道ならぬ恋を

天海みつき

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未来

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 「これが、僕の抱えた事実。これで、全て」

 次々に流れ落ちる涙をそのままに、顔を上げたツェーダンが不器用に笑う。

 「でも、ごめんなさい。僕はきっと過去に戻ったとしても同じ道を辿ると思う」
 「気にするな。あの時のお前が最善だと判断したのだろう?それなら仕方ないし、きっとその距離を置いた期間はきっと俺たちに必要な時間だったのだろう。お互い冷静に向き合うために」

 あの時こうしていれば。そんな想いは沢山あれど、辿る道は同じだろう。そう告げたツェーダンは、その意図するところまでくみ取ってくれた男に、そっと微笑む。そのまま視線をずらして、微妙な顔で様子を見ているグランを視界に入れると目を細めた。

 「完璧に証拠隠滅したはずなんだけど。どうして気付いたの?」
 「あれで完璧って思ってたのならボケてるぞお前。あの時、全部お前がやっていた事になってたが、お前がやったにしては杜撰というか。名前が残っていなかったり、もろもろ矛盾したり不可能であった情報もあったり、まぁ、不審点はそこかしこに。で、そこから別の人物を疑っていたってなだけだ」

 まぁ、その事実を告げる前に見事に弟に番を奪われたと勘違いして嫉妬に暴走した馬鹿がやらかしてくれたんだが。そう言ってじっとりと睨みつけられ、ばつが悪そうにそっぽを向くオールター。クスクスと笑ったツェーダンは、静かグランを視線を合わせる。

 「君には選択肢がなかったというのは知ってる。それでも、僕は君を許さない」
 「そりゃどーも」
 「ねぇ。君に奪われたであろう僕の髪紐は?」
 「今は持ってない。まぁすぐに渡す事になるだろうさ」
 「そう。早めにお願い」

 大事な宝物なんだ、と呟く様子に察したのだろう。そっとツェーダンの目元に掛かる髪を掻き上げて、そっと瞳を覗き込む。

 「……許せ、とは言わん。そこまで愚かではないと、思いたい」
 「……うん。そうだね。僕の罪でもあれど、同時にあの子を奪った貴方を許さない。あの子にあったのは罪ではなく未来。それを理不尽に奪い去った」

 そっと動きの鈍い手を動かして、骨ばった無骨な手を握る。だから一つだけお願いがあります、そう呟いたツェーダンに、何でもいえ、と返す。

 「毎日一緒に花を摘んでください。一緒に悼んでください。そして、もし僕をもう一度傍においてくれるなら、いつかもう一度命を僕に授けてください。僕と一緒に、あの子の分まで愛してください。一生」
 「ああ」

 勿論だ。掠れた声で約束し。そっと手を握り返す。守れなかった幸せを今度こそ二人で掴み守ろうと誓って。
 そうして静かに未来へと思いを馳せていた二人だが、気まずそうな声に現実へと帰還を余儀なくされた。

 「あー。その件だがお二人さん。俺から一つ報告が」
 「……貴様には情緒や感情といったものがないのか」
 「ああん?戦闘しか頭になくて能がない馬鹿は引っ込んでろ」

 まさかのゲルヴァーに引いた顔をされたのが余程癇に障ったのだろうか。地を這う声で吐き捨てると、ゲルヴァーの蟀谷に青筋が。そのまま恒例の舌戦に突入しようとしたその瞬間。おそるおそるといった感じにドアがノックされ。

 「あ、の。そろそろ……いいですか?」
 「?!」

 ひょっこり顔を出した小さな人影。何気なく視線を向けたツェーダンが飛び上がり、苦悶に顔を歪めた。それでも起き上がろうともがき、オールターの手に掬い上げられる。そのオールターはといえば、呆然とした顔でその小さな人影を凝視していた。心細げにキョロキョロとしていたその人影は、ふとツェーダンを視界にとらえたのか、ぱっと顔輝かせ、そしてクシャリと歪めたかと思えば勢いよく駆け込んできた。

 「あーつまりはそういう事だ」

 そんなグランの投げやりな声を他所に。ツェーダンは飛び込んできた小さな体を抱きしめるのに必死だった。その人影は、小さな体で必死にツェーダンに縋り付き、泣きじゃくっている。興奮したように揺れる尻尾と、伏せられた大きな耳は、人々を安らかな眠りに誘う夜闇のそれ。

 「ダン、ダン!」
 「リィ、ごめんね、リィ!」

 失ったと、もう二度と会えないのだと思っていた愛し子との再会。偽りの色を落とし、小奇麗な恰好をしていたが、まぎれもなくリィだった。感涙にむせぶ二人の声が、再会を彩っていた。
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