34 / 35
34. ようやく
しおりを挟むあれから俺は、見舞いの後に山城さん家族の元で夜を過ごすこともあった
話した事で軽くなっても完全に不安な気持ちが無くなったわけではない
でも、あの時以上にマイナスな方に考える事はなくなった
その日もいつもの様にランチ営業のバイトに入っていた
ピークも過ぎ落ち着いたタイミングで休憩に入れば一通の不在着信
それは、あの時交換していた竣くんの父親、雅也さんからだった
急いで折り返し電話を掛ければ「結さん!?すぐに病院に来れますか!!?」と酷く慌てた様子に心臓が大きな音をたてた
まだ何か話していた気がするけど、俺は着ていたエプロンを脱ぎ捨て、休憩室に入ってきた凪くんに「病院行かなきゃ!」とままならない説明のままお店を出て走った
病院までの距離は歩けば30分程
1秒でも立ち止まる時間が惜しくて、、、
苦しい、、、息が上手く出来ない、、、
それでも、、早く彼の元に向かいたくて
俺はただひたすらに走った
乱れた息のまま辿り着いた病院の中を早足で移動する
すると見えた竣くんの両親の姿
俺の姿に気付いた2人が慌てて近寄り俺の手を取る
その目には涙が浮かんでいて、、、
バクバクとさらに早くなる鼓動に俺は深く息を吸って吐いた
そんな、俺の耳に届いたのは
「さっき、、、竣の目が覚めたんだ」
ずっと待ち望んでいた言葉だった
俺はその場にへたりと座り込み「よかった、、、よかった」と同じ言葉を繰り返した
そんな俺に竣くんの両親も頷きながら「ほんとによかった、、」と言葉をもらす
そのまま俺を立たせ近くの椅子へと座らせればお医者さんから聞いた話を伝えてくれた
今はまた眠ってしまったけど、しばらくしたらまた目を開けてくれるだろうという事だった
その後新たに移動した病室へと案内してもらいベッド横の椅子に座り再び目を開けてくれるその時を待った
それからどれだけの時間が経っただろう
握っていた竣くんの手が動いた気がして名前を呼ぶ
「竣くん!!?」
俺のその声に反応するかのように指が動く
その手をギュッと握りもう一度名前を呼ぶ
するとゆっくりと目を開け動く視線
乗り出すようにして竣くんの顔を覗き込めばその視線が俺を捉えた瞬間、力なく笑った
「竣くん、、、よかった、、、」
そう言えば、握られていない方の手を上げれば、その手がそっと俺の頬に触れた
「なかな、、いで、、、」
頬に触れた竣くんの手に擦り寄りながら「お前が、、心配させるから、、、」そう言えば眉を下げながら「ごめんね。」と謝る
「ほんとに、、、よかった、。毎日、、不安で仕方なかったんだからな、、、、」
「ごめんね、、、」
「ずっと、、俺のそばにいろよ、じゃなきゃ許さない」
「もちろんだよ、ずっと、、結さんのそばにいる。」
竣くんの目が覚めてから半年
骨折していた足も完全に治り、やっと普通の生活に戻ってきた
そして今日、今まで住んでいた家から新しい家へと引っ越した
「結さーん!荷物全部運び終わりましたよ!」
「あぁ、ありがとう。それにしても治ったばかりなんだからあまり無茶するなよ、、、」
「分かってますよ!無理はしてないです!!」
そう言いながら俺の横に立てば部屋の中を見渡し「今日からここで一緒に暮らせるんですね、、」と嬉しそうに呟く
「結さん、これからよろしくお願いします。」
「ふふっ、、こちらこそよろしくな。」
「あぁなんですかその笑顔、、可愛すぎます」
そう言って俺に抱きつけば「俺、ほんと幸せです。」俺の肩に頭を押しつけながらそう言った
そんな竣くんの背中に腕を回し抱きしめた
「俺も幸せだよ。好きになってくれてありがとう。」
その時だった
感じた身体の違和感にビクッと反応する竣くん
「結さん、、、この匂い、、、」
「んっ、、ヒート、、きたみたい、、、、」
すると俺の顔を覗き込み
「今日、結さんの全て、、貰ってもいいですか?」
と聞いてくるその口にそっと自分の唇を重ねた
𝓯𝓲𝓷
21
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
俺にとってはあなたが運命でした
ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会
βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂
彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。
その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。
それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
絶滅危惧種オメガと異世界アルファ
さこ
BL
終末のオメガバース。
人々から嫌われたオメガは衰退していなくなり、かつて世界を支配していたアルファも地上から姿を消してしまった。 近いうち、生まれてくる人間はすべてベータだけになるだろうと言われている。
主人公は絶滅危惧種となったオメガ。
周囲からはナチュラルな差別を受け、それでも日々を平穏に生きている。
そこに出現したのは「異世界」から来たアルファ。
「──俺の運命に会いに来た」
自らの存在意義すら知らなかったオメガの救済と、魂の片割れに出会う為にわざわざ世界を越えたアルファの執着と渇望の話。
独自のオメガバース設定となります。
タイトルに異世界とありますがこの本編で異世界は出てきません。異世界人が出てくるだけです。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
Endless Summer Night ~終わらない夏~
樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった”
長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、
ひと夏の契約でリゾートにやってきた。
最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、
気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。
そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。
***前作品とは完全に切り離したお話ですが、
世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》
市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。
男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。
(旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる