ガミジ童話

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オリオンとサソリ

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むかしむかし。
ギリシャという国に、
海の神様と大地の神様がおりました。 

海の神様は海が平和になるように、
大地の神様は陸が平和になるように、
毎日、一生懸命働いていました。

 海の神様には、1人の子どもがおりました。
子どもの名前はオリオン。
とても強くて大きい男の子でした。
「お父さん、今日も海の平和を守りに行ってまいります」
そう言って出かけようとするオリオンに、
海の神様は声をかけます。 
「オリオンや、海の平和を守ってくれるのはありがたいけど、陸に行ってはいけないよ」
しかしオリオンは海の神様の言いつけを守らずに、
大地の神様が守っている陸のほうに出かけていきました。

「やあ、陸には海とは違う生き物がいっぱいだ。ちょっと遊んでやろうかな」 
そういうと、オリオンは草むらにいたヘビをぎゅっとつかんで引っ張り出すと、ぐるぐると振り回しました。
「わあ、これは面白い」
オリオンは大喜び。  
でも振り回されるヘビはたまりません。
あっという間に目を回してしまいました。

ぐったりしたヘビを見ると、オリオンはつまらなそうにヘビを草むらに放り投げました。
「他にも面白いものはないかな」
オリオンは、野原を跳ねていたウサギの耳をつかんで振り回し、草を食べていた牛の角をつかんでは投 げ飛ばし、嫌がるヤギの背にむりやり乗って、陸の上を駆け回りました。 
「ああ面白かった。また明日も遊びに来るとしよう」
日が沈みそうになると、オリオンは海へと帰っていきました。

オリオンの乱暴ぶりに、動物たちはみんな困ってしまいました。
そこでみんなで大地の神様に相談します。
「あの乱暴者のオリオンをやっつけてください」
しかし大地の神様は困ってしまいました。
神様は生き物たちを傷つけてはいけない。
それが神様たちの決まり事だからです。

「私はオリオンを罰することができません。誰か代わりにオリオンを懲らしめることはできませんか?」 
大地の神様は集まった動物たちを見回しました。
「僕がやる」
怖がっている動物たちの中から、小さな声がしました。
それは、ちいさな1匹のサソリでした。
「僕が、この尻尾でオリオンを懲らしめてやる」
サソリは自慢の尻尾と、その先についているトゲを得意そうに動かしました。
しかし大地の神様は不安そうな顔をしました。
サソリはとてもちっぽけで、トゲで刺す前にオリオンに踏みつぶされてしまいそうです。

 「チビスケは引っ込んでろ。俺がオリオンをやっつけてやる」 
そう言いながら、大地の神様の前に進み出た動物がいました。
力自慢のクマです。
「俺がオリオンをコテンパンにしてやりますよ。見ててください、神様」
クマは自信満々に言いました。
「わかりました。あなたにまかせましょう」
大地の神様は言いました。
まわりの動物たちもクマに向かって拍手喝采。
「僕だって、仲良しのヘビ君の仇をとりたいんだ……」
サソリの小さな声は拍手の音にかき消されてしまいました。

次の日、
「さあて、今日は何をして遊ぼうかなぁ」
そう言いながら、オリオンが陸にやってきました。
「ようし、じゃあ俺と遊んでくれよ」 
待ってましたとばかりにクマがオリオンの前に立ちふさがりました。
しかし、オリオンは驚きません。
「おや、今日は図体の大きいのが出てきたな。軽く遊んでやろうじゃないか」
そう言って笑うのです。

笑われたクマは頭にきました。 
勢いよくオリオンの体に掴みかかりました。
大きなクマから見れば、オリオンはちっぽけです。
オリオンの体はクマの両手に挟まれてしまいました。
「このままぺちゃんこにしてやる」
そう言ってクマは手に力を込めるのですが、 
どうしたことか、どんなに頑張っても、
オリオンがつぶれる様子がありません。
「なんだ、そのくらいなのか。じゃあこっちの番だな」
オリオンはクマの手からするりと抜け出ると、今度はクマの首に腕をかけて、グイグイと首を絞め始めました。
「ぐう、苦しい」
あまりの力に、クマは苦しくなってきました。
オリオンの声が聞こえてきます。
「せっかくこんな大きなやつに勝ったんだから、記念に毛皮をはいで持って帰るとしよう。そして家に飾るとしよう」
毛皮をはがされるなんてとんでもないことです。
 
「やめてくれ!」 
と、クマはあわてて叫びますが、オリオンの力はどんどん強くなるばかり。
いよいよ気を失いそうになったとき、
「僕がなんとかするよ」
と、小さな声が聞こえました。 
サソリです。
クマの毛皮の中に隠れてついてきたのです。
サソリはクマの体から飛び降りると、首を絞めるのに夢中なオリオンの後ろに回り込みました。
そして自慢の尻尾のトゲを、オリオンの踵めがけて、思いきり突き刺しました。
  
「いってーーーーーー」

火のついたような痛さでした。
オリオンは痛さのあまり、クマの首から腕を離して、ぴょんぴょんと跳ね回りました。
「いたい! いたい! いったい何が起こったんだ!」
そして自分を見つめる小さなサソリに気が付きました。
「お前がやったのか、踏みつぶしてやる!」
怒りに燃えるオリオンが叫びながらサソリを踏みつぶそうとしました。
しかし、
「はやく海に帰ったほうがいいよ。僕の尻尾には毒があるんだ。海の水で洗い流さないと死んじゃうよ」
サソリは涼しい顔で言いました。

オリオンは驚いた顔で足を止めました。     
 「ほら、傷口がじんじん痛むだろう。毒が広がっているんだよ。はやくしないと手遅れになるよ」
確かに痛みがひどくなっている気がしました。 
 それにどうも気分も悪くなってきたような気がします。
「お、覚えてろ!」 
そう言い捨てると、オリオンは海に向かって、走り出し、あっという間に見えなくなってしまいました。
「……ありがとよ」
クマが恥ずかしそうにお礼を言いますが、サソリは返事をしません。
なぜならサソリは気を失って、ひっくり返っていたからです。
サソリはオリオンのことがとても怖くて、倒れそうになるのを、ずっと我慢していたのでした。

それからというもの、オリオンは陸に来て動物たちをいじめることはなかったそうです。

サソリもクマも、今では夜空の星座になって暮らしています。
だけど痛い思いをしたオリオンは、今でもサソリがやってくると、空の彼方へと逃げていくと言われています。

(おしまい)
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