宇宙戦鬼バキュラビビーの情愛

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バキュラビビーの葛藤

サイバラと茅野宮美郷のこと

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「あっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

話の途中だというのに、後輩劇団員のタチバナが大笑いしだした。

「おいおい、そんなに笑うところか?」

「いやいやいやいやいやいや、サイバラさん。宇宙人て。ここにきて宇宙人は、ないわ~~」

腹を抱えて笑うタチバナ。

「ここまで、ものすごく、センチメンタルに、純愛を、描いてきたのに、ここで、宇宙人とか、サイバラさん、天才。マジで、天才」

文節ごとに横隔膜をヒクつかせながらタチバナがコメントする。

「マジウケる。ちゃんとホンにすれば、秋公演のコンペいけるんじゃないんですかぁ~?」
「だと、うれしいんだけどなぁ。ただ、ここから先の展開に行き詰ってて。ここから先、どうしたらいいと思う?」
「そりゃあもう。相手が宇宙人なら、彼女をかけてスターウォーズするしかないっしょ。ダークサイドに落ちても純愛を貫くのが男ってもんでしょ」

タチバナがノリノリで言う。

「ガチな話、今度こそ、ちゃんとホンを仕上げくださいよ。私、ずっと待ってるんですよ?」

耳の痛いことをいう。

僕の入っている劇団カラ・ド・マリは、春と秋に定期公演を行っており、基本的にオリジナルの脚本を使っている。
だから、1つの公演が終わり次第、すぐに次の公演に向けて、団内で脚本コンペが行われる。

団員は普段みんな家族みたいに仲がいいが、この瞬間だけは脚本家志望のガチバトルとなる。

そして僕も脚本家志望の1人である。

……なのだが、残念ながら僕は今まで脚本を最後まで仕上げたことが1度もなかった。

書けば書くほど、自分が本当に書きたいモノから遠ざかる気がして、どうしても最後まで書ききることができない。

話に行き詰まったときにはタチバナに構想を話してみることにしている。

タチバナは、僕の物語の構想を否定することなく聞いてくれる。

とても貴重な存在だった。

「いつも、悪いな」

僕の口から自然とそんな言葉が出る。

「もう~。サリナはサイバラさんの未来の奥様なんだから気にしないでください」

「うん、ごめん。その未来を認めた覚えはない」

「そろそろ脚本を書きあげるか、サリナをお嫁にするか、どっちか選んでください」

「なんでその二択なんだよ。タチバナならほかにもいい出会いがあるだろ。この前も街コン行ってたろ」

「街コンとかひどいもんですよ~。もうほんとキモオタしかいないんだから」

「なら、宇宙人の人物造形の参考にするからさ、そのキモオタの話を聞かせてくれよ」

「えっとですね~。とにかくキモイ?」

「お前、もう少し語彙を何とかしろよ」

そんな話をしていると、ほかの団員たちが集まってきた。

「ちーっす。サイバラさん、いつも早いっすね」
「まーな。柔軟と筋トレだけは、ちゃっちゃとやっちまいたいし」
「とかいいながら、またタチバナといちゃついてたんでしょ」
「あ、ばれた?」

軽口をたたくことで、逆に追及をかわす。
これも劇団に入って学んだ処世術だ。

「も~。いちゃいちゃするなら家でやってくださいよ家で」
「そうだな~。家庭の会話って大事だもんな~」

そんなことを言いながらも、僕は、

『久しぶりにちーちゃんとサシで話さないといけないな』

とか考えていた。



ちーちゃんのアパートはボロい。

『仕事のできる女』というイメージからは程遠いボロアパートが、ちーちゃんの住処だ。

最近は婚約者の佐山のところに入り浸っていたようだが、まあそれも仕方がない。

(ここに来るのも1年ぶりか?)

ちーちゃんが婚約してから自重してたせいか、意外と時間が経っていたことに驚く。

「ちーちゃん、はいるよー」

一応、声をかけるが、まあ勝手知ったるなんとやらなので、ガスパイプの裏からスペアキーを取り出して、僕は勝手にちーちゃんの部屋に入る。

入ったとたんにすごい違和感。

(なにか、おかしい)

そうだ、ネット回線がひかれている。

パソコンの周辺機器も充実している。

(機械音痴のちーちゃんにこんなことができるわけがない)

そして体育会系の佐山にも、ここまでできるわけがない。

(こりゃ、だいぶ「侵略」されてるなぁ)

そう思ったとき、

「あ、きてたの、サイバラ」

パソコンに夢中だったちーちゃんが振り替えった。いままで僕が来たことに気づかなかったらしい。

画面を見ると、3Dモデリングされた荒野が表示されている。

(引き込もりのゲーオタかよ……)

「ちーちゃんさあ……やりたいことが見つかったはいいけど、ゲームはほどほどにしときなよ」

「ん……うん」

(これは結構重症だな)

そう思いながら、整備されたIT環境に目をやる。

(……?)

違和感。

なんだろう。

機器のバランスの悪さを感じた。

違和感のもとになっているのは電源タップか。

口数と筐体のバランスがおかしいような。

(このサイズなら普通8口はあるだろ。なんで4口しかないんだよ)

こう見えても小さい頃は『こどもの理科学』を愛読していたので、こういうことは気になってしょうがない。

「ちーちゃん、最近、誰かこの部屋に来た?」
「昨日、郡山くんがきたよ。ネット開通の立ち合いにきてもらったんだ。ほかには誰も呼んでないよ?」

郡山くん……例の宇宙人か。

「なるほどね。ちーちゃん、最近その郡山くんと仲いいみたいだね。そんなに話が合うの?」
「話が合うっていうか……おなじ世界を共有できてるっていう感じかなぁ」

ちーちゃんがニコニコしながら言う。

「郡山くんのこと好きなのか?」
「だからそんなんじゃないよ。郡山くんとは戦友なの」

照れ臭そうに話すちーちゃん。
言葉にまったく説得力がない。
なんか感情を隠すのがヘタクソになってないか?

「なんか前世でいっしょだったとか言ってなかった?」
「あー、あれは、そんな気がするってだけの話」

あのときは、なんとかザンスという具体的な名前も出ていた気がするが……。

まあ、頭がアッチの世界に行ってしまったわけではなさそうだ。

それだけでもちょっと安心する。

けどまあ、注意だけはしておく必要がある。

「今度佐山さんと郡山くんを合わせるんだろ。そんなんじゃ佐山さん、またキレちまうよ? 殴られても知らないよ?」

「それなんだけどね」

困った顔でちーちゃんが言う。

「ジョーに日程決めてってメッセージ送ったんだけど、反応がないのよ。ちょっと様子見てきてくれない」
「なんで俺が?」
「私はいそがしいから」

そう言うと、ちーちゃんはパソコンのほうに向き直った。

「欲しい武装があるんだけどね、まだ私の階級じゃ手に入らなくて。はやく戦績を重ねないといけないのよ」

ネトゲ廃人とはこうやってできていくのか。
以前のちーちゃんとは別人のようだ。

「……まあいいや。引き受けたよ。佐山さんと話したいこともあるしな」

別に佐山がどうなろうと知ったこっちゃない。

だけどこれだけは感じる。

(ちーちゃんは、よくない世界に入り込もうとしている)

だから僕が、なんとしてでもちーちゃんを引きとめなければならないのだ。
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