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教室に2人で

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「昨日ゲームセンターに居たのって勇人くんだよね?」
 静かな教室に2人。
 以前、音楽室で話した時とは違う嫌な緊張感があった。

「うん」
 前から話したいと思っていたのに、話すとなると難しい。
 状況が変な方向に変わってしまったからだ。

「じゃあ言いたい事、分かってくれるよね?」
「黙っててほしいって事?」
 こんな会話、するつもりじゃなかった。

「そう。そうだよ。桜子先生の話、聞いてたでしょ?」
「スカートの事だろ。別に俺は校則違反だ、なんて言わないよ」
「違うよ」
 大平麗人の目が潤んで、赤くなっていた。

「じゃあ、何が問題なんだ?」
 問い詰めるような聞き方も本当はしたくなかった。
「感じたでしょ? あの雰囲気。みんな男子が女子みたいな格好するの、嫌なんだよ。気持ち悪いって思ってるの」
「そんなことない。……。そんなことないよ」
 沈黙が訪れる。お互い、俯いてしまった。何が正解なのか分からない。俺が本当に言いたいことはなんだろう。
 大平麗人が扉の方を横目で見た。怒って帰ってしまうかもしれない。
 なにか言わないと終わってしまう。

「その……。可愛かったよ」
「えっ」
 顔は上げられない。大平麗人はどんな表情をしているだろう。
 昨日ナンパして、今日言うセリフは可愛いだなんて。しかも真剣な話の最中に。
「ほんとに……。カワイイと思って声かけてくれたの?」
「うん。ほんとに可愛かった」
 言ってしまった。でも、ようやく顔を見ることができる。
 
 良かった。泣いてはいない。
 ただ、俺が女装姿を見たことに変わりはない。
 安心させてあげたかった。
「嫌なら、他のヤツには言わないよ。シュンと圭吾も気づいてない」
「そっか……。それなら」
 だいぶ落ち着いた様子だった。さっきまで張っていた肩が下りてきている。
「そ、それと本当に言いたかった事がもう一つあるんだ」
「なに?」
 校則とか、女装とか、こんな風に話すつもりじゃなかった。
 ただ、最初からこの一言が言いたかった。音楽室の時も、持久走の時も。

「友達に、ならないか? 俺たち」
「と、友達?」
「嫌? 嫌ならぜんぜん……」
 嫌なら忘れる。ずっと気になっていた事も、『エリーゼのために』も、ラダイト運動の答え方も全部忘れる。
「い、いいよ。友達になろう。ぼくで良ければ」
 肩から力が抜けるのを感じた。
 緊張した。告白してくれた女子たちも同じように緊張したのだろうか。

「よかった。じゃあLINE教えてくれないか? 連絡取れれば、遊ぶ予定とか」
「待って」
 ピシャリと言われて止まってしまった。
「ぼくLINEやってないから」
「えっ」
 もしかして、振られたのか。連絡先を聞くのは早かったのか。
 シュンや圭吾は簡単に交換してくれた。麗人はもっと慎重派なのか。

「あっ。ちがう、ちがう。本当にやってないんだ。だから、こっちでやり取りしよう」
 大平麗人が指さすのは机の上の端末だった。学校から配られるタブレット。たしかにこれでも連絡は取れる。
「そ、そっか。ごめん俺、さっきから勝手に盛り上がって」
「いいよ。ぼくも友達ができて嬉しいし」
 
 それからお互いの端末を使ってメッセージのやり取りができることを確認した。
 その時見えた大平麗人の画面には様々なアプリが通知と一緒に溢れていた。整理整頓は苦手なのだろうか。

「今日はなんだか疲れちゃったから、別々に帰ろう」
「そっか……。そうだな」
 
 ほっとして椅子に座った。話したいこともまだ纏まっていない。今日は別れた方が好都合だ。

「それとね。ぼくは麗人よりもレイって呼んで欲しいんだ。女装してるときはそう名乗ってる。もちろん、バレちゃダメだよ」
「それって、二人だけの秘密って事か?」
「まぁそんな感じ。友達に言わないでくれてありがとね。それじゃ」

 大平麗人。いや、レイは微笑ほほえんでから帰っていった。
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