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あんにん

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5.ヒート

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  竣くんからの告白を聞いて冷静でいる自分がいた
  俺を抱きしめる腕にそっと触れれば力が弱まり離れた

 「告白ありがとう。だけどごめん、俺は君の気持ちに応えられないしこれからもそれは変わらない。」

  そうはっきりと口にした
  その言葉に今にも消え入りそうな声で「そうですよね、、、」そう呟く声が聞こえた

  「ごめんね。」最後にもう一度謝って俺は扉を閉めた
  目の前にはいつもの様に笑顔で写る彼の写真が見えて
  その写真にそっと触れ今度は俺が消え入りそうな声で「ただいま、、」と口にした

  そのまま電気をつけることなくベッドへ向かい倒れ込む
  暗闇の中で目を閉じ浮かぶのはもう会えない彼の姿で
  俺はそのまま眠りについた

  翌朝、疲れの取れぬ体を何とか起こしシャワーを浴びる
  少しすっきりした頭で用意を済ませ家を出れば丁度帰宅した竣くんと鉢合わせて、、、

  "気まづいな..." そう思った俺とは裏腹に「おはようございます。」とまるで昨日の事など気にしていないように挨拶をする姿に「あっ、おはよう。」と返しながら顔を見ればその目は赤く腫れていて

  俺の視線に気付きすぐに逸らされた顔
  そのまま足早に家の中へ入った姿に "気まづい" と思った先程の自分が何だか情けなく感じた

  それからは竣くんとはたまたま顔が会えば挨拶を交わすだけの関係が続いていた

  隣人としてはどこかよそよそしいそんな関係が1ヶ月続いた頃、バイトへ向かう為家を出ればエレベーター前で竣くんと一緒になった

 「おはようございます。」
 「おはよう....」

  お互い挨拶のみで無言のままエレベーターへ乗り込む
  エントランスに着き、マンションから出ようとしたその時「あっ、あの、、、」俺を呼び止める声が聞こえた

  後ろにいた竣くんを振り返ればどこか言いにくそうな顔して立っていた
  そのまま言葉の続きを待っていれば口を開いてまた閉じた

  "どうしたんだろうか..." そう思いながらもチラッと時計に目をやれば「急にすいません、その、、、お気をつけて」それだけ言うと俺を追い越し行ってしまった

  その行動に不思議に思いながらもバイトへ向かいいつもと同じ時間に家路についた
  あの角を曲がれば家という所で身体に感じる違和感
  
  "急ごう" そう思って足を早めようとした瞬間、身体に衝撃が走った
  "ヒートだ" そう思った瞬間には立っていられない程に身体が疼き出した

  何とか壁に手をつきながら歩くけれど、あと少しの距離が果てしなく遠く感じた
  1歩進む事に息は上がり視界が滲んでいく

  油断していた
  彼が亡くなってから睡眠薬でしか眠れない日々
  おまけに彼のいないヒート生活に耐えられずさらに薬を飲んでの生活で体は次第にボロボロになっていった
  ヒートはこなくなりやせ細った体は今にも折れてしまいそうな程だった

  だけど移り住んでからは生活を見直した
  きちんと食事をとり、バイトも始めれば睡眠薬を使わず眠りにつける日も増えていった
  それにより徐々に壊れかけていた体が戻った事により何年も止まっていたヒートが起こったのだ

  "どうしよう、、、もう足が、、、" 震える足に力を込めるけど何の意味も持たずに崩れ落ちた
  普段から人通りの少ない道にバイト終わりで時刻は22時をまわっていた
  
  絶望しかけていたその時だった
  
  「花白さん、、?」少し戸惑った声が俺の名前を呼んだ
  だけど声の方に視線を向ける事すら出来なくて、、、
  すると座り込む俺の隣にやって来て「大丈夫ですか?」そう言いながら覗き込んできた顔は竣くんで

  「あっ、、、」それしか言えなくて、、、

 「ヒート起こしたんですね、俺に捕まってください。家まで運びます。」

  そう言いながら俺を立たせ自分の肩に俺の腕を回し歩き始めた

  家に着いた時には何とか意識を保つので必死だった
  鍵を開けようとするけど震える手では上手くいかなくて
  竣くんはそんな俺の手をとり鍵を開ければ「すみません、少し入りますね。」そう言って再び俺を支えながら歩き出し、そしてベッドの上へ俺を寝かせた

  「何かいるものはありますか?」その言葉に首を振りながら「ありがとう。」と呟いた

  もう限界が近かった
  これ以上巻き込みたくなくて "だからもう行ってくれ" そう思いながら「もう大丈夫だから、大丈夫。」小さな声で何とかそう口にする

  「分かりました。鍵は閉めてポストの中に入れておきますね。」そう言った竣くんの顔は見えなかった

  ガチャンと鍵の閉まる音が聞こえた後に金属の当たる音がした

  その瞬間、狂ったように泣きながら自分で後ろを慰めた


  熱い、苦しい、足りない、もっと、、、あき、、ら

  目を閉じればすぐに思い出される彼の顔

 「あきら⋯あきら⋯⋯」

  無意識に漏れる声は彼の名前を呼んでいて
  
  ヒートの時、彼は俺に優しく触れながら「大丈夫?」そう様子を伺いながら丁寧に俺の身体を解していった
  何度も求める俺に甘い言葉を囁きながら応えてくれた

  記憶の彼はこんなにも鮮明に思い出せるのに

  彼が俺に触れていた体温や囁いてくれた心地よい声の高さはもう分からなくて

  震える手でカラーを外しそっと頚に触れる
  そこに確かにあったはずの彼の噛み跡はすっかり消え感じられなくて

  彼がいなくなって14年
  それは俺の身体から彼の痕跡を消すには十分すぎる程の時間だった

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