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バキュラビビーの葛藤
ゲトラスカ戦役
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ゲームセンターを出ると、隣にはアメリカ由来のファーストフードショップがある。
私と茅野宮美郷はそこで話をすることにした。
「君は、宇宙のことははっきりと思い出せないと言ったな」
ウェイトレスがアップルジュースを運んでくると、ストローを挿して一口飲んでから茅野宮美郷は話し出した。
「そうですね。ふとした時に、宇宙空間の映像や、不思議な形の物体が、頭に浮かんでくるんです」
「ドルトイスという響きには覚えがあるのか?」
「なんとなく、ですが」
「ゲトラスカは知っているか?」
「あなたから聞くまでは覚えがなかったと思います」
「そうか……」
茅野宮美郷は少し考えこむ。
「あの当時、リィンカーネート機能を搭載していたのは私だけだったと記憶している。もし君の中にも「手駒」の記憶回路が復活しているのであれば……もしかしたら私のリィンカーネート機能の影響で、君もこの世界に復活したのかもしれない」
「あなたの復活に引きづられたと?」
「あくまで可能性だが。そして、もしそうならば、君は私の近くにいた存在である可能性が高い」
彼女はそこまで話すと、アップルジュースをちびちびと3 回ほどストローで吸った。
私も自分のコーヒーを口に運ぶ。
「私はゲトラスカで生まれ、そして死んだ。私にとっては唯一の故郷であり、戦場だった」
「はい」
「君に、私の故郷と、私の死際について話がしたい」
ゲトラスカはドルトイスの最外殻に位置する惑星だった。
ドルトイスを攻撃してくる外敵を最前線で撃退することが、バキュラビビーの使命であり、生きている意味であった。
戦い、戦い、成長して戦う。
成長することは喜びである。
そして力を得ることで勝利を確実にすることには達成感もあった。
もちろんバキュラビビーだけがゲトラスカで戦っていたわけではない。
ゲトラスカには多様なドルトイスの手駒たちがいた。
索敵を得意するザンストマーンも、そのうちの1体だ。
彼もまた、ゲトラスカで生まれ、戦いの中で生きてきた。
格闘戦の多いバキュラビビーは、戦況把握のためにザンストマーンと通信することが多かった。
彼の情報により、後方を憂慮することなく敵の殲滅に集中することができた。
ゲトラスカに駐在する多くの手駒の中でも、バキュラビビーはザンストマーンを信頼していた。
こうして何百年もの間、バキュラビビーとザンストマーンはゲトラスカ宙域を守ってきた。
本当はドルトイスはゲトラスカよりも外側に拡張していきたかったのだが、そこまでの戦力は産みだせないまま、時間は過ぎ去っていった。
なので、このままずっと、ゲトラスカでは戦いの日々が続くのだと、バキュラビビーは思っていた。
しかしある時、ドルトイスからゲトラスカ宙域から引き上げるやう、通信が入った。
理由はわからない。
ただ「中央に引き上げるように」との通信だけが入った。
不審に感じたが、父なるドルトイスの意思には逆らえない。
ゲトラスカからは日に日に手駒たちがいなくなっていった。
「私たちも、そろそろ中央に引き上げる頃か……」
バキュラビビーはゲトラスカから引き上げるのには抵抗があった。
「敵の攻撃が止んだわけではないのに……」
引き上げの間も敵の攻撃は続いていた。
「私が守るしかあるまい」
他の手駒たちが引き上げ終わるまで、バキュラビビーは防衛を引き受けるつもりでいた。
その機を待っていたかのように、敵の総攻撃が仕掛けられた。
『こちらの状況はつつぬけというわけだな』
ザンストマーンは言った。
彼もまた、最後の防衛までゲトラスカに残っていた。
「最後の戦いと行こうじゃないか」
バキュラビビーは撃墜覚悟で出撃した。
自分は撃墜されてもリィンカーネート機能で復元できる。
ここで自分の撃墜と引き換えに、大量の敵機を道連れにすれば、それはそれで儲け物だ。
襲いかかる雑魚たちを撃ち落とす。
たまに迎撃を受けながらも撃ち落とす。
指揮官機に突撃しては近距離砲火で撃ち落とす。
そして集中砲火を受ける。
撃ってきたやつから撃ち落とし返す。
そんなやりとりを続けているうちに
そして、予想通り撃墜されるときがきた。
敵部隊の深くに潜り込んだバキュラビビーは、敵機10機からの同時十字砲火を仕掛けられた。
絶対に避けられない。そう予測できた。
「まあ、ここまでやれば十分だ」
バキュラビビーが覚悟を決めたとき、目の前の敵機が爆散した。
「ザンストマーン!?」
索敵機のザンストマーンがやったのだった。
『退路はできた。早く行け。司令官機はこの先だ』
「索敵機が前線に来るなんて」
『1秒でも長く、君を生かしておくべきと判断した』
「了解した。君も早く離脱しろ」
『そうはいかない。俺がオトリになることで、お前が司令官機に届く計算なんでな』
通信が終わらないうちにバキュラビビーは司令官機は目掛けて真っ直ぐに飛んだ。
ザンストマーンの計算は正確だ。
バキュラビビーは敵の迎撃をかいくぐり、司令官機に突貫した。
集中砲火をあびる。すでに装甲は限界を超えていたが、まだ死ぬわけにはいかない。
ありったけの弾薬を、司令官機に注ぎ込んだ。
バキュラビビーが最後に映像として捉えたのは、司令官機が爆散する姿だった。
「これで、本当にもう、十分だ」
うすれゆく意識の中、ザストマーンから通信が入った。
『やってくれたみたいだな』
「ああ、おかげさまでな」
『こちらはもうダメみたいだ。お前だけでも生きて欲しかったが、状況はどうだ?』
「こちらもダメだな。安心しろ。私にはリィンカーネート機能がある」
『生まれ変わりか。ははは。夢みたいな話だな、俺からすれば』
そしてザンストマーンはこう続けた。
『もし、まったく違う生命に生まれ変わったら、何をしてみたい?』
「こうして私はこの時代、この場所に復活してしまった」
話終える頃にはアップルジュースは空になっていた。
「……悲しい戦いでしたね」
私はそうコメントした。
「悲しい……か。あのときは、そんなこと思いもしなかった。でも、今は……そうだな、とても悲しい」
そして、茅野宮美郷は、私を見つめながらこう言うのだった。
「郡山重文、君はザンストマーンによく似ている」
私と茅野宮美郷はそこで話をすることにした。
「君は、宇宙のことははっきりと思い出せないと言ったな」
ウェイトレスがアップルジュースを運んでくると、ストローを挿して一口飲んでから茅野宮美郷は話し出した。
「そうですね。ふとした時に、宇宙空間の映像や、不思議な形の物体が、頭に浮かんでくるんです」
「ドルトイスという響きには覚えがあるのか?」
「なんとなく、ですが」
「ゲトラスカは知っているか?」
「あなたから聞くまでは覚えがなかったと思います」
「そうか……」
茅野宮美郷は少し考えこむ。
「あの当時、リィンカーネート機能を搭載していたのは私だけだったと記憶している。もし君の中にも「手駒」の記憶回路が復活しているのであれば……もしかしたら私のリィンカーネート機能の影響で、君もこの世界に復活したのかもしれない」
「あなたの復活に引きづられたと?」
「あくまで可能性だが。そして、もしそうならば、君は私の近くにいた存在である可能性が高い」
彼女はそこまで話すと、アップルジュースをちびちびと3 回ほどストローで吸った。
私も自分のコーヒーを口に運ぶ。
「私はゲトラスカで生まれ、そして死んだ。私にとっては唯一の故郷であり、戦場だった」
「はい」
「君に、私の故郷と、私の死際について話がしたい」
ゲトラスカはドルトイスの最外殻に位置する惑星だった。
ドルトイスを攻撃してくる外敵を最前線で撃退することが、バキュラビビーの使命であり、生きている意味であった。
戦い、戦い、成長して戦う。
成長することは喜びである。
そして力を得ることで勝利を確実にすることには達成感もあった。
もちろんバキュラビビーだけがゲトラスカで戦っていたわけではない。
ゲトラスカには多様なドルトイスの手駒たちがいた。
索敵を得意するザンストマーンも、そのうちの1体だ。
彼もまた、ゲトラスカで生まれ、戦いの中で生きてきた。
格闘戦の多いバキュラビビーは、戦況把握のためにザンストマーンと通信することが多かった。
彼の情報により、後方を憂慮することなく敵の殲滅に集中することができた。
ゲトラスカに駐在する多くの手駒の中でも、バキュラビビーはザンストマーンを信頼していた。
こうして何百年もの間、バキュラビビーとザンストマーンはゲトラスカ宙域を守ってきた。
本当はドルトイスはゲトラスカよりも外側に拡張していきたかったのだが、そこまでの戦力は産みだせないまま、時間は過ぎ去っていった。
なので、このままずっと、ゲトラスカでは戦いの日々が続くのだと、バキュラビビーは思っていた。
しかしある時、ドルトイスからゲトラスカ宙域から引き上げるやう、通信が入った。
理由はわからない。
ただ「中央に引き上げるように」との通信だけが入った。
不審に感じたが、父なるドルトイスの意思には逆らえない。
ゲトラスカからは日に日に手駒たちがいなくなっていった。
「私たちも、そろそろ中央に引き上げる頃か……」
バキュラビビーはゲトラスカから引き上げるのには抵抗があった。
「敵の攻撃が止んだわけではないのに……」
引き上げの間も敵の攻撃は続いていた。
「私が守るしかあるまい」
他の手駒たちが引き上げ終わるまで、バキュラビビーは防衛を引き受けるつもりでいた。
その機を待っていたかのように、敵の総攻撃が仕掛けられた。
『こちらの状況はつつぬけというわけだな』
ザンストマーンは言った。
彼もまた、最後の防衛までゲトラスカに残っていた。
「最後の戦いと行こうじゃないか」
バキュラビビーは撃墜覚悟で出撃した。
自分は撃墜されてもリィンカーネート機能で復元できる。
ここで自分の撃墜と引き換えに、大量の敵機を道連れにすれば、それはそれで儲け物だ。
襲いかかる雑魚たちを撃ち落とす。
たまに迎撃を受けながらも撃ち落とす。
指揮官機に突撃しては近距離砲火で撃ち落とす。
そして集中砲火を受ける。
撃ってきたやつから撃ち落とし返す。
そんなやりとりを続けているうちに
そして、予想通り撃墜されるときがきた。
敵部隊の深くに潜り込んだバキュラビビーは、敵機10機からの同時十字砲火を仕掛けられた。
絶対に避けられない。そう予測できた。
「まあ、ここまでやれば十分だ」
バキュラビビーが覚悟を決めたとき、目の前の敵機が爆散した。
「ザンストマーン!?」
索敵機のザンストマーンがやったのだった。
『退路はできた。早く行け。司令官機はこの先だ』
「索敵機が前線に来るなんて」
『1秒でも長く、君を生かしておくべきと判断した』
「了解した。君も早く離脱しろ」
『そうはいかない。俺がオトリになることで、お前が司令官機に届く計算なんでな』
通信が終わらないうちにバキュラビビーは司令官機は目掛けて真っ直ぐに飛んだ。
ザンストマーンの計算は正確だ。
バキュラビビーは敵の迎撃をかいくぐり、司令官機に突貫した。
集中砲火をあびる。すでに装甲は限界を超えていたが、まだ死ぬわけにはいかない。
ありったけの弾薬を、司令官機に注ぎ込んだ。
バキュラビビーが最後に映像として捉えたのは、司令官機が爆散する姿だった。
「これで、本当にもう、十分だ」
うすれゆく意識の中、ザストマーンから通信が入った。
『やってくれたみたいだな』
「ああ、おかげさまでな」
『こちらはもうダメみたいだ。お前だけでも生きて欲しかったが、状況はどうだ?』
「こちらもダメだな。安心しろ。私にはリィンカーネート機能がある」
『生まれ変わりか。ははは。夢みたいな話だな、俺からすれば』
そしてザンストマーンはこう続けた。
『もし、まったく違う生命に生まれ変わったら、何をしてみたい?』
「こうして私はこの時代、この場所に復活してしまった」
話終える頃にはアップルジュースは空になっていた。
「……悲しい戦いでしたね」
私はそうコメントした。
「悲しい……か。あのときは、そんなこと思いもしなかった。でも、今は……そうだな、とても悲しい」
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