10 / 16
混ぜるな危険
げに恐ろしきかな化学反応(前編)
しおりを挟む
司東家において、ごく最近作られた不文律がある。それは何か。
司東家の者に対して無礼を働いてはいけない?否。司東家の情報を漏らしてはいけない?否。そんな、普通の大富豪に対する不文律ではない。
では、何か。答えは、司東家次期当主兄弟の番に関する事である。
その1。彼らの番に対して否定的な言葉を吐いてはいけない。まぁ、長男の番に関しては言ったところで意味はない(むしろ燃え上がる)。次男の恋人はそもそも性別を抜きにすれば完璧すぎて言う者がいない(しかも長男が継ぐことが決まっているので次男の番がβの男でも問題なし)。なので、実質的にはこれはないに等しい。問題は次。
その2。司東兄弟に違う誰かを薦めてはいけない。長男の番に関しては、絶対である(なにせ狂喜乱舞して話を進めて長男が怒り狂う)。次男の恋人に関しても、使用人達は避けたいところだ(薦めたら薦めたで、本人はパフェ食べて満足したら何処かに行ってしまうだろうし、次男が怒り狂う)。しかし、そんな事よりも、重大な問題がある。
それは何か。
不文律その3。長男の番と次男の恋人を会わせてはいけない。使用人達の合言葉は、「混ぜるな危険。何が起こるかわかったもんじゃない」である。
「だってさ!失礼だと思わない?!」
「うーん。少なくとも、俺は普通の人間なのでその言われようは心外ですね」
「そうだよね!……って、少なくとも?!その心は?!」
「え、言葉通り?」
「碧ちゃん辛辣!」
とある日の昼下がり。某理由の為軟禁状態の紫がいる屋敷に、碧が訪ねてきた。正確に言えば、青葉の所属するゼミの教授に偶然頼まれごとをしたため、屋敷にやってきたのだ。
大学の教授界隈でも、彼らの騒動は有名である。なにせ、兄弟そろって3高を実現した超優良物件で、教授たちの覚えもめでたい成功者。にも関わらず、恋人と番に振り回されて不憫枠に押し込められているという謎現象が起きているのだ。有名にならないはずがない。
そんな訳で、教授に頼まれ青葉に渡すべき資料を預かった碧は考えた。青葉が普段使っているマンションで待った方がいいだろうか。だが、実家の方の仕事を手伝っていて忙しいとか。実家の仕事を手伝うときは生活の拠点が実家の屋敷に移る。渡すべき資料は至急って言われたし……。
そして碧はひらめく。そうだ。屋敷に行って待っていればいい。交際がいつまで続くか分からないけれど、すでに青葉の両親とは顔合わせ済み。いつでもおいでと言われているし、少し待たせてもらおう。無理そうだったら資料置いて帰ればいいし。俺、天才。
そんな訳で突撃訪問をかました碧は、使用人達に戦慄された。あまりの怯えように驚く碧をそっちのけで使用人達は考えた。さっさと追い返すわけにもいかないが、下手に屋敷に長居させたら、混ぜてはいけないものが混ざってしまう。いや、長居してくれる事は嬉しいのだが、そんな状況ではない!だったら答えは一つ!
と言う訳で、驚いている碧が我に返る前に青葉の部屋に放り込んだ使用人達。一仕事を終えた達成感で、涙した者もいたとかいないとか。後は青葉の部屋を見張っておけば万事解決、となるはずだったのだが、そうはならないのがこの二人である。
「碧様?!何故こちらに?!」
場所は図書室。ふらりと立ち寄った碧は、追いかけてきたメイドに悲鳴をあげられた。涙目の彼女にたじろぎながら、視線を泳がせる。
「えっと、暇だったのでレポート仕上げようとしたら資料が足りない事に気付いたので。ここだったらあるかなぁ、と」
「そのような事であれば私どもに申し付けて頂ければ……!」
「いやいや。この程度で皆さんの手を煩わせるのはちょっと……」
実に奥ゆかしい台詞である。平常時であれば、そのような気遣いが出来る事に涙しただろう。平常時であれば。
「で、紫様は何故こちらに?」
「そんなの決まってるでしょ!第n回ビバハーレム開設計画を練る為さ!ありとあらゆる資料をもとに、今度こそ成功させる!」
ふんす、と薄い胸を張る紫。紫付きのメイドの目がすでに絶対零度である。勉強熱心は構わないが、なぜハーレム開設計画を練る為に図書室に来た。相変わらず頭の中が吹っ飛んでいる佳人である。
「そしたら碧ちゃんがいたからテンション上がっちゃって!」
「そういえば紫さんに会うのは久しぶりですよね?何だかんだで合わないし……。地味に遭遇率が低い気が」
きょとん、と首を傾げる碧。可愛らしい顔付きも相まって、実に可愛らしい。こんな状況でなければ堪能したのに、と悲嘆にくれる使用人たちに引き気味である。というか、こんな状況って?と疑問符を浮かべた碧に応えたのが紫である。そして、冒頭の会話に戻る。
司東家の者に対して無礼を働いてはいけない?否。司東家の情報を漏らしてはいけない?否。そんな、普通の大富豪に対する不文律ではない。
では、何か。答えは、司東家次期当主兄弟の番に関する事である。
その1。彼らの番に対して否定的な言葉を吐いてはいけない。まぁ、長男の番に関しては言ったところで意味はない(むしろ燃え上がる)。次男の恋人はそもそも性別を抜きにすれば完璧すぎて言う者がいない(しかも長男が継ぐことが決まっているので次男の番がβの男でも問題なし)。なので、実質的にはこれはないに等しい。問題は次。
その2。司東兄弟に違う誰かを薦めてはいけない。長男の番に関しては、絶対である(なにせ狂喜乱舞して話を進めて長男が怒り狂う)。次男の恋人に関しても、使用人達は避けたいところだ(薦めたら薦めたで、本人はパフェ食べて満足したら何処かに行ってしまうだろうし、次男が怒り狂う)。しかし、そんな事よりも、重大な問題がある。
それは何か。
不文律その3。長男の番と次男の恋人を会わせてはいけない。使用人達の合言葉は、「混ぜるな危険。何が起こるかわかったもんじゃない」である。
「だってさ!失礼だと思わない?!」
「うーん。少なくとも、俺は普通の人間なのでその言われようは心外ですね」
「そうだよね!……って、少なくとも?!その心は?!」
「え、言葉通り?」
「碧ちゃん辛辣!」
とある日の昼下がり。某理由の為軟禁状態の紫がいる屋敷に、碧が訪ねてきた。正確に言えば、青葉の所属するゼミの教授に偶然頼まれごとをしたため、屋敷にやってきたのだ。
大学の教授界隈でも、彼らの騒動は有名である。なにせ、兄弟そろって3高を実現した超優良物件で、教授たちの覚えもめでたい成功者。にも関わらず、恋人と番に振り回されて不憫枠に押し込められているという謎現象が起きているのだ。有名にならないはずがない。
そんな訳で、教授に頼まれ青葉に渡すべき資料を預かった碧は考えた。青葉が普段使っているマンションで待った方がいいだろうか。だが、実家の方の仕事を手伝っていて忙しいとか。実家の仕事を手伝うときは生活の拠点が実家の屋敷に移る。渡すべき資料は至急って言われたし……。
そして碧はひらめく。そうだ。屋敷に行って待っていればいい。交際がいつまで続くか分からないけれど、すでに青葉の両親とは顔合わせ済み。いつでもおいでと言われているし、少し待たせてもらおう。無理そうだったら資料置いて帰ればいいし。俺、天才。
そんな訳で突撃訪問をかました碧は、使用人達に戦慄された。あまりの怯えように驚く碧をそっちのけで使用人達は考えた。さっさと追い返すわけにもいかないが、下手に屋敷に長居させたら、混ぜてはいけないものが混ざってしまう。いや、長居してくれる事は嬉しいのだが、そんな状況ではない!だったら答えは一つ!
と言う訳で、驚いている碧が我に返る前に青葉の部屋に放り込んだ使用人達。一仕事を終えた達成感で、涙した者もいたとかいないとか。後は青葉の部屋を見張っておけば万事解決、となるはずだったのだが、そうはならないのがこの二人である。
「碧様?!何故こちらに?!」
場所は図書室。ふらりと立ち寄った碧は、追いかけてきたメイドに悲鳴をあげられた。涙目の彼女にたじろぎながら、視線を泳がせる。
「えっと、暇だったのでレポート仕上げようとしたら資料が足りない事に気付いたので。ここだったらあるかなぁ、と」
「そのような事であれば私どもに申し付けて頂ければ……!」
「いやいや。この程度で皆さんの手を煩わせるのはちょっと……」
実に奥ゆかしい台詞である。平常時であれば、そのような気遣いが出来る事に涙しただろう。平常時であれば。
「で、紫様は何故こちらに?」
「そんなの決まってるでしょ!第n回ビバハーレム開設計画を練る為さ!ありとあらゆる資料をもとに、今度こそ成功させる!」
ふんす、と薄い胸を張る紫。紫付きのメイドの目がすでに絶対零度である。勉強熱心は構わないが、なぜハーレム開設計画を練る為に図書室に来た。相変わらず頭の中が吹っ飛んでいる佳人である。
「そしたら碧ちゃんがいたからテンション上がっちゃって!」
「そういえば紫さんに会うのは久しぶりですよね?何だかんだで合わないし……。地味に遭遇率が低い気が」
きょとん、と首を傾げる碧。可愛らしい顔付きも相まって、実に可愛らしい。こんな状況でなければ堪能したのに、と悲嘆にくれる使用人たちに引き気味である。というか、こんな状況って?と疑問符を浮かべた碧に応えたのが紫である。そして、冒頭の会話に戻る。
2
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説
真実の愛とは何ぞや?
白雪の雫
BL
ガブリエラ王国のエルグラード公爵家は天使の血を引いていると言われているからなのか、産まれてくる子供は男女問わず身体能力が優れているだけではなく魔力が高く美形が多い。
そこに目を付けた王家が第一王女にして次期女王であるローザリアの補佐役&婿として次男のエカルラートを選ぶ。
だが、自分よりも美形で全てにおいて完璧なエカルラートにコンプレックスを抱いていたローザリアは自分の生誕祭の日に婚約破棄を言い渡してしまう。
この婚約は政略的なものと割り切っていたが、我が儘で癇癪持ちの王女の子守りなどしたくなかったエカルラートは、ローザリアから言い渡された婚約破棄は渡りに船だったので素直に受け入れる。
晴れて自由の身になったエカルラートに、辺境伯の跡取りにして幼馴染みのカルディナーレが提案してきた。
「ローザリアと男爵子息に傷つけられた心を癒す名目でいいから、リヒトシュタインに遊びに来てくれ」
「お前が迷惑でないと思うのであれば・・・。こちらこそよろしく頼む」
王女から婚約破棄を言い渡された事で、これからどうすればいいか悩んでいたエカルラートはカルディナーレの話を引き受ける。
少しだけですが、性的表現が出てきます。
過激なものではないので、R-15にしています。
運命の人じゃないけど。
加地トモカズ
BL
αの性を受けた鷹倫(たかみち)は若くして一流企業の取締役に就任し求婚も絶えない美青年で完璧人間。足りないものは人生の伴侶=運命の番であるΩのみ。
しかし鷹倫が惹かれた人は、運命どころかΩでもないβの電気工事士の苳也(とうや)だった。
※こちらの作品は「男子高校生マツダくんと主夫のツワブキさん」内で腐女子ズが文化祭に出版した同人誌という設定です。
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。
嘘の日の言葉を信じてはいけない
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる