with you

あんにん

文字の大きさ
上 下
19 / 35

19.

しおりを挟む


 「じゃあまたな。来年も来るだろ?」
 「あぁ、行くよ。またな」

  翌日、一緒に昼食をとったあとに優希は帰って行った
  駅まで見送った帰り道、少しだけ道を外れて竣くんの働いている美容室の前を通る
  お店には何名かのお客さんがいて接客している竣くんの姿が見えた
  あの人懐っこい笑顔で話しながら動く手先
  自分も切ってもらうようになってから何度か目にしているはずなのに、改めて見るその姿に何だかドキドキして俺は足早に通り過ぎた

  その後も変わらず竣くんとは仲良くしていたけど、優希の言葉がずっと頭にあった俺は勝手に気まづさを感じていた

  竣くんの事は好きだ
  心許せる人であり、何かあれば力になりたいと思うし頼って欲しい
  これからも一緒に過ごしていきたいと思ってる
  だけどそれが恋愛としてなのか分からない
  彼が俺を好きと言った気持ちと同じ好きなのか分からない

  今年も竣くんの方から「どうしますか?」と訊ねられた
  彼と冬を過ごすのは今年でもう4度目
  
 「自分の気持ち、ちゃんと整理しなきゃな....」



 「結さーん!時間やばそうです、、、」
 「まじか、、」

  弁当を買ったはいいもののレジが混んでいて思いがけず時間ギリギリになってしまい、駆け足でホームへと向かう
  
 「良かった」

  何とか乗り込み席につき一息つけば竣くんがホッとした顔で呟いた

 「ほんと間に合ってよかった。」
 「久しぶりにこんなに走りました。」
 「俺もだよ、、、それに竣くんに比べたら俺はもうおじさんだからね、つらい。」

  なんて自嘲気味に言えば「結さんはおじさんなんかじゃないですよ!全然そうは見えません!」なんて勢いよく言われてしまい思わず面食らってしまった

 「竣くん、ちょっと落ち着いて、、、」
 「あっ、すいません。」
 「大丈夫だよ、勢いには驚いたけどね」
 「ほんと、すいません」
 「でもそっか、竣くんにはまだ少しだけ若く見えるのかな。ちょっと嬉しい」
 「結さんは見た目もそうですけど、ノリもいいですし一緒に居て楽しくて、全然おじさんなんて、、俺は一度も思ったことないです。」
 「ふふっ、そっかそっかありがとね。」

  笑いながらそう言えば、「いえそんな....」と言いながら顔を背けた
  少しだけ見えたその顔はほんのり赤くなっていて、思わず "可愛いな" そう思った

  ホテルに着き荷物を置けば、毎年恒例となった思い出の地を巡る
  俺の横に並んで楽しそうに歩く姿に思わず笑みが溢れる
  気になるお店や物があれば全て声に出して呟く彼を見るのが楽しくて眺めていれば、静かな俺を不思議に思ったのか、それとも視線に気付いたからなのか、「どうしたんですか?」そう言いながら俺に視線を合わせ問いかけてきた

 「んー?どうもしないよ」
 「でも、、、さっきから凄い視線を感じます。」
 「楽しそうに歩く竣くんが可愛くてね」
 「えっ、、なに言って、!!」
 「顔が赤いよ竣くん」
 「結さんが変な事言うからじゃないですか!」
 「変な事じゃないよ、思ったから言っただけで」
 「なっ!だから!それが、、、」
 「楽しいね、、」
 「まぁはい、、それは、、そうです。」
 「ふふっ、そろそろ戻ろっか。」
 「はい。」

  何だか少し納得のいっていない顔をした竣くんとホテルに戻った後はそれぞれ自由に過ごし、翌日俺は1人であの場所へと向かった

  近況報告だったはずが気が付けば竣くんの事を話している自分に気付く
  少しづつ大きくなってきているこの気持ち
  15も歳が離れた俺がこのままこの気持ちを育てて彼に伝えてもいいのか
  アルファの男とオメガの男
  この世界では一緒になる事になんら不思議は無い
  誰もがきっと祝福してくれるだろう
  でも15の歳の差、それが加わればどうなるだろう
  もう40となった俺では子は望めない
  それは20代の彼に酷ではないだろうか
  やっぱり同年代の方が、、、
  うじうじと心の中で考えていれば風が吹き、供えた花の香りがした
  顔を上げれば再び吹く風に花の香り
  都合のいい考えだと思う
  でも、何だかあきらが背を押してくれた気がして、、、

  "とりあえず、向こうに戻ったら今の自分の正直な気持ちを彼に伝えよう"
 
  そう決意しホテルへ戻った

  翌日、駅まで見送りに来てくれた優希と挨拶をして乗り換え駅へと向かう
  そのまま、一緒に帰ると思っていた竣くんは「休みがあと数日取れたので、久しぶりに俺も帰省しようと思って...」そう言われた

 「そっか、言われてみれば竣くんが帰省してるの一度も見てないかも、、、」
 「はい、なんで親からも少しは帰ってきてもいいんじゃないかって言われてて、、、サプライズで帰ってみようかなって。」
 「いいね。喜ぶと思うよ。」
 「はい。じゃあ俺は向こうなんで、、、お土産買ってきますね!」
 「楽しみにしてる。後さ、その、、、戻ってきたら話があるんだ。」
 「?、、分かりました。じゃあまた帰った時に。」
 「うん、気をつけて」
 「結さんもお気を付けて」

  そう言って別れた次の日からだった
  彼と連絡が取れなくなったのは


  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺にとってはあなたが運命でした

ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会 βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂 彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。 その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。 それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

絶滅危惧種オメガと異世界アルファ

さこ
BL
終末のオメガバース。 人々から嫌われたオメガは衰退していなくなり、かつて世界を支配していたアルファも地上から姿を消してしまった。 近いうち、生まれてくる人間はすべてベータだけになるだろうと言われている。 主人公は絶滅危惧種となったオメガ。 周囲からはナチュラルな差別を受け、それでも日々を平穏に生きている。 そこに出現したのは「異世界」から来たアルファ。 「──俺の運命に会いに来た」 自らの存在意義すら知らなかったオメガの救済と、魂の片割れに出会う為にわざわざ世界を越えたアルファの執着と渇望の話。 独自のオメガバース設定となります。 タイトルに異世界とありますがこの本編で異世界は出てきません。異世界人が出てくるだけです。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった” 長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、 ひと夏の契約でリゾートにやってきた。 最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、 気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。 そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。 ***前作品とは完全に切り離したお話ですが、 世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。 男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。 (旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...