそうな流れ。こうなればほとんど友達だ。
それから何とか英語の勉強に持って行った。とにかく単語。これを知らないと文章で何を言われているのか分からない。逆にできれば単語を問われた時、正解できるから2点以上は取れるはずだ。
静かな勉強の最中、レイが唐突に呟く。
「ティッシュってさぁ。日本が一番消費しているんだよね」
テスト用紙を見返すとEnvironmental issues 環境問題という単語があった。そこから連想したのだろうか。
「えー。大平くん。下ネタ?」
何をどうしたらそう取れるのか。シュンがテスト用紙に書き込みながら唸るように言う。
「分かる? 大場くん」
「分かる。じゃあ年間でセックスの回数が世界一位の国、どこだか知ってる?」
何の話だ。ティッシュは環境から連想できるかもしれない。でも回数の話はどこから来たんだ。
「うーん。うーん。どこだろ?」
「英語の勉強より考えてるんじゃないか? レイ」
皮肉を言ってもレイは考えるのを止めない。逆にシュンは楽しそうだ。
「圭吾。なんとか言ってやってくれ」
こういう時、頼りになるのは圭吾だ。小テストの復習もとっくに終わって、タブレットで英語の記事を読んでいた。さすが圭吾。
「あぁ。ギリシャだろ? Greece」
「さすがケイ! 正解」
「えー。圭吾くん凄い!」
思わず自分の額を自分で叩いた。男子高校生は世界で一番バカな生物だ。レイが下ネタを言うとなぜだか俺が恥ずかしい。
「ねぇ。凄いねハヤト」
レイが俺の左肩に手を当てて言う。そんなに感動する話だったのか。
「なんか俺が恥ずかしいよ」
三人が声をあげて笑う。レイはさらに俺の肩を叩く。シュンと圭吾はハイタッチだ。俺もレイの肩を押してみる。服の上から、丸みが分かった。
「ちょっとぉ? ノックしてるんだけど」
声と同時にノックの連打音が聞こえた。ガラス窓から見えるのはアオイちゃんだ。圭吾がすぐに扉を開ける。
「これ、桜子先生が終わったら鍵かけて出てきてって。その後職員室に返して欲しいってさ」
机の中心に古びた鍵が置かれた。そしてアオイちゃんと目が合った。俺の左手はレイの肩の上にある。
「ごめん」
「いいよ。もう」
アオイちゃんにはなんとなくバレてそうだ。レイだけが不思議そうな目でこちらを見ている。
彼女が出て行った後も俺たちは暫く勉強を続けた。勉強が楽しいと思ったのはいつ以来だろうか。
高校生活が楽しい。そう感じるのも初めてかもしれなかった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
鷹が雀に喰われるとはっ!
凪玖海くみ
BL
陽キャ男子こと知崎鷹千代の最近の趣味は、物静かなクラスメイト・楠間雲雀にウザ絡みをすること。
常にびくびくとする雲雀に内心興味を抱いている様子だが……しかし、彼らの正体は幼馴染で親にも秘密にしている恋人同士だった!
ある日、半同棲をしている二人に奇妙な噂が流れて……?
実は腹黒い陰キャ×雲雀のことが大好き過ぎる陽キャによる青春BL!
今日も、俺の彼氏がかっこいい。
春音優月
BL
中野良典《なかのよしのり》は、可もなく不可もない、どこにでもいる普通の男子高校生。特技もないし、部活もやってないし、夢中になれるものも特にない。
そんな自分と退屈な日常を変えたくて、良典はカースト上位で学年で一番の美人に告白することを決意する。
しかし、良典は告白する相手を間違えてしまい、これまたカースト上位でクラスの人気者のさわやかイケメンに告白してしまう。
あっさりフラれるかと思いきや、告白をOKされてしまって……。良典も今さら間違えて告白したとは言い出しづらくなり、そのまま付き合うことに。
どうやって別れようか悩んでいた良典だけど、彼氏(?)の圧倒的顔の良さとさわやかさと性格の良さにきゅんとする毎日。男同士だけど、楽しいし幸せだしあいつのこと大好きだし、まあいっか……なちょろくてゆるい感じで付き合っているうちに、どんどん相手のことが大好きになっていく。
間違いから始まった二人のほのぼの平和な胸キュンお付き合いライフ。
2021.07.15〜2021.07.16
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる