君の絵を探して

天海みつき

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光明の色

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 キーボードの上を順調に指が踊る。心地よいキーボードをたたく音が、部屋に響いている。青藍は夕食後、仕事部屋でパソコンに向かっていた。

 常盤と生活を共にして、半年ほどか。あれこれと騒動がないわけではない……どころか、掃いて捨てるほどあったが、それはまぁ良いだろう。青藍は常盤の描き出す絵――世界をトリガーに小説を書きなぐっていた。常盤の絵を見るだけで、少し前まで全く思いつかなかった様々な物語が紡がれていく。

 「登場人物は、まぁ、これでいいか。あとは構成。粗いプロットでいいから作れば後は勝手に動き出すか」

 石や花、多言語など。様々な情報から名前を考えたり、世界観を組み立てていく。登場人物と起承転結が決まれば、プロットの朧気な形が見える。それを言語化さえすれば、今度は文章に書き起こしていくことは難しいことではない。青藍は画面を見ているような、見ていないような、少し焦点の合わない瞳で画面を見据え続けた。

 「へぇ。これって小説?」
 「?!常盤!入るならノックしろ!」
 「え。入った事に怒られるかと思ったけどそうじゃないんだ」

 突然耳元で涼やかな声が響き、青藍は音を立てて飛びのいた。それでも椅子から落ちない所が常盤との違いか。照れ隠しも兼ねて怒鳴ると、きょとんとした顔が。自分の台詞を思い返して、思わず頭を抱える。完全に毒されている、と青藍は呻いた。

 「……分かってるなら入ってくるな出て行け」
 「えー。嫌。最初の時点で別に入って来ても怒られなかったもーん。僕が言わなきゃ別に気づかなかっただろーし」
 「てめぇ……」

 いつのまにやら、更に態度がデカくなっていたようだ。もともと図々しかったもんなぁ、と遠い目をすると、失礼な、と毛を逆立てて威嚇される。コロコロと変わる表情というか言動が本当に猫そっくりだ、と思いつつ。青藍はため息をついて諦めた。

 「それでそれで?これ、小説でしょ?!」
 「ああ。正確にはその前段階の設定作成中だがな」

 興味津々で画面を覗き込んでくる常盤によく見えるようそっと場所を譲る。案の定、一つの事に集中すると周りが見えなくなる常盤は、青藍のさり気ない動きに気付かずそのまま画面にかじりついている。

 「どんなの書くの?ファンタジー?ミステリー?恋愛?」
 「……その時の気分だ」
 「ってことは、全部?!」
 「まぁ、な」

 目を輝かせている常盤。子供の様な純粋な瞳に、青藍は思わず微笑した。ともに生活している内に気付いたが、絵を描いていないときの常盤は地味にかなりの量の本を読んでいる。ジャンルもまちまち。目にしないのは漫画だけ。

 「お前、結構本好きだよな」
 「好き。本読んでると、色んな世界が思い浮かんで、色んな絵が描きたくなる」
 「漫画は?お前の歳的には漫画の方が一般的じゃないのか?」
 「嫌い。だって、すでに絵があるんだもん。想像の余地が少なすぎる。つまんない」
 「その想像の結果が、あの発作か……。いいのか悪いのか」
 「あははは。それは、その。別って事にしておいて」

 単純明快。常盤は様々な想像の世界に住んでいる。常盤にとっては、絵も小説も、同じ想像の世界なのだろう。分からんでもない、と青藍は笑う。発作について触れられ、少々気まずそうな常盤をニヤニヤと眺めていると、形勢が不利になったのを覆そうとしたのか、常盤が叫ぶ。

 「あー。その話はお仕舞い!じゃなくて、青藍の話、読ませてよ!」
 「……」

 くわっと顔を近づけてくる常盤に、目を見開く。さあ出せ、今すぐだせ、と食いついてくる常盤に動揺し、ぐいっとその秀麗な顔を押しのける。

 「……却下。気が済んだだろう。仕事の邪魔だ」
 「ええ?!ずるい!散々人の絵を見ておきながら自分は出し惜しみ?!全然気が済んだって感じじゃないんだけど?!」
 「相変わらず喧しい奴だ……」
 「ええい!出て行くものか!常盤さんの執念なめるなよ?!」
 「っておい!常盤!離れろ!」

 ぎゃーぎゃーと喚いている常盤をどうにか宥めて放り出そうとするものの、何が何でも出て行かないと決意した常盤にしがみ付かれ。その温かい体温と、甘い匂いにドギマギしている内に、常盤がぷくりと頬を膨らませてさらに手足を絡みつかせてくる。

 「何でダメなのさ!いいじゃんか減るもんじゃない!」
 「……プライドの問題だ。スランプの所為でろくなモノが書けてないんだ。悪いか!」

 半分投げやりに答えると、常盤の動きが止まった。なんのかんの言いつつ、常盤も創作活動をしており、周囲もしている環境に居る。スランプというものがどれだけ精神的にキツイかは理解しているのだろう。この隙に、と首根っこを掴み上げると、子猫のようにぶら下がった常盤が唇を尖らせた。

 「スランプ。経験したこと無い」
 「だろうな。お前には無縁の言葉だろう」

 これだから天才肌は、と半眼になった青藍。これで終わりだ、と示したつもりだったのだが。

 「なんかあったの?」

 ズバリと切り込んできた常盤の台詞に、息をのんだ。
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