21 / 33
バキュラビビーの葛藤
佐山定の葛藤
しおりを挟む
「『18時以降ならいつでもいいから日程決めて』…………じゃ、ねーーーーよ!!!!」
あの野郎、完全に忘れてやがる。
今日は結婚式の衣装合わせの日だ。
そりゃ、前日確認してなかった俺も悪い。
しかし、なんやかんや言ってもしっかりしている美郷だ。
擬態は完璧とか言っていたあの野郎だ。
すっぽかしてくることはない、と完全にタカを括っていた。
「美郷さん、来ませんねえ……。なにかあったんでしょうかね?」
「……すみません」
式場の打ち合わせスペースで、高木と東島、それから今日のために呼んでいたファッションコーディネーターに俺は頭を下げ続けていた。
さっきから電話もメールもしているというのに何故か反応がない。
他の打ち合わせならなんとかなるが、今日に限っては花嫁がいなくてはなんともならない。
30分ほど連絡がつかないか粘ってみたもののやはりダメ。
「本日はすみません。また日程を改めてもいいでしょうか」
俺は頭を下げながら言った。
「そうですね」
高木が他のスタッフとこそこそ相談しながら答える。
「来週、披露宴の進行確認の予定でしたけど、そこに衣装合わせもねじこみましょうか?」
「すみません、それでお願いします」
俺はもう一度頭を下げる。
「来週はちゃんとお二人できてくださいね? 待ってますよ」
東島が言う。言葉にちょっとトゲを感じた。なんだか機嫌が悪そうだ。
「来週こそ必ず」
首根っこを引っ張ってでも、美郷を連れてきてやる。
マンションに帰り着くと、エントランスの壁に見覚えのある顔の男がもたれかかっていた。
サイバラだ。
「ちわっす」
俺に気づくとかる~いかんじで挨拶してきた。
「何しにきたんだ?」
「ちーちゃんから様子を見てきて欲しいって頼まれたんすよ」
「様子を見てきて欲しいって……それはこっちのセリフだよ。美郷は何やってんだ?」
「一生懸命ゲームしてるっす」
「はぁ?」
めまいがしそうになった。
ゲームに夢中で着信に気づかなかったってか?
ちょっとあんまりじゃないか?
「そんなことより、せっかく来たんすから、部屋に入れてくださいよ」
「なんでお前なんかを部屋に上げなきゃいけないんだよ」
「いっしょに宇宙人撃退作戦、考えないっすか?」
「宇宙人って……お前、俺の味方してくれるのか?」
「俺はちーちゃんを幸せにしたいだけっす。俺、コーリヤマとかいう奴が信用できないんで」
「……ふつーっすね」
サイバラを部屋に入れて、数秒後のセリフがこれだ。
「もうちょっとマシなことを言えよ」
「サーセン。悪い意味じゃないっす」
いちいち言動がムカつく。
「まあ、とりあえず座れよ。コーヒーとかないからな。喉が乾いても水でも飲んでろ」
「どーぞ、おかまいなく」
サイバラはどさっとソファに腰掛けた。
俺はデスクの椅子に座る。
「で、郡山をどうするつもりなんだ?」
「佐山さんこそ、会ってどうするつもりなんすか?」
「二度と美郷に近寄らないように言うつもりだよ。言って聞かないようなら、ちょっと怖い目に合ってもらうかもな」
言ってて自分でも、どう怖い目に合わせるのかわからなかった。
「それで解決するとかホントに思ってるんすか?」
サイバラがニヤニヤしながら言う。
言い返したかったが、とっさに言葉が出てこない。
「そもそも佐山さん、今のゲーオタみたいなちーちゃんでも好きなんすか?」
「うるさい。お前に何が分かる」
言い返したが、自分自身がよくわからない。
「ちーちゃん、かなりアイツに入れ込んでるからなぁ……佐山さんのほうに気持ちを取り戻すのは大変っすよ?」
「何が言いたいんだよ」
「ちーちゃんとコーリヤマの絆を壊す決定的な物がいると思うんすよね」
「そりゃ、そんなものがあれば楽だけどな」
「なければつくればいい。そう思わないっすか?」
「あん?」
「俺にちょっと考えがあるんす」
それから30分ほど話をして、ようやくサイバラは帰る様子をみせた。
「んじゃ、明後日19時から、いつもの喫茶店すね。確かにちーちゃんに伝えとくっす」
「スマホの通知オンにしとけって言っといてくれ」
サイバラは荷物を抱えて出ていった。
(いちいちムカつく野郎だ)
とはいえ、今は俺に協力してくれるらしい。
(今だけは仲良くしといてやるか)
サイバラがいなくなると、途端に部屋の中が静かになった。
すると自然と余計な考えが頭に浮かぶ。
今の美郷で愛せるのか。
これからも愛していけるのか。
その言葉はずっと頭の中を回り続けている。
実は結論は出ているのだ。
愛せない、と。
だけど俺は、美郷のことを愛している。
どこまでも前向きで、どんな困難にも立ち向かう、強い心。
人の気持ちに寄り添うことのできる優しさ。
(あの美郷にもう一度会いたい)
柄にもなく、切ない気持ちになる。
美郷がおかしくなる前にもどりたい。
あの幸せな時間を取り戻したい。
「俺は……俺たちは、幸せを取り戻さなきゃならないんだ」
美郷と過ごしたいくつもの思い出が頭の中に蘇ってきた。
思い出の中で、美郷はいつも笑っていた。
「そうだよ。郡山とかいうやつより、美郷は俺といるほうが幸せなんだ」
いつのまにか独り言が漏れ出ていた。
まるで自分に言い聞かせているようだと、自分でも思った。
あの野郎、完全に忘れてやがる。
今日は結婚式の衣装合わせの日だ。
そりゃ、前日確認してなかった俺も悪い。
しかし、なんやかんや言ってもしっかりしている美郷だ。
擬態は完璧とか言っていたあの野郎だ。
すっぽかしてくることはない、と完全にタカを括っていた。
「美郷さん、来ませんねえ……。なにかあったんでしょうかね?」
「……すみません」
式場の打ち合わせスペースで、高木と東島、それから今日のために呼んでいたファッションコーディネーターに俺は頭を下げ続けていた。
さっきから電話もメールもしているというのに何故か反応がない。
他の打ち合わせならなんとかなるが、今日に限っては花嫁がいなくてはなんともならない。
30分ほど連絡がつかないか粘ってみたもののやはりダメ。
「本日はすみません。また日程を改めてもいいでしょうか」
俺は頭を下げながら言った。
「そうですね」
高木が他のスタッフとこそこそ相談しながら答える。
「来週、披露宴の進行確認の予定でしたけど、そこに衣装合わせもねじこみましょうか?」
「すみません、それでお願いします」
俺はもう一度頭を下げる。
「来週はちゃんとお二人できてくださいね? 待ってますよ」
東島が言う。言葉にちょっとトゲを感じた。なんだか機嫌が悪そうだ。
「来週こそ必ず」
首根っこを引っ張ってでも、美郷を連れてきてやる。
マンションに帰り着くと、エントランスの壁に見覚えのある顔の男がもたれかかっていた。
サイバラだ。
「ちわっす」
俺に気づくとかる~いかんじで挨拶してきた。
「何しにきたんだ?」
「ちーちゃんから様子を見てきて欲しいって頼まれたんすよ」
「様子を見てきて欲しいって……それはこっちのセリフだよ。美郷は何やってんだ?」
「一生懸命ゲームしてるっす」
「はぁ?」
めまいがしそうになった。
ゲームに夢中で着信に気づかなかったってか?
ちょっとあんまりじゃないか?
「そんなことより、せっかく来たんすから、部屋に入れてくださいよ」
「なんでお前なんかを部屋に上げなきゃいけないんだよ」
「いっしょに宇宙人撃退作戦、考えないっすか?」
「宇宙人って……お前、俺の味方してくれるのか?」
「俺はちーちゃんを幸せにしたいだけっす。俺、コーリヤマとかいう奴が信用できないんで」
「……ふつーっすね」
サイバラを部屋に入れて、数秒後のセリフがこれだ。
「もうちょっとマシなことを言えよ」
「サーセン。悪い意味じゃないっす」
いちいち言動がムカつく。
「まあ、とりあえず座れよ。コーヒーとかないからな。喉が乾いても水でも飲んでろ」
「どーぞ、おかまいなく」
サイバラはどさっとソファに腰掛けた。
俺はデスクの椅子に座る。
「で、郡山をどうするつもりなんだ?」
「佐山さんこそ、会ってどうするつもりなんすか?」
「二度と美郷に近寄らないように言うつもりだよ。言って聞かないようなら、ちょっと怖い目に合ってもらうかもな」
言ってて自分でも、どう怖い目に合わせるのかわからなかった。
「それで解決するとかホントに思ってるんすか?」
サイバラがニヤニヤしながら言う。
言い返したかったが、とっさに言葉が出てこない。
「そもそも佐山さん、今のゲーオタみたいなちーちゃんでも好きなんすか?」
「うるさい。お前に何が分かる」
言い返したが、自分自身がよくわからない。
「ちーちゃん、かなりアイツに入れ込んでるからなぁ……佐山さんのほうに気持ちを取り戻すのは大変っすよ?」
「何が言いたいんだよ」
「ちーちゃんとコーリヤマの絆を壊す決定的な物がいると思うんすよね」
「そりゃ、そんなものがあれば楽だけどな」
「なければつくればいい。そう思わないっすか?」
「あん?」
「俺にちょっと考えがあるんす」
それから30分ほど話をして、ようやくサイバラは帰る様子をみせた。
「んじゃ、明後日19時から、いつもの喫茶店すね。確かにちーちゃんに伝えとくっす」
「スマホの通知オンにしとけって言っといてくれ」
サイバラは荷物を抱えて出ていった。
(いちいちムカつく野郎だ)
とはいえ、今は俺に協力してくれるらしい。
(今だけは仲良くしといてやるか)
サイバラがいなくなると、途端に部屋の中が静かになった。
すると自然と余計な考えが頭に浮かぶ。
今の美郷で愛せるのか。
これからも愛していけるのか。
その言葉はずっと頭の中を回り続けている。
実は結論は出ているのだ。
愛せない、と。
だけど俺は、美郷のことを愛している。
どこまでも前向きで、どんな困難にも立ち向かう、強い心。
人の気持ちに寄り添うことのできる優しさ。
(あの美郷にもう一度会いたい)
柄にもなく、切ない気持ちになる。
美郷がおかしくなる前にもどりたい。
あの幸せな時間を取り戻したい。
「俺は……俺たちは、幸せを取り戻さなきゃならないんだ」
美郷と過ごしたいくつもの思い出が頭の中に蘇ってきた。
思い出の中で、美郷はいつも笑っていた。
「そうだよ。郡山とかいうやつより、美郷は俺といるほうが幸せなんだ」
いつのまにか独り言が漏れ出ていた。
まるで自分に言い聞かせているようだと、自分でも思った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
JC💋フェラ
山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる