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バキュラビビーの葛藤
郡山重文25歳
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「どうも。郡山重文、25歳です。レイライトこと頼光科学工業で働いています」
とりあえず、自己紹介する。
「ええ~。レイライトってあのレイライト? 会社でも使ってたよ~。マジ大手じゃん。すご~い。え? やっぱりでっかいプリンター作ってるの?」
「いえ。開発部門じゃないんで」
「ええ~? でも営業の人ってかんじでもないしぃ、理系の技術の人って感じだけどぉ?」
「技術は技術でも社内情シスなんで」
「社内ジョーシス?」
説明がめんどくさくなってきた。
「まあ、あれですな。社内のなんでも屋ってとこですな」
私が答えあぐねていると、斜向かいに座っていた山崎が口を出した。
「へ~。よくわからないけどスゴーイ」
わかってもいないのにスゴいとか言わないでほしい。
向かいの女の態度にイラッとする。
(やっぱり断るべきでしたかね)
ここはフランチャイズ経営の安居酒屋。
私は山崎大吾に連れられて街コンに来ていた。
『郡山氏! 郡山氏! ゲーム大好き集まれ街コンらしいですぞ! こんな機会もうないかもしれませんぞ!!』
そんな猛プッシュに負けてしまったことが悔やまれる。
「では、郡山氏の次はワタクシですかな? 山崎大吾、29歳。郡山氏と同じくレイライトで働いとります。職種はCEであります」
「ええ~! CE! CEってあれでしょ。社長とか常務とかみたいな偉い人でしょ! スゴーイ」
「ほっほっほ。もっと褒めてくれてもいいんですぞ」
CEOか何かと勘違いしているのだろう。
向かいの女のテンションがうなぎ上りだ。
(勘違いを正さない山崎さんもなかなかのものですね……)
私には真似できない。
誤解や不合理を抱えたまま会話するなんて気持ち悪い。
「じゃ、次はアタシね」
向かいの女が立ち上がった。
「立花サリナ、年齢は秘密で~す。職業フリーター。こないだまで派遣で事務やってたけど今は無職で~す」
今どきの若い女らしく、おしゃれな格好をしている。
とは思うが、ファッションに興味がない私は
『髪が短くて帽子をかぶった女』としか表現できない。
どのみち、知性を感じない女には興味がわかない。
「ほらほら、次はカナの番だよ。この子すごいんだからね」
「あ、はい。東島カナミと言います。よろしくおねがいします」
私の隣の女が、座ったままで丁寧に挨拶した。
きれいな黒髪ロング。化粧気の少ないところは好感が持てる。
「ええ~、それで終わりなの~? せっかくゲーム好きな人がいるだからさ~。もっとアピールしないと~」
立花サリナがうるさい。
「この子すごいんだから。『40ナイト』でSランクまで行ってるんだからね」
『40ナイト』は今もっともユーザーの多いバトルロワイヤルゲームだ。
世界的な大ヒットを飛ばしており、女子供にも大人気らしい。
「いや、たまたまだから……」
東島カナミは謙遜して答えるが、Sランクはゲーム内における最高ランクであり、そこまでたどり着くのは一握りだ。
「郡山さんもやってるでしょ40ナイト。ゲームうまそうだからすごく強いんだろな~」
立花サリナが被せてくる。
うっとおしい。
やたらと東島カナミに目配せしているのがさらにうっとおしい。
「ご期待に添えなくてすみませんね。Cランクから上にどうしてもいけないんですよ……ちょっと失礼」
気を悪くした振りをして席を立ち、そのままトイレに向かう。
小便器で用を足しながら、
「ふぅ……」
と、私は息をついた。
何度か街コンに来たことはあるが、こういうところで知り合う女性は、どうも好きになれない。
性欲よりも嫌悪感のほうが先にきてしまい、心のそこから楽しんだことがない。
「ま、数少ないお楽しみもありますけどね」
そう呟きつつチャックを閉めていると、ドンドンドンとトイレのドアがノックされた。
「郡山氏! 郡山氏! 早く! 早く! ワタクシの膀胱は、もう、もう、決壊寸前ですぞ!!」
聞き慣れた声が聞こえてくる。
「すみません、山崎さん。ちょっとキレが悪くてですね~」
わざと焦らしてみる。
「もう知りませぬ!! 郡山氏なんてあてにしませんからな!!」
バタンと音がした。
トイレのドアは開いていない。
(ということは……)
こことは別に女子トイレがあったので、そっちに入ったのだろう。
恥知らずを貫くところが清々しい。
(まあ、好都合ですけどね)
たっぷりとトイレで時間を潰させてもらったあと、手を洗って、自前のハンカチでよくよく手を拭いてから席に戻る。
山崎はとっとと用を足してしまったようで、置きっぱなしだった私のスマホを山崎立花コンビでいじっていた。
「人のスマホに何してるんですか?」
「ほっほっほ。大事なものを置いていくほうが悪いんですぞ?」
「そーそー。ほらほら見て見て~」
立花サリナがスマホの画面を向ける。
連絡先画面に「東島佳奈美」という文字と080から始まる電話番号が並んでいた。
「カナの電話番号登録しといたから、これからもよろしくしてあげてね~」
「あ、あの、サリナが勝手にすみません」
東島カナミは恥ずかしそうに俯いた。
その顔を見ながら私は、
(このしおらしそうな仮面の下が見てみたい)
と、思っていた。
とりあえず、自己紹介する。
「ええ~。レイライトってあのレイライト? 会社でも使ってたよ~。マジ大手じゃん。すご~い。え? やっぱりでっかいプリンター作ってるの?」
「いえ。開発部門じゃないんで」
「ええ~? でも営業の人ってかんじでもないしぃ、理系の技術の人って感じだけどぉ?」
「技術は技術でも社内情シスなんで」
「社内ジョーシス?」
説明がめんどくさくなってきた。
「まあ、あれですな。社内のなんでも屋ってとこですな」
私が答えあぐねていると、斜向かいに座っていた山崎が口を出した。
「へ~。よくわからないけどスゴーイ」
わかってもいないのにスゴいとか言わないでほしい。
向かいの女の態度にイラッとする。
(やっぱり断るべきでしたかね)
ここはフランチャイズ経営の安居酒屋。
私は山崎大吾に連れられて街コンに来ていた。
『郡山氏! 郡山氏! ゲーム大好き集まれ街コンらしいですぞ! こんな機会もうないかもしれませんぞ!!』
そんな猛プッシュに負けてしまったことが悔やまれる。
「では、郡山氏の次はワタクシですかな? 山崎大吾、29歳。郡山氏と同じくレイライトで働いとります。職種はCEであります」
「ええ~! CE! CEってあれでしょ。社長とか常務とかみたいな偉い人でしょ! スゴーイ」
「ほっほっほ。もっと褒めてくれてもいいんですぞ」
CEOか何かと勘違いしているのだろう。
向かいの女のテンションがうなぎ上りだ。
(勘違いを正さない山崎さんもなかなかのものですね……)
私には真似できない。
誤解や不合理を抱えたまま会話するなんて気持ち悪い。
「じゃ、次はアタシね」
向かいの女が立ち上がった。
「立花サリナ、年齢は秘密で~す。職業フリーター。こないだまで派遣で事務やってたけど今は無職で~す」
今どきの若い女らしく、おしゃれな格好をしている。
とは思うが、ファッションに興味がない私は
『髪が短くて帽子をかぶった女』としか表現できない。
どのみち、知性を感じない女には興味がわかない。
「ほらほら、次はカナの番だよ。この子すごいんだからね」
「あ、はい。東島カナミと言います。よろしくおねがいします」
私の隣の女が、座ったままで丁寧に挨拶した。
きれいな黒髪ロング。化粧気の少ないところは好感が持てる。
「ええ~、それで終わりなの~? せっかくゲーム好きな人がいるだからさ~。もっとアピールしないと~」
立花サリナがうるさい。
「この子すごいんだから。『40ナイト』でSランクまで行ってるんだからね」
『40ナイト』は今もっともユーザーの多いバトルロワイヤルゲームだ。
世界的な大ヒットを飛ばしており、女子供にも大人気らしい。
「いや、たまたまだから……」
東島カナミは謙遜して答えるが、Sランクはゲーム内における最高ランクであり、そこまでたどり着くのは一握りだ。
「郡山さんもやってるでしょ40ナイト。ゲームうまそうだからすごく強いんだろな~」
立花サリナが被せてくる。
うっとおしい。
やたらと東島カナミに目配せしているのがさらにうっとおしい。
「ご期待に添えなくてすみませんね。Cランクから上にどうしてもいけないんですよ……ちょっと失礼」
気を悪くした振りをして席を立ち、そのままトイレに向かう。
小便器で用を足しながら、
「ふぅ……」
と、私は息をついた。
何度か街コンに来たことはあるが、こういうところで知り合う女性は、どうも好きになれない。
性欲よりも嫌悪感のほうが先にきてしまい、心のそこから楽しんだことがない。
「ま、数少ないお楽しみもありますけどね」
そう呟きつつチャックを閉めていると、ドンドンドンとトイレのドアがノックされた。
「郡山氏! 郡山氏! 早く! 早く! ワタクシの膀胱は、もう、もう、決壊寸前ですぞ!!」
聞き慣れた声が聞こえてくる。
「すみません、山崎さん。ちょっとキレが悪くてですね~」
わざと焦らしてみる。
「もう知りませぬ!! 郡山氏なんてあてにしませんからな!!」
バタンと音がした。
トイレのドアは開いていない。
(ということは……)
こことは別に女子トイレがあったので、そっちに入ったのだろう。
恥知らずを貫くところが清々しい。
(まあ、好都合ですけどね)
たっぷりとトイレで時間を潰させてもらったあと、手を洗って、自前のハンカチでよくよく手を拭いてから席に戻る。
山崎はとっとと用を足してしまったようで、置きっぱなしだった私のスマホを山崎立花コンビでいじっていた。
「人のスマホに何してるんですか?」
「ほっほっほ。大事なものを置いていくほうが悪いんですぞ?」
「そーそー。ほらほら見て見て~」
立花サリナがスマホの画面を向ける。
連絡先画面に「東島佳奈美」という文字と080から始まる電話番号が並んでいた。
「カナの電話番号登録しといたから、これからもよろしくしてあげてね~」
「あ、あの、サリナが勝手にすみません」
東島カナミは恥ずかしそうに俯いた。
その顔を見ながら私は、
(このしおらしそうな仮面の下が見てみたい)
と、思っていた。
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