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ぼくはこんなに好きなのにⅢ

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 深夜バイトを終えるともう他に何かする体力は全く無くなる。吉田進は世界のことを全て忘れ、眠りに就いた。
 起きてからスマートフォンを確認すると1件の連絡が目に付いた。
 “いいね”に笑顔の絵文字。山崎ハルからの返答だった。一読すると体に溜まった疲労が霧散した。ハルとの距離がまた一歩縮まった。吉田は勝手にそう思った。
 そうだ、昼食を自分で作って写真を撮ろう。そしてまたLINEで送ろう。今度はもっと良い反応があるはずだ。
 仮説に楽観論を上乗せして吉田はあの返事を解釈していた。
 吉田は陽気な顔で料理を始めた。牛乳、バター、ベーコン、パスタ、卵。作ろうとしているのはカルボナーラだ。以前までスーパーの売れ残り弁当を買い漁っていたのだが、ハルの気を引くため料理に挑戦し始めていた。
 パスタを茹でながら吉田はハルの顔を思い浮かべる。
 吉田とハルは同じ大学の経済学部で一緒だった。ある時、グループを組み資料を作り発表すると言う課題が出された。偶然にも吉田はハルと同じグループだった。
 すぐにハルのほがらかな顔と、適度に肉の付いた身体に吉田はかれた。資料制作の共同作業を進めていく間にはハルの積極性に憧れを抱くまでになっていた。
 吉田達が在籍していたH大学は偏差値が低く、生徒たちも自虐的に「H大のHは敗北者のHだ」等と言って笑っていた。しかしハルはH大学出身であることを気に留めず、有名企業へと入社した。芯の強いハルに吉田が惹かれないハズは無かった。
 そして吉田自身はH大学出身という引け目から殻を破れず、今も深夜の清掃バイトという立場に甘んじている。
 パスタを作り終え、白い皿にカルボナーラを盛り付けるとバシャバシャと音が出た。
 さっそく吉田は写真を撮ってからメッセージを飛ばした。
 ”料理作った” ”写真” ”どう?” もちろん反応は無い。
 夜になって仕事が始まっても反応は無かった。ハルの終業時間は過ぎている頃だ。こちらに気を使って返してこないだけだろうか?
 今、ひまだよ。としばらくしてから仕事の合間に打って送った。
 スマートフォンから目を離すと、あの良くしてくれる中年女性が清掃道具を片付けている事に気が付いた。
「明日ね、彼氏とデートなの」 
 お疲れ様ですと返事をしながら吉田は焦った。
 反応が無いのはハルに彼氏がいるからではないだろうか? そう思うとのどが閉まってモップを上手く持てなくなった。
 “もしかして、彼氏いる?”
 吉田はまたメッセージを送ってしまった。
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