with you

あんにん

文字の大きさ
上 下
6 / 35

6. 一目惚れ [ 竣side ]

しおりを挟む


  専門学校を卒業し、4月からの新生活に向けて一人暮らしを始めた

  なりたかった美容師の仕事は大変だったけど、先輩の担当したお客さんが皆嬉しそうにお店を後にする姿に俺も早くそうなりたいなんて思ったりして
  施術を近くで見させてもらいながら勉強する毎日はやりがいで溢れていた
  仕事だけを見れば充実していると思う


  自宅のあるマンションに近付けば無意識に探してしまう自分に嫌気がさす
  
 「はっきりと振られたくせに何してんだろうな....」

  引っ越した日に俺は一目惚れをした


  荷物を全て運び終えた時にはお昼を過ぎていた
  
  "早めがいいかな..." そう思い用意していた菓子折を持ってお隣のインターホンを押すが反応がなくて、、、
  1、2分ほどしても反応がなかったから改めようと部屋に戻り荷解きに取り掛かった

  時間も忘れて夢中でやっていれば微かに足音が聞こえ慌てて箱を持ち飛び出し声をかけた

  俺の突然の登場に鍵を開けながら驚いた表情を見せたお隣さんに慌てて謝罪をする

  渡した菓子折りをお礼と共に受け取って貰え安堵しながら自己紹介をすればお隣さんもしてくれて、「よろしくね。」なんて言って貰えたのが嬉しかったから思わず気持ちが高鳴ってしまってつい大きめの声を出してしまった

  そんな俺にやんわりと注意をした後に花白さんはクスッと笑ったんだ
  その笑顔に思わず惹かれてしまった
  もう少し話したいな、そう思ったけど「バイトで疲れてしまったから、、」その言葉に言いかけた言葉を飲み込んで別の言葉を口にする

  もう一度お礼の言葉を言いながら笑顔を見せた花白さんに俺の胸は音を立てた

  部屋に戻った時には、自分が最後になんて言って別れたのか記憶になかった
  残っているのは彼の、花白さんの笑顔だけで、、、

  仲良くなりたいな、何歳なんだろう、恋人は居るのかな

  そんな事ばかりが浮かんでは消えてを繰り返していた

  そんな日から数日後、買い物にでも行こうかと家を出たタイミングで隣の扉も開かれた
  嬉しくてつい勢いよく挨拶をしてしまった
  だけど花白さんは、嫌な顔をすること無く返してくれたから問いかけた

  スーパーへ行くという花白さんに、一緒に行きたいと白々しい理由までつけてお願いすれば了承してくれて
  ずうずうしいと思われたかもしれない、でも少しでも近づきたかった

  スーパーに着けば何かないかと探し回り一つの商品が目に止まる
  それを持ち姿を見つければ、名前を呼びながら近付く
  お昼一緒に食べれたら、そう思いながら話しかけるけどこれは見事に断られてしまった、、、
  
  でも一緒にスーパーへ行く事を許してもらった俺は調子に乗ってしまったんだ
  何かと理由をつけては誘い続けた
  断られても、次はもしかしたら!なんて考えて花白さんの気持ちを何も考えていなかった

  その日はマンション前でたまたま帰宅のタイミングが被った嬉しさでそのまま夕飯をお誘いした
  
  いつも通り断られるかな....そう思っていた俺の耳に届いたのは「君もしつこいな。いつも断っているんだからいい加減気付いてくれないか?俺は君と隣人以上の付き合いをする気はないんだ。」だった

  冷たい口調でそう話す花白さんの顔を見れば酷く疲れた顔をしていて、、、

  "やってしまった..." 

  どうしてもっと早く気付かなかったのだろう
  自分の今までの行動がどれだけ自分勝手だったのか
  気付いた時にはもう遅くて

  何も言えずにいる俺に、変わらず冷たい口調で "距離感を考えて" なんて言われて
  花白さんが去った後もしばらく俺は動けずにいた

  あれからは嫌われただろう、と会えても最低限の挨拶を交わすだけで精一杯だった
  "諦めなきゃ...." そう思うけど姿を見てしまえば想いは募ってしまって
  だから何とか会わないよう気を付けた
  
  
  仕事終わりに先輩にレッスンをつけてもらった日、いつもより帰るのが遅くなってしまった
  駅からの道を歩いていればお店の前で話している男性2人の姿が目に付いた
  その2人がすぐに揉めはじめ、俺は絡まれないよう視線を逸らし歩いていく
  だけど、どこか聞き覚えのある声が聞こえて
  もう一度視線を向ければ手を掴まれ必死に拒んでいる花白さんの姿が見えた
  その瞬間勝手に足が動いていた

  睨みながら男の腕を掴むが男は花白さんの手を離すことはしなくて
  だから掴む力をさらに強めれば「いてぇよ」そう言いながら振り払うようにして腕を動かした
  その反動で花白さんの手が離れたのが見えてホッと息を吐いた
  だけどその手首には跡がくっきりと残っていて怒りが増す

  いつまでも離さずにいる俺に怒りを露わにする男をさらに睨みながら圧をかけた瞬間、目の前のお店の扉が開き一人の男性が出てきた

  言葉を口にしたがすぐに俺の後ろへ慌てて行くからその後を追えば、フラつき支えられるようにして立つ花白さんの姿が見えた
  
  男性が花白さんと小声で話した後に発した "警察" という単語に絡んでいた男が慌てて立ち去ったのが分かったが俺は動けずにいた

  助けるつもりだったのに怖がらせてしまった
  どうして俺はこうなのだろう

  そう思っていればお礼を伝える声が聞こえて
  顔を向ければまだ少しフラついている花白さんの姿が見えた

  "距離感...." 少し考えたけれどその状態で一人で帰るのは危ないと思って、俺は一緒に帰ることを提案した

  その提案は断られる事無く受け入れて貰えた

  それに喜ぶ自分に気付かないふりをして家路を歩く
  無言の時間が続き、遂に部屋の前まで来た時 俺は最後の手段に出てしまった

  部屋に入る花白さんを後ろから抱きしめ言葉をかけた
  諦めよう、そう思ったけど無理だった事
  今でも変わらず好きな事、恋人になりたい事
  自分の思い全てをぶつけた

  だけど返ってきたのは「ごめんね。」の言葉だった
  
  そのまま自分の部屋へ帰る気にはなれなくて
  俺は姿を隠すように夜の暗闇へ繰り出した

  誰もいない道を歩いていれば溢れ出る涙
  
  俺の恋は終わったのだ

  
  どれだけ歩き回っていたのだろう
  暗かった街並みは薄明るくなっていて、、、
  俺は家へ続く道へ足を戻した
  
  "今日休みでよかったな..." そんな事を思いながら部屋までもう少しの所で隣の扉が開いた

  "ドクン" と大きく跳ねた心臓を必死に抑えて挨拶をすればぎこちなく返される挨拶
  すると花白さんの目線が俺の顔にあるのに気付いて慌てて背け部屋へ急いだ

  
  あれから1ヶ月
  ぎこちない挨拶を交わす日々が続いていたある日、エレベーターで一緒になった花白さんは何だか顔色が悪い気がした
  その理由はエレベーター内で2人きりになった時に気付いた
  甘い香りが鼻をくすぐったのだ

  "ヒートが近い...?" そう思ったけど、振った相手からそんな事を言われるのは嫌だろうか、、、引き止めたもののそう思ったら言えなかった

  仕事中も気になりながら何とか終わらせ帰っていれば目の前で座り込んでいる人に気付いた

  慌てて近寄ればヒートを起こしている花白さんで

  "あぁやっぱり、、朝迷わず言えばよかった。" 後悔しながらも声をかけ、全然力の入らない体を支えながら家へ送る

  鍵を開けられずにいるのを手伝い声をかけ部屋に入りベッドへ寝かせ何か出来る言はないかと思い問いかけた

  だけど苦しみながらも「もう大丈夫だから」そう言う姿に "俺じゃやっぱりダメなのか...." そう思って痛む胸

  最後に一言声をかけて玄関へ向かえば飾ってある1枚の写真が目についた
  笑顔で写る男性の隣で寄り添うように微笑む花白さんが写ったその写真に俺は全てを察してしまった

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺にとってはあなたが運命でした

ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会 βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂 彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。 その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。 それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

絶滅危惧種オメガと異世界アルファ

さこ
BL
終末のオメガバース。 人々から嫌われたオメガは衰退していなくなり、かつて世界を支配していたアルファも地上から姿を消してしまった。 近いうち、生まれてくる人間はすべてベータだけになるだろうと言われている。 主人公は絶滅危惧種となったオメガ。 周囲からはナチュラルな差別を受け、それでも日々を平穏に生きている。 そこに出現したのは「異世界」から来たアルファ。 「──俺の運命に会いに来た」 自らの存在意義すら知らなかったオメガの救済と、魂の片割れに出会う為にわざわざ世界を越えたアルファの執着と渇望の話。 独自のオメガバース設定となります。 タイトルに異世界とありますがこの本編で異世界は出てきません。異世界人が出てくるだけです。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった” 長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、 ひと夏の契約でリゾートにやってきた。 最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、 気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。 そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。 ***前作品とは完全に切り離したお話ですが、 世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。 男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。 (旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...