幻飾イルミネーション

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あの光の園へと向かって

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4月。

ゴールデンウィークを控えた公園の花壇には、色とりどりの花が咲いていた。

「やっぱり薔薇が一番はなやかですよね~」

車から電線の束をおろしながら真理は加賀谷に言う。

「ああそうだな」

加賀谷の返事は投げやりだ。
まったく風情がない。

「綺麗なのはいいけどさ、薔薇はトゲがあるだろう」
「綺麗な薔薇にはトゲがあるって昔から言うじゃないですか」
「お前、今からやる作業わかってんのか?」
「うっ!」

ゴールデンウィーク期間の特列企画として、この公園では花を際立たせるように夜間ライトアップする。

ライトアップのための照明を花壇に配置するのが、今日のお仕事だ。

ということで、真理は今から照明に繋ぐ電線を花壇の中に這わせなければならない。

当然、薔薇の花壇の中もだ。

「薔薇のところは加賀谷さんに譲ってあげます」
「いや、薔薇が好きなお前のほうが適任だよ」

お互いに押し付け合うが、やはり下っぱの真理がやらざるをえない。

軍手をして露出を少なくし、真理は作業を開始した。

手近な花壇から始める。
なるべく薔薇は避けようとしていたが、順番が前後するだけで、やはり薔薇の群れに突入せざるをえなくなった。

「うう、ちくちくする……」

なんとか薔薇の花壇を脱出した真理は、一息ついて、公園の中央のほうに目をやった。

公園の中央には大きな木がそびえたっている。
12月と違って何の飾りもない。
5月の主役は彼じゃないのだ。

「そっちは終わったみたいだな」
「はい、おかげさまで」

次はポールを建てて、その上に照明を取り付ける作業だ。

しかしこの時間には設置されているはずのポールが見当たらない。

「なんか、作業員が遅れているらしい」
「そうですか。まあ、作業予定時間に間に合うなら別にいいんですけど」
「じゃあ、先に埠頭の倉庫に機材回収行ってきてくれ。少しのんびりしてきていいぞ。薔薇の中に突っ込んでくれたから特別手当だ」
「そんな気遣いいらないので、現金でください」
「時は金なりだよ。はやく行ってこい」


今日は倉庫で照明を回収して、それをそのままポールに取り付けるという段取りになっていた。
陽気の中、車を走らせ埠頭に向かう。

(せっかくだから一度家に帰ってシャワー浴びようかな)

そんなことも考えるが、そこまでやる時間はさすがになさそうだ。

倉庫に到着すると、中から重低音が漏れ聞こえてきた。
今日はバンドのライブのために貸し出されているのだが、そのライブがまだ終わっていないようだ。

(さすがにちょっと早すぎたか)

とりあえず裏口から勝手に入る。

轟音で演奏を続けるバンドの姿が舞台袖から見えた。

聞いたことの無い曲だし、うるさいとしか思わなかったが、金髪のボーカルには見覚えがある気がした。

「ありがと~~~~ぅ!!」

一曲終わったところでボーカルが叫ぶ。

観客がキャーキャー言っているところをみると、それなりに人気があるらしい。

「それじゃあ次が最後の曲はだ。胸に刻んで帰ってくれよな。『シャイニングロード』!」



ライブが終わった。
観客がある程度はけた頃合いを見計らって、バンドのリーダーに

「すみません、ライトの回収です」

と、声をかける。

「ああ、どうぞ」

そっけない返事を受け取ると、真理はさっそくコードをたぐって回収作業に入った。

「手際いいっすね。まだ若いのにすごいっすね」

気怠げな声で話しかけられた。
誰かと思って振り返ると、ボーカルの人だった。
私服に着替えたのか、よれよれのシャツを着ている。
そんな格好をしていると、倉庫番のバイトようだ。

「いえいえ私なんて。あれだけのファンがいるあなたのほうがすごいじやないですか」

とりあえずお世辞でも並べておく。

「舞台袖から聞いてたんすよね。どうだったすかね」

「えー…….」

さて、なんと答えたものやら。
気のきいたお世辞も思い浮かばないので、真理は正直に答えることにした。

「私はあまり、こういう音楽聴かないんでよくわからないんですけど、最後の曲はなんだか胸に滲みましたよ。感動しました」

「そうっすか。なら、また聞きに来て欲しいっす」

「あなたも、よかったら今日からの公園のライトアップ、見に来てください。
今からこのライト取り付けに行くんで。綺麗ですよ」

「いや、いいっす。この先の坂を登って見る方が綺麗なんすよね、あの公園。クリスマスの時も、すごく綺麗だったんすよ」

「……そうですよね。私もそう思います」

ちょうど、コードの回収が終わった。
ハロゲンライトをよいしょと脇に抱える。

「では、私はこれで」

「じゃ、また」

「はい。またよろしくお願いします」

ライトを抱えて車へ向かう。
なんだか足取りが軽いことに気づく。

(なんかいいことあったっけ?)

と、自問自答し気づく。

『すごく綺麗だった』

あのボーカルに、そう言われたことが嬉しかったのだ。

真理が作業したツリーの電飾をながめて、『綺麗だ』と思ってくれた人が少なくとも1人いた。

そのことが、嬉しくて嬉しくてたまらないのだ。

「さ、続きも頑張りますか!」

ライトを載せて車を発進させた。

公園に向かう真理の頭の中には、光り輝く花畑の光景が広がっていた。
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