宇宙戦鬼バキュラビビーの情愛

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バキュラビビーの葛藤

フォーティーナイト(上)

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『他に男がいるのか?』

と、佐山定から言われたとき。
なぜ私は「ちがう」と即答できなかったのだろう。

郡山重文の顔が即座に浮かんでしまったのはなぜだろう。

郡山重文の存在は、佐山定と離れることとは全く関係がないのだから、最初から「関係ない」と言い切ればよかったのかもしれない。

結果、郡山重文と佐山定を引き合わせることになってしまった。

その時、いったいどんな議論が交わされるのか想像もつかない。

(郡山重文が来たら話しておくか)

今日は通信回線の開通工事が行われる。
手続きは郡山重文がすべて行ってくれた。

今日も回線工事の確認とかで、私の部屋まで来てくれるらしい。

(頼りっぱなしだな。こういうときは、何かオカエシするのが礼儀らしい)

しかし、郡山重文に何をすればオカエシになるのかよく分からない。

彼が喜ぶことは「戦闘に勝つこと」くらいしか知らないのだ。

ピンポーン

入り口のベルが鳴った。
扉を開けると郡山重文がいた。
背中に大きめのカバンを背負っている。

「おじゃまします」
「こちらこそ、よろしく頼む」
「業者はまだ来てませんね?」
「ああ。特に状況に変わりなしだ」
「なら、PC側のセッティングでもしときましょうか」

郡山重文は黒い四角い箱のようなものと、ノートパソコン、それから5束ほどのコードを取り出した。

「ルーターは、回線が来るまでお預けですね。私のお下がりですけど、無線強度も十分ですから安心してください」
「よくわからないが了解した」
「では先に茅野宮さんのPCにソフトをインストールしましょうか」

彼は私のノートパソコンを起動すると、なにやら操作し出した。
なんとかexeとかいうファイルをダブルクリックすると、画面上でなにかがすごい勢いで動き始めた。

「フルインストールしてるんで、終わるまでちょっと時間かかりますね」
「よくわからないが、よろしく頼む」

少し時間がありそうなので、佐山定と引き合わせる件を話してみた。

「まあ、しかたないですね。折込済みです。私は基本的に平日9時5時なんで、あとは佐山さんの予定に合わせてください」

話を聞いた郡山重文はこう言った。

すべて予想通りだったようだ。
司令官を好むだけあり、彼には状況の先の先が見えているらしい。

『佐山定と和解するときには、誰かを立ち合わせた方がよい』

と、助言したのも彼だ。

ピンポーン

再びベルが鳴る。

扉を開けると、作業着の50歳くらいの男が立っていた。

「回線工事にまいりました」
「どうぞ、入ってください」

後ろから郡山が声をかける。

工事の男と郡山重文は、回線の設置場所を話し合うと、お互いの作業に戻ってしまった。

そして、工事の男はどこからともなく細い線を取り出すと、これまた黒い箱を取り付けて

「これでいいですか?」

と、郡山重文に声をかけた。
郡山重文は、工事の男が取り付けた黒い箱と、さきほどルーターと呼んでいた箱をコードで繋ぐと、

「問題ありません。お疲れ様でした」

と言って、薄っぺらい紙に何か書き込んで渡した。

紙を受け取ると、工事の男はさっさと扉から出ていってしまった。

「……これで終わりなのか?」
「はい。終わりです。説明や接続キットは不要と伝えてましたから」

おそらく10分もかからなかったと思う。こんなに簡単に通信環境が整うとは……。

「では、ソフトを起動しましょうか」

郡山重文のパソコンと私のパソコンがテーブルの上で並んでいた。

「端末は固定IPにしてるんで、2台同時接続でも安定するはずです」
「そうか」

郡山がパソコンの画面上にある銃の形をしたアイコンをダブルクリックする。

画面いっぱいに『40Knight』という文字が表示された。

「Starship Bondageではないのか?」
「これは家庭用のスピンオフ作品ですからね。別名が付けられています」
「フォーティーケーナイトか」
「フォーティーナイトと呼ばれてます」

まあ、名前などどうでもよい。

「では、早速やってみましょうか」

郡山がパスワードを入力してログインする。

光沢あるキャラクターが表示された。
『アイスベルク』というキャプションのついている。

「これがこの世界の君か」
「変ですかね」

恥ずかしそうに郡山重文が言った。

「いや、そんなことはない。頼りになりそうで何よりだ」
「そうですか。光栄です」
「私も今後は君のことをアイスベルクと呼ぶとするか」
「え……」
「そんなに驚くな。戦闘のときだけだ」

そういいながら私は笑った。

「戦闘時に呼ぶならアイスで結構です。呼びにくいでしょう」
「そうだな、了解した。私もバキュラと呼んでくれて構わない」
「了解です」

郡山重文……いやアイスベルクも笑っていた。

「よし、私も始めるとしよう」

私もアイスベルクをまねしてソフトを起動するした。

「とりあえず練習からですね。今はゲストログインでいいですよ」

指示通に『guest』の文字をクリックして画面を先に進める。

ヘルメットを、かぶった人間が表示される。

「これが私か。弱そうだな」
「ゲストですから。戦闘に参加するって書いてるところをクリックしてください。少し待ったら戦闘開始です」

カウントダウンが終わる。
そして、私とアイスベルクは同じ大地に降り立った。

「そうか、地上戦だったな」
「宇宙戦とはだいぶ違うので一対一で慣れてみましょうか」

銃器やサブウェポンの使い方をレクチャーしてもらいながら、アイスベルクとしばらくじゃれあってみる。

一度わかってしまえば簡単だ。
問題なさそうだった。

「操作は把握した。実戦といこうじゃないか
「ひとつ注意事項です。宇宙戦と違って、地上戦にはチームがありません。原則、全員敵同士です」
「なに? アイスベルクとは敵なのか……」
「ま、擬似的なチームはあるんですが……」

その時、アイスベルクのスマホがブーンブーンという音を立てて震えた。

アイスベルクはスマホの画面を見ると怪訝そうな表情を見せた。

「電話か。私のことは気にせず通話するといい」
「あ、いや」
「なんだ? 私の前では話せないような相手なのか?」
「そういうわけでは、まったくないのですが……」
「なら遠慮なく通話するといい」
「……はい」

アイスベルクの様子がどうもおかしい。

「はい、郡山です。ご無沙汰してます。え、はい。そうですけど……はい、わかりました」

首を傾げながら、アイスベルクが電話を終えた。

「ちょうど、対戦の申し込みがありました」
「友人からか」
「いえ、一度しか会ったことない人です。アカウント名は教えてないはずですが
……。私がログインしてることが、なんで分かったんでしょうね」

どういう関係なのだろうか。

「まあ、ちょうどいいチュートリアルになると思います。SSBのアカウントを連携しながら見ててください」
「SSB?」
「宇宙戦のことです」

StarShip BondageでSSBか。

「ログイン画面まで戻ってみてください。SSBIDでログインというボタンがありますから」
「ふむ」
「大丈夫。今のあなたなら、すぐに登録できますよ。昔のあなたとは違って」

アイスベルクは笑顔でそう言った。
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