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25. 最後
しおりを挟むガチャンいう玄関の閉まる音で目を覚ました俺は体を起こし辺りを見渡した
そこに竣くんの姿はなく、携帯に一通のメッセージ
[仕事があるので失礼します。鍵は閉めて郵便受けに入れてます。]
そのメッセージに [ごめんね、ありがとう。] と返し、サイドテーブルに置かれていた水を飲み昨日の事を思い出す
ちゃんと気持ちを伝えられると思ったのに、、、
まさかあのタイミングでヒートを起こすなんて
でも、、、そっと自分の唇に触れる
「きす、、、したよな、、、」
何度も重なり合って夢中でした姿を鮮明に思い出し思わず顔が赤くなる
それに俺、あの時なんて言った?
自分で言った言葉にさらに赤くなる顔を抑えるけど、すぐに冷静になる
あの時、俺の言葉を聞いた竣くんは確かに俺の肌に触れた
俺の肌を這う唇の感触も確かに感じていた
だけど、、、それ以上はなかった
ただただ俺の欲を発散させる、それだけだった
分かってる
好きを伝えただけで竣くんから同じ気持ちをあの時返されたわけじゃない
恋人同士になったわけじゃない
だから、、、それ以上の行為がない事は当たり前
それなのに、、それを残念に思う気持ちが隠せなくて
"俺は、恋人として竣くんとこれからも一緒にいたいと思ってる"
「あの時、そう言いたかった、、、」
それからバイト先に連絡を入れ念の為休みを貰った
急な休みの連絡にも関わらず快く承諾しただけでなく「不安だろうし、2、3日休んでも大丈夫だよ。」そう言ってくれ、接客中にまたヒートがきては困るし何より迷惑がかかってしまうと思った俺はそのまま連休を貰う事にした
まだ怠さの残る体を動かしシャワーを浴びようとベッドから立ち上がった時、服装が昨日と違う事に気付いた
自分自身で着替えた記憶なんてなくて
汚れたであろう俺の服を着替えさせ綺麗にしてくれた竣くんの優しさに胸が高鳴ると同時に苦しくなった
好きと伝えた時の切なそうに笑うあの表情が蘇る
「諦めないといけないんだよな、、、、」
そう呟き暗くなる気持ちを早く流してしまおうと浴室へ向かった
シャワーの後には昨日の片付けでもしようとキッチンに向かえばそこも綺麗に片付けられていて、、、
すると着信を知らせる音楽が聞こえ慌てて寝室へ行き画面を確認すれば竣くんで
「もしもし!」
「あっ、結さん、今大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。」
「体調はどうですか?」
「平気だよ。」
「それなら良かったです。それで、その、今夜空いてますか?」
「えっ?」
「昨日、最後まで話聞けていないので結さんが大丈夫なら、、、」
「いいの?」
「はい。」
「ありがとう、来てくれたら嬉しい。」
「それじゃあ仕事が終わったら連絡します。」
「分かった。お仕事頑張って、」
「ありがとうございます。」
そう言って電話が切れた
俺はすぐに冷蔵庫の中を確認し作れるものを頭の中で考えていく
すぐに調理に取り掛かり何品か作り上げた
夢中で作っていた事もあり気付けば時刻は夕方を指していて慌てて残りの家事を終わらせる
19時を回った頃に [終わったので今から向かいますね] と連絡が入りソワソワと待っていれば部屋に響くインターフォンの音
駆け出したくなる気持ちを抑えながら迎え入れる
「昨日、迷惑をかけちゃったから、、、時間もあったし夕飯作ったんだ。よかったら食べないか?」
リビングにやってきた所でそう声をかければ「昨日の事は気にしなくてもいいのに、、、でも頂きます。」と笑顔で応じてくれた
そして、昨夜と同じように和やかな雰囲気で食事をした
お互い昨日話した内容にはまだ触れず、最近やっていたドラマの話や仕事の話を交わす
でも、ソファに座れば竣くんの表情は変わった
それでも俺は昨日と同じように自分の気持ちを伝えた
「昨日も言ったけど、俺は竣くんの事が好きだよ。これから先も一緒にいたいと思うし、出来るなら恋人として過ごしたい。」
真っ直ぐに目を見つめ昨日言えなかった事も伝える
「結さんが、俺の事を好きと言ってくれて嬉しいです。でも俺は、、、それに応える事が出来ないです、、、」
その声は震えていて、、表情は今にも泣き出しそうだった
「理由聞いてもいいかな?」
「それは、、、、言えないです。」
「そっか、、。」
「すいません。」
「竣くんが謝る事はないよ。」
「でも、、、、」
「時間作ってくれてありがとね、話聞いてもらえてよかった。」
「、、いえ。」
「これからも友達としては仲良くしてくれる?」
「、、それも無理かもしれません。」
「その理由も言えない?」
そう問いかければこくりと頷く姿に痛む胸
「あと一つだけいいかな?」
「はい」
「俺の事嫌いになった?」
「それは、、、ないです、」
「そっか、、ならよかった」
本当は何も良くないのに、、、
それならどうして断るの?
どうして友達でいる事すら無理なの?
今にもそう問い詰めてしまいそうになる
でも、最初に拒絶の姿勢をみせた自分が言えることではないから、グッと唇を噛み締めながら耐えるしかなかった
長い沈黙が2人を包んだ
そして何時間と感じたその沈黙を破ったのは2人同時だった
「「あの!」」
「竣くんからいいよ。」
「いや、でも、、、」
「いいよ気にしないで」
「ありがとう、ございます、、俺明日も仕事なんで、そろそろ帰ろうかと、、」
「あーそっか、、」
「はい。あの、結さんは?」
「いや、俺のは大したことじゃないから平気」
「ほんとですか?」
「うん。仕事終わりで疲れてるだろうに来てくれてありがとね。」
「それは、ほんと大丈夫なんで」
そう言いながら立ち上がる竣くんにつられて俺も立ち上がる
見送る為に一緒に玄関へ向かい靴を履く後ろ姿を眺めながら「もう会えないのかな....」小さな声で問いかけた
「そうですね、、」
「そっか。分かった。」
「すいません。」
「謝らないで、、」
そう言った声は震えていたと思う
今にも溢れだしそうな涙をグッと堪えて、いつの間にか振り返り向き合っていた竣くんに何とか笑顔を作り
「今までありがとね、、、」
そう言った瞬間強い力で抱きしめられた
「ほんとに、、ごめんなさい、、、」
最後にまた謝罪の言葉を残して竣くんは行ってしまった
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