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バッド・モーニング

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 教室の暖房は効きすぎだ。寒がりの子が多いからだろうけど、暑すぎる。朝、来てすぐに制服を1枚脱いだ。今日1日は学校指定の白いセーターで過ごすことになりそうだ。

「よう。勇人。なんか久しぶりだ」
 シュンにしては来るのが早い。朝の出欠確認まであと15分もある。
 圭吾はまだ来ていない。アイツはいつも時間ピッタリに到着する。圭吾より後に来た奴は全員アウトだ。

「2日ぶりだろ。浦島太郎じゃあるまいし」
「いや、そうじゃなくてさ」
 シュンが乱雑に紺色のマフラーを外しながら言う。機嫌がよくない。珍しいしかめっ面。

「最近、付き合い悪くねぇ? って話だよ」
「いや、休日に会わなかっただけだろ」
 
 俺たち3人はよく遊ぶ。もちろん土日にも。ゲームセンター、カラオケ、ファミリーレストラン。意味もなくコンビニやドン・キホーテに繰り出したりもした。でも義務じゃない。なにがそんなに気に入らないのか。

「令和だぞ。スマホ見ないで暮らしてる高校生はお前位だよ」
「え?」
「LINEも返せないくらい忙しかったのか? 俺たちと遊ぶ以外の理由で」
 
 しまった。スマホは見ていない。すっかり学校用のタブレットで連絡を取っていた。スマートフォンの連絡はおざなりだ。
 すぐにバッグにあるスマホに電源を入れる。

「ごめん」
「電源切る位、一人になりたかったのか?」
 心配半分、不満半分の声だった。こんな時に限って電源が入るのは信じられないくらいに遅い。

「いや、本当に別の予定が入ってたんだ」
 かなり苦しい言い訳だ。レイと遊んだのは日曜日。だったら土曜日はフリーじゃないか。
 
 レイの事が気になってシュンの事は思い出しもしなかったんだよ。そう言う訳にもいかなかった。俺とレイが友達になったのもシュンは知らない、圭吾も知らない。クラスの誰も知らないだろう。

「ごめん。シュン」
 電源の入ったスマートフォンにはメッセージ。女の子に殴られた。それがシュンからのLINEだった。
「大丈夫なのか?」
 
 シュンは意外と打たれ弱い。無茶苦茶な女の子遊びをしているからか、男の友達は他に居ない。
 右の頬が赤くなっている。普通に見ればわかる位の痕だった。それなのにすぐに気付かなかった。

「やられたのはメンタルだよ。殴られた後、“あなたは人間じゃない”って。俺は寂しいだけなのに」
 世間から見れば悪いのはきっとシュンだ。でも彼なりの言い分もある。女子と遊びまくる、しっぺ返しを食らう、俺と圭吾に慰められる。でもそれがシュンなんだ。俺は友達としての役目を果たせなかった。

「おはよう。勇人クン」
 状況も知らずに入ってきたのは女子だった。ただ、名前がどうしても思い出せない。
「うん。おはよう」
 座りながら挨拶は返した。ジッと見ても名前が出ない。

「な、なに? そんなに見て。変なの」
「アオイちゃん。今俺たち話してたから……」
 そうだ、アオイちゃんだ。わざわざ俺に挨拶してくる小さな顔の女の子。

「おはよう。ハヤト」
 男とも女とも取れるような声。レイ。いや、大平麗人が入ってきた。タイミングは良くなさそうだ。
「おはよう。麗人」
 一応そう返す。どちらにも気を配った中途半端な挨拶だ。

「え? なに? 二人って仲良かったっけ?」
 言ったのはアオイちゃんだ。すぐ声に出す。こちらの事情も知らないで。

「俺じゃなくて、オカマがいいんだ」
 シュンが小さくつぶやいた。最悪だ。本当に最悪のタイミング。この距離だ、聞こえていない訳がない。
 レイは顔色を悪くしてすぐに自分の席に向かってしまった。

「おはよ」
 次に聞こえたのは低い挨拶。来たのは圭吾。つまり朝のホームルームが始まる時間。
 
 シュンもアオイちゃんも自分の席に戻ってしまった。とにかく今日の朝は最悪だ。
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