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あんにん

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7. 分からない気持ち

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  一人で過ごす辛く苦しいヒートが何とか終わりを迎え、俺はバイトへ向かう前に隣の扉の前に立っていた

  意識は朦朧としていても竣くんにお世話になった事はちゃんと覚えている

  "お礼はするべきだよな..." そう思いインターホンに手を伸ばした
  だけど留守なようで反応はなくて、、、

  "夜また来てみるか、、、" そう思いバイトへ向かった

  
 「おはようございます。」

  ヒートによりいきなり数日のお休みを取ったにも関わらず「「おはよう」」といつもの様に優しく迎えてくれた

 「急にお休みする事になってすみません。」
 「気にしないで、ヒートだったんでしょう?謝ることじゃないわよ。」
 「もう平気なのか?」
 「はい、大丈夫です。」
 「それならよかった。じゃあ今日もよろしくね。」
 「はい、」

  平日ということもあり、1日穏やかな客足で営業が終われば「片付け、今日は大丈夫だから早く帰って休んで。」まみこさんからのその言葉に甘えて、いつもより早めに家路についた

  エレベーターを上がり部屋に向かえば竣くんの部屋の前で管理人と何やら深刻な顔で話している姿が見えた

  "何かあったのだろうか..." 少し気になりながら足を進めれば話を終えたらしく、管理人が俺に気づき声をかけてきた
  
 「あぁ花白さん、丁度いい所に。実は水漏れ被害の報告があってね、、、多分大丈夫だと思うけど花白さんのとこは平気かな?」

  その言葉に「すぐに確認してみます。」そう言って急いで鍵を開け扉を開き中を確認する
  見てみれば朝出た時と変わらない様子にホッと胸を撫で下ろし外にいる管理人さんへ報告をする

 「うちは大丈夫みたいです。」
 「そっか、よかった」
 「いえ、大変ですね。お疲れ様です。」
 「ありがとう。じゃあもし何かあったらすぐに連絡してね。」
  
  そう言えばすぐにその場を後にした
  家の中へ戻りリビングへ来た所で朝、竣くんにお礼を伝えられなかった事を思い出し再び外に出れば、キャリーケースとボストンバッグを持って外に出てきた竣くんと鉢合わせた

  「あっ、」予想外の大荷物を持っての登場に思わずそんな声が漏れればこちらに視線が向けられて、、、

 「あっ、花白さん。こんばんは」
 「こんばんは、、、どうしたの?その荷物」
 「あー、、、仕事終わって帰ったら部屋が水浸しになってて、、、」
 「水漏れ被害って竣くんだったんだ....」
 「まぁ、はい。」
 「行くあてはあるの?」
 「適当にネカフェでも探そうかと、、実家はちょっと遠いんで、、、じゃあ行きますね。」

  そう言ってバッグを持ち直し背中を向けた竣くんを思わず呼び止めた
  そして「よかったら家くる?」そう言っていた

  その言葉に「えっ?」と驚きの声を出す竣くんに負けじと自分自身も驚いた
  気付けばそう言っていた
  自分が発した言葉なのに
  なんでそんな事を言ったのか分からなかった
 
  だから「ヒートの時に迷惑かけたから、そのお礼」それらしい理由を告げ、彼を自分の家へ招き入れた


 「お邪魔します、、」

  そう言って恐る恐る足を踏み入れる竣くんに「どうぞ」そう言いながらリビングへ案内する

 「ほんとに、いいんですか?」

  遠慮がちに問いかけてくる竣くんに「いいよ」そう軽く返せば「なんで、、、」と不思議そうで
  
 「お礼だよ。ヒート起こした時に家まで連れてきてくれたでしょ?助かったから、、だから、、、」
 「でも、ここまでしてもらう程じゃ、、、」
 「こんな大荷物で行くあてないのを知ったらまぁ、心配だし、、」
 「でも俺、男だし。野宿になったとしても平気ですよ」
 「ダメだよ。いくら男だとしても世の中には色んな人がいるんだから、、、」
 「そう、、です、かね?」
 「そうだよ、とりあえず気にしなくていいから。それとも嫌だった?」
 「いえ、俺はとてもありがたいです。でも、自分に告白してきた奴なのに、、、いいんですか?正直俺まだ諦めきれてないんでこんな優しくしてもらったら浮かれてしまいます。」
 「それは、、、」
 「ごめんなさい。これ言うのは良くなかったですね。やっぱり俺、どっか探しますから。」

  そう言って降ろしていた荷物を手に取り玄関へ向かう
  その背を慌てて追い俺は竣くんの服を掴んだ

 「花白さん?」
 「いい、大丈夫だから、、いなよ。」
 「ほんとにいいんですか?俺、諦めなくていいのかなって期待しますよ。」

  俺の顔を覗き込みながら再度確認を取る竣くんに俺は変わらず何も応えられなくて

  何でこんなにも彼を引き止めてしまうのだろう
  彼の気持ちに応えられないくせに期待をもたせる事をして俺は何がしたいんだろう
  分からなくて、、、

  ただ "まだ諦めきれていない" その言葉にほんの少しの嬉しさを感じてしまった俺は最低だ

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