恋するαの奮闘記

天海みつき

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今日も今日とて

今日も今日とて愛を囁く(後編)

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 隙を見ては逃げ出そうとする恋人をマンションに引きずり込んだ青葉は、心ゆくまでその甘い体を貪った。悲鳴が甘い嬌声に、抵抗が催促に代わった頃には互いの体に溺れこんでいた。泣きじゃくりながら好きだ、と譫言の様に繰り返す碧の姿に胸が引き絞られる。

 「ったく。俺も大概だが、俺にここまでほれ込んでいるくせに、どうして逃げようとするかね」

 涙の跡に目尻を赤くして深い眠りについている最愛の恋人。そのサラサラとした髪を撫でながら、青葉はため息をついた。そっとその体を引き寄せ胸に抱え込むと、ふにゃりと顔が崩れる。

 「あおぉ」

 ムニュムニュと口元を蠢かせ、碧だけが呼ぶ愛称を口にする碧。夢の中でも己と一緒におり、慕っている事が一目でわかる表情を前に、青葉は甘い痺れが全身を駆け巡るのを感じた。

 「お前は俺の恋人だ。番に成れずとも、お前だけ」

 髪に顔を埋めて囁きかける。そばにいる時は幸せそうに笑い、当然の様にとなりに立っている。にも関わらず、Ωが現れると途端に姿を消す。泣きそうな顔で、何を言うでもなくそっと。そして慌てて追いかけてきた青葉にやんわりと微笑みかけるのだ。切なさと、安堵と、少しの不安を混ぜ込んだ笑みを。

 いつの日かΩを――運命を見出して去っていくのだろう、と思い込むこの臆病な恋人に。どうすればこの狂おしい思いが伝わるのか、どうしたら逃げる事を止めさせられるのか、そればかりを考える日々。

 縋ってきた細い指に己の指を絡めて遊ぶ。そんな彼の視界で、ふと携帯が通知を知らせるのが見えた。無視しようとしたが、家を始めとして無視したらまずい連絡が入っていても困る。渋々携帯に手を伸ばした青葉。メッセージの送信者に眉を顰める。

 「呉羽?」

 空気を読むことに長けた共通の友人の名前が表示されている。あの状況から今二人がどのような時を過ごしているかは察しがつくはず。にも関わらずメッセージを送ってきた事をいぶかしみ、文面を表示する。そして飛び込んできた内容に青葉は息をのんだ。



 ――――――――――

 あの馬鹿の事だから、何も言わずにいると踏んでリーク。

 実は今日告白してきたっていうΩ、前に碧に喧嘩売ってたんだよね。ちょうどそこに居合わせたんだけど、まぁ酷かった。青葉と別れろ、青葉をよこせ、お前が青葉と釣り合うと思っているのか、僕の方がふさわしい。だってさ。

 で、その時に碧が返した台詞、何だと思う?

 「彼がそう思い、君を選んだのであれば、喜んで。でも、その様子だと青葉にはまだ言っていないんじゃない?直接言う事なく、俺の方を先に潰しておこうって、潰しやすいって思ったんだろうけど……そんな事をしなければ彼を手に入れられないヤツを彼が選ぶとは思えない。彼に告げる前に俺を、って低俗な事を考える愚か者に靡くほど彼は安くないし、そんな奴が彼に相応しいとは思わない。少なくとも俺よりも、ね。真正面から向き合ったうえで、彼を手に入れたなら出直しておいで。そしたら喜んで身を引くさ」だと。

 ホント、愛されてんね。もう一押し、なんじゃないか?頑張れα様。

 ――――――――――



 ぱっと腕の中に視線を落とす。何時も逃げ回るくせに、それでもその胸のうちでは誰よりも青葉を想い慕っている彼。その不器用な愛し方に、熱いものが込み上げる。

 「まったく。馬鹿だよお前は」

 そっとその額にキスを落とし、体を横たえた。幸せそうにすり寄る恋人に頬を緩ませて目を閉じる。

 どれほど苦労しようとも、誰に認められずとも、碧が腕の中に居る幸せの為ならば。むしろ腕に居ない事の苦痛の方が耐えられない。それを再確認し、青葉は微睡む意識の中で、考える。起きた時にまたキャンキャン騒ぐ恋人に何と甘く囁くかを。そして、その言葉に紅く染まるであろう恋人の顔を堪能しよう。


 今日も今日とて、追いかけ、愛を囁く。

 いつかその愛が、本当の意味で碧に届くように。
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