幼馴染の彼

あんにん

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49. 楓side

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  それからは "諦めよう" 何度もそう思った
  だけど、俺に笑いかけてくれる度に心は引き戻されて
  だから、、、尚也から直接聞いたわけじゃない
  あれはただ俺がそう思っただけで実際はそうじゃなのかもしれない、そう考えるようになった

  
 「俺さ、その、、はるにぃの事が、、好きなんだ、、、」

  2年に上がった頃だった
  いつもと同じように尚也と一緒に過ごしていた放課後
  日直だった尚也が日誌を書き終わるのを待っていた時、ふと手を止めた尚也が顔を赤くしながらそう告げた

  "あぁ、やっぱり、、、そうなんだ、、、"

  分かっていたはずだった
  自分に都合のいいように考えていても覚悟していたはずだった
  だけど、、やっぱり、、本人の口から聞いた自分以外を "好き" なんだという言葉には突き刺さるものがあった

  
 「そっ、、う、なんだ、、、」
 「うん、、言うの迷ったんだけど、、楓には、、正直に言いたくて、、、」

  自分の事を信頼しているからこその告白なんだと思う
  いくらアルファやオメガで同性同士の結婚が当たり前だとしても、俺らはまだバース診断をしたわけではない
  そんな中で同じ男が好きだなんて、なかなか言うには勇気がいっただろう
  でも、、それでも、、、お前が他の奴を好きだなんていう、、、そんな話は聞きたくなかった

 「なんとなく、そうだと思ってた、、応援してるよ」

  嬉しそうに陽斗さんとの出会いから好きになった経緯を話す姿を見ながら言った俺の言葉は上手く言えていただろうか、笑えていただろうか、、、

  それからは何度か相談される事があったがその度に痛む胸に気付かないふりをして笑顔をみせた
  
 「はるにぃと同じ高校に行きたいと思っててさ」

  そう言って見せてきた学校案内のパンフレット
  県内でも有名な進学校で、"あぁあの時みた陽斗さんの制服ここだ、、、" そんな事を思っていれば

 「はるにぃさ、ここでも成績上位で生徒会長もしてるんだよ!」

  なんて目をキラキラさせながら話すのが嫌で悔しくて「俺もそこ受けようと思ってた」気付けばそう言っていた

 「えっ?ほんと!?」
 「、、あぁ」
 「嬉しい!高校も一緒だ!」
 「まだ志望が一緒なだけで決まってはないだろ」
 「それはそうだけどさぁ」

  なんて言いながら笑いあっている間も自分の中に渦巻く嫉妬心を治めるのに必死だった

  そんな日々が1年も続いた
  学校で一緒に過ごせば過ごすほど尚也への想いは膨れ上がっていき、それと比例するように陽斗さんへの嫉妬心も膨れ上がっていった
  
  そんな時だった
  放課後先生に呼ばれ職員室で話を終え尚也の待つ教室へ向かえば、俺の席で寝ている姿が目に入った
  ゆっくりと近付いていく度に大きくなる心臓の音
  顔にかかった髪にそっと触れる
  気持ちよさそうに寝ている姿に思わず笑みが溢れる
  そのまま頬に指先が触れたその時「はるにぃ」とぽつりと呟いた尚也の声が俺の耳に届いた

  "あぁ叶わない、、、"

  今、お前と同じ空間にいるのは俺なのに
  いつ、どんな時でもお前の中にいる陽斗さんにはどうやったって叶わない

  滲む視界に気付き、俺は静かにその場を去った

  どこに向かって歩いているのか分からない

  気付けば図書室の前に立っていて
  扉をそっと開ければ数人の生徒と、図書委員の2人

  端の席に座りゆっくりと息を吐く

  嫉妬、悲しさ、湧き上がってきていた渦巻く感情を何とか落ち着かせる
  顔を上げれば目についた図書委員の生徒
  
  尚也と親しくなるきっかけとなった委員
  もし俺が、尚也が、それぞれ別の委員を選んでいれば今の関係はなかっただろう
  今頃、尚也と親しくしていたのは別の人だったかもしれない
  それ程までに俺らには接点がなかった
  ならば、今の関係を築けただけでも幸せなんじゃないだろうか
  
  そう思ったら何だか少しだけ気持ちが軽くなった気がした
  
  "やめよう、どう見てもあの二人は想いあっているように見えた"

  "幼少期からの幼馴染。俺とは比べ物にならない程の時間を一緒に過ごしてきたんだ。最初から叶うはずがなかったんだ"

  "俺一人がこの気持ちを消してしまえば全て解決じゃないか"

  すると震えた携帯
  見れば尚也からで、、、

  [楓大丈夫?もう少しかかりそう?]

  起きたんだ....

  [大丈夫!今終わったから向かうな!]
  [分かった、待ってるね!]

  閉じた携帯
  静かに流れていた涙を拭って俺は尚也の待つ教室へ向かった

  
  それから俺はひたすらに気持ちを消す努力をした
  
  "大丈夫。諦められる。"

  何度そう思ったか分からない
  それでも、俺は呪文のように唱え続け少しづつ尚也への気持ちを昇華させていったはずだった


 「はるにぃに、、、恋人が出来た」

  ある日の朝、泣きそうな顔をしながら尚也がそう言った
  
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