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第1章 邂逅
第4話 初フライト
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「OK、時間通りだな」
約束の時間に行くと彼は既に準備を終えていたのか、木箱に腰を掛けて待っていた。
時間には正確なのは良い事だし、身嗜みもきちんと整えられているのでちょっと安心できた。
(恐らくカリーナさんが慎重に選んでくれたのでしょうね…)
「おはようございます。お待たせしましたか?」
「いや、さっき準備が終わったところだ。トランクを預かろう」
「はい」
手慣れた様子で貨物室へ積み込み、固定するのを興味深く眺める。
「次にこれを背負ってくれ。万が一の場合のパラシュートと救命胴衣だ。っと髪は括ったほうが良いな」
そう言われて背負ったパラシュートの詳しい操作方法について指示を受ける。最後に『どうせ気休めだけどな』と言われたのは聞き返してしまった。つまりは大海原に無事降りても、見つけてもらえる可能性は極めて低いとの事だった。
でも話を聞くと確かにそうだろうなと思わなくもない。
「フィン、アリス、おはよう。軽食を持ってきたから機内で食べて」
そう言ってカリーナさんがやって来た。
「おう、気が利くな、サンクス」
「カリーナさん、ありがとうございます。今回はお世話になりました」
「いいのよ、また贔屓にしてくれれば。期待しておくからね」
「はい、是非」
「さて搭乗はこっちだ、踏み外さないように気を付けて」
手を引いてもらいタラップを上がり、開いたハッチからコックピットに乗り込む。
元三人乗りのコックピットの左後ろに乗る。ちなみにパイロット席の右後ろつまり隣が座席を取り外されトイレになっていた。
(確かにこれはオープン席ね…これで用を足すのは無理でしょ…)
トイレを茫然と見ていると、貨物機にする時にカリーナの提案で改造したと苦笑しながら教えてくれた。
「スイッチや計器には触るなよ、ベルトはこれだ。そこに差し込んでこれを引いて……」
授業の成績は悪い方ではないと自負している。しかしかれこれ十分は説明受けて、流石にそろそろ覚えきれなくなってきた頃に説明が終わったのでホッとする。
「とまぁここまで一通り説明したが、何もないことが一番だ。そして何かあったら大事にならない様祈るしかない」
勿論お祈りは欠かしていませんが…やっぱり失敗したかしら。
「じゃあ行こうか」
彼が操縦席に乗り込み声を掛ける。見送るカリーナさんへ手を振る。
「はい」
ハッチを閉めエンジンが掛かると心拍数が上がった。期待と不安で胸がドキドキするのがわかる。
何と言っても初めてのフライトなのだから、緊張するなと言うのは無理がある。
港内を移動し、外洋へ出たところで一度機体が停止した。フィンさんは計器を忙しくチェックしている。
斜め後ろからでは十分顔が見えないが、真剣なのは判った。
(こんなところでどうしたのかしら…)
流石に不安になったので聞いてみる。
「…あの、すみません。何かありましたか?」
「ああ、すまん。飛行前の最終チェックだ。心配いらないが、不安にさせてしまったか。一度飛び立つと長距離を飛び続けるからここで最終点検をする」
「なるほど、そうなのですね」
やがてエンジンが大きくなると加速し始めた。水上を疾走しているが思ったより衝撃が大きく感じる。水って柔らかいものじゃないの?と思っていたら一瞬の浮揚感と共に衝撃がなくなった。
(あぁ飛んでいる!凄い!凄いわ!)
体感する振動とエンジン音、それに風防を通してみる景色が強く心を揺さぶる。
エンジンがさらにうなり声をあげ、高度が上がっていく。
「飛行機は初めてって言ってたな。じゃサービスだ、景色を堪能してくれ」
「ありがとうございます!」
機体は大きく左旋回をしながら高度を上げていく。写真でしか見た事の無い地上の景色がものすごくよく見えて嬉しくなってくる。何周かして地上が小さくなった頃、進路を南に取り始めたので街並みは後方に消えた。
余りの素晴らしさに声が出なかった。息をするのを忘れていたかと思うほどの興奮だった。
そしてちょっと耳がおかしいのに気づき教わった通りに唾を飲み込んで耳抜きをする。
やがて雲を下に見る頃に少し息苦しかった事に気づく。そういえば『高度を上げると少々呼吸が苦しくなるが、それが普通だ。ただし頭痛や吐き気がしたら迷わずに言ってくれ』と言われていたのを思い出した。なるほどこういう事なのかと納得する。
それにしても素晴らしい景色だった。
「ここからは水平飛行に入る。現地まで6時間余りあるので、ベルトを少しだけ緩めて、ゆっくりしてくれていいぞ」
「判りました」
言われた通り少しだけベルトを緩めた。少し緊張が解けてホッとするのに気づいた。
「景色でも見ててくれと言いたいが、空と海しかないからな」
「いえ、とても素晴らしいです。本当に空の上がここまで素敵だなんて、私断然気に入りました!」
偽らざる本心だった。
「気に入ってくれたならよかった。見晴らしだけは正規航路の航空機より上だからな」
寧ろ見えすぎて日差しがきつくて困ると軽く愚痴を聞いたりする。
「もうしばらくしたら諸島の島が見え始めるはずだ」
「え!島が見えるのですか!!」
ちょっと声のトーンが上がってしましった。
「最初は小さな島だけどな、その前にカリーナの差し入れで腹ごしらえしよう」
サンドイッチを頬張っているとやがて島に気づいた。
「フィンさん、島が見えます。ほらあそこ」
「お、目が良いな。確かに諸島の島だ。コースは予定通りだから進路調整は不要だ。一時間もせずに到着する」
「はい、判りました」
「諸島がどれだけ美しいかゆっくり眺めとくと良い」
見えてくる島は深いブルーから岩礁で遮られたエメラルドグリーンの海に囲まれてとてつもなく美しかった。
そこから着水までの一時間弱は夢のような時間で、あっという間に過ぎて行った。
「フィンさん、私これほど美しいとは思いませんでした…」
「今日は特別美しいからな、これほどの天候は年に数日しかない。ラッキーだったな」
「はい!」
島がずいぶん多くなり至高の景色を堪能していると、やがて目的地に着いたことを告げられる。
「ほら、あれが目的の島エレミーナだ。諸島《サルティーナ》で三番目に大きな島だ」
島とは言っているがかなり大きく感じる。わずかな降下感が続き、高度を下げていくのを感じ再び緊張する。しかし前日同様の見事な着水で全く恐怖を感じなかった。
そして諸島《サルティーナ》に私は到着したのだった。
約束の時間に行くと彼は既に準備を終えていたのか、木箱に腰を掛けて待っていた。
時間には正確なのは良い事だし、身嗜みもきちんと整えられているのでちょっと安心できた。
(恐らくカリーナさんが慎重に選んでくれたのでしょうね…)
「おはようございます。お待たせしましたか?」
「いや、さっき準備が終わったところだ。トランクを預かろう」
「はい」
手慣れた様子で貨物室へ積み込み、固定するのを興味深く眺める。
「次にこれを背負ってくれ。万が一の場合のパラシュートと救命胴衣だ。っと髪は括ったほうが良いな」
そう言われて背負ったパラシュートの詳しい操作方法について指示を受ける。最後に『どうせ気休めだけどな』と言われたのは聞き返してしまった。つまりは大海原に無事降りても、見つけてもらえる可能性は極めて低いとの事だった。
でも話を聞くと確かにそうだろうなと思わなくもない。
「フィン、アリス、おはよう。軽食を持ってきたから機内で食べて」
そう言ってカリーナさんがやって来た。
「おう、気が利くな、サンクス」
「カリーナさん、ありがとうございます。今回はお世話になりました」
「いいのよ、また贔屓にしてくれれば。期待しておくからね」
「はい、是非」
「さて搭乗はこっちだ、踏み外さないように気を付けて」
手を引いてもらいタラップを上がり、開いたハッチからコックピットに乗り込む。
元三人乗りのコックピットの左後ろに乗る。ちなみにパイロット席の右後ろつまり隣が座席を取り外されトイレになっていた。
(確かにこれはオープン席ね…これで用を足すのは無理でしょ…)
トイレを茫然と見ていると、貨物機にする時にカリーナの提案で改造したと苦笑しながら教えてくれた。
「スイッチや計器には触るなよ、ベルトはこれだ。そこに差し込んでこれを引いて……」
授業の成績は悪い方ではないと自負している。しかしかれこれ十分は説明受けて、流石にそろそろ覚えきれなくなってきた頃に説明が終わったのでホッとする。
「とまぁここまで一通り説明したが、何もないことが一番だ。そして何かあったら大事にならない様祈るしかない」
勿論お祈りは欠かしていませんが…やっぱり失敗したかしら。
「じゃあ行こうか」
彼が操縦席に乗り込み声を掛ける。見送るカリーナさんへ手を振る。
「はい」
ハッチを閉めエンジンが掛かると心拍数が上がった。期待と不安で胸がドキドキするのがわかる。
何と言っても初めてのフライトなのだから、緊張するなと言うのは無理がある。
港内を移動し、外洋へ出たところで一度機体が停止した。フィンさんは計器を忙しくチェックしている。
斜め後ろからでは十分顔が見えないが、真剣なのは判った。
(こんなところでどうしたのかしら…)
流石に不安になったので聞いてみる。
「…あの、すみません。何かありましたか?」
「ああ、すまん。飛行前の最終チェックだ。心配いらないが、不安にさせてしまったか。一度飛び立つと長距離を飛び続けるからここで最終点検をする」
「なるほど、そうなのですね」
やがてエンジンが大きくなると加速し始めた。水上を疾走しているが思ったより衝撃が大きく感じる。水って柔らかいものじゃないの?と思っていたら一瞬の浮揚感と共に衝撃がなくなった。
(あぁ飛んでいる!凄い!凄いわ!)
体感する振動とエンジン音、それに風防を通してみる景色が強く心を揺さぶる。
エンジンがさらにうなり声をあげ、高度が上がっていく。
「飛行機は初めてって言ってたな。じゃサービスだ、景色を堪能してくれ」
「ありがとうございます!」
機体は大きく左旋回をしながら高度を上げていく。写真でしか見た事の無い地上の景色がものすごくよく見えて嬉しくなってくる。何周かして地上が小さくなった頃、進路を南に取り始めたので街並みは後方に消えた。
余りの素晴らしさに声が出なかった。息をするのを忘れていたかと思うほどの興奮だった。
そしてちょっと耳がおかしいのに気づき教わった通りに唾を飲み込んで耳抜きをする。
やがて雲を下に見る頃に少し息苦しかった事に気づく。そういえば『高度を上げると少々呼吸が苦しくなるが、それが普通だ。ただし頭痛や吐き気がしたら迷わずに言ってくれ』と言われていたのを思い出した。なるほどこういう事なのかと納得する。
それにしても素晴らしい景色だった。
「ここからは水平飛行に入る。現地まで6時間余りあるので、ベルトを少しだけ緩めて、ゆっくりしてくれていいぞ」
「判りました」
言われた通り少しだけベルトを緩めた。少し緊張が解けてホッとするのに気づいた。
「景色でも見ててくれと言いたいが、空と海しかないからな」
「いえ、とても素晴らしいです。本当に空の上がここまで素敵だなんて、私断然気に入りました!」
偽らざる本心だった。
「気に入ってくれたならよかった。見晴らしだけは正規航路の航空機より上だからな」
寧ろ見えすぎて日差しがきつくて困ると軽く愚痴を聞いたりする。
「もうしばらくしたら諸島の島が見え始めるはずだ」
「え!島が見えるのですか!!」
ちょっと声のトーンが上がってしましった。
「最初は小さな島だけどな、その前にカリーナの差し入れで腹ごしらえしよう」
サンドイッチを頬張っているとやがて島に気づいた。
「フィンさん、島が見えます。ほらあそこ」
「お、目が良いな。確かに諸島の島だ。コースは予定通りだから進路調整は不要だ。一時間もせずに到着する」
「はい、判りました」
「諸島がどれだけ美しいかゆっくり眺めとくと良い」
見えてくる島は深いブルーから岩礁で遮られたエメラルドグリーンの海に囲まれてとてつもなく美しかった。
そこから着水までの一時間弱は夢のような時間で、あっという間に過ぎて行った。
「フィンさん、私これほど美しいとは思いませんでした…」
「今日は特別美しいからな、これほどの天候は年に数日しかない。ラッキーだったな」
「はい!」
島がずいぶん多くなり至高の景色を堪能していると、やがて目的地に着いたことを告げられる。
「ほら、あれが目的の島エレミーナだ。諸島《サルティーナ》で三番目に大きな島だ」
島とは言っているがかなり大きく感じる。わずかな降下感が続き、高度を下げていくのを感じ再び緊張する。しかし前日同様の見事な着水で全く恐怖を感じなかった。
そして諸島《サルティーナ》に私は到着したのだった。
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