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過去
1' 狂った歯車と、傷つけあう恋人たち
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お久しぶりです。不定期更新は変わりませんが、なんとなく道筋が見えた気がするので漸く先に進めます……!
第一章(現在)の最終話にも書きましたが、多少の修正と共に整理をしました。興味がある方は確認してくださいませ。
この先は過去に何があったのかを中心に、漸くメインカップルが絡みます。メインヒーローが地味に病んでますが、(生)暖かい目で見守ってやってください。悪いのはどちらかというと、ツェル君な気がするので……(遠い目)。
**********
いつ頃から歯車が歪んだのかは分からない。しかし、苦労も苦痛もなく全てを手に入れられる立場というのは獣人すらも堕落させてしまった。もともとハーレム気質のある獅子型。本来のライオンの在り方においても、食事も育児も他人任せで縄張り争いのみが雄の仕事。ともなれば、政をはじめとした全てを他人に投げ出そうとするのは自然な流れだったのかもしれない。夜な夜な見目麗しい男女を侍らせ酒池肉林の宴を繰り返した。
獅子獣人――王族による享楽は留まるところを知らなかった。ウーリィ国は豊かな自然とその恵みによって自給自足の生活を実現しているが、長年の王族の愚考は数多の食糧を食い荒らした。正確には、多量の食糧を絞り上げて余ったものを廃棄したのだ。金を始めとした装飾品も吸い上げられ、新たな物がなくなればそれを買うための資金を税の形で吸い上げた。結果として徐々に民の生活は苦しくなっていった。
貧困に喘ぐ者が真っ先に死んでいった。飢えと気候が原因だった。次にいわゆる一般家庭が崩壊していった。物価の上昇により、収入が消費を下回った。最後に裕福な者や高所得者がその姿を消した。稼いでも国に税の形で吸い上げられた。ついに人々の恨みつらみが王家に向けられた。
ついに生き残った人々は、レジスタンスを組織しその頂点には黒狼の姿があった。狼もまた群れで生きる生物であり、曲者揃いでまとまりのない組織を瞬く間に整理し統率する事が出来たのだ。
混じりけの無い黒髪、凛々しく整った顔立ちに、彼の意志を象徴するように力強く立ち上がった耳。常に先頭に立ってピンと伸びた背を見せる彼を、誰もが慕った。側近になりたいと猛者や知恵者が名乗りを上げ腕を競った。寵愛を欲して自慢の美貌を磨き上げた者もいた。然して時も経たずに彼の周りは精鋭が固め、彼の隣には穏やかな雰囲気を纏った聡明で華奢な青年が並び立った。
青年は猫獣人だった。澄んだ湖面の様な碧眼は優しい光を宿し、ふわふわと広がる金糸の髪は穏やかな彼の雰囲気に良く似合っていた。ユラユラと揺れる細い尻尾は驚くとふわりと毛を逆立てて太さを増し、それを面白がった黒狼によって良くどっきりを仕掛けられていた。じゃれ合う二人は神々しく、多くの者の心を和ませた。
獅子と狼の闘いは一進一退を繰り返した。長い闘いに悲鳴をあげる者も少なくなかった。しかし、少しずつ、本当に少しずつ狼の軍勢は重要な局面で勝利を重ねるようになっていった。その数が増える毎に、虐げられ続けた獣人たちはその瞳に光を取り戻し、士気を高めていった。……ただ一人を除いて。
黒狼の最愛たる猫獣人の青年は、日に日に翳った表情を見せるようになっていった。青年自身が悟られないよう気を使っていたため、長らくその憂いに気付く者はいなかった。最初に異変に気づいたのは、やはり黒狼だった。
それから誰が尋ねても、黒狼が抱きしめても、青年はただただ大丈夫と繰り返し微笑むだけだった。その姿にもどかしさを感じつつも黒狼の肩には重い荷物がのしかかっており、本人が大丈夫と言っているのだからと自らに言い聞かせその違和感を後回しにしていた。
その事を後に心から悔やむ日が来るとは知らずに。
第一章(現在)の最終話にも書きましたが、多少の修正と共に整理をしました。興味がある方は確認してくださいませ。
この先は過去に何があったのかを中心に、漸くメインカップルが絡みます。メインヒーローが地味に病んでますが、(生)暖かい目で見守ってやってください。悪いのはどちらかというと、ツェル君な気がするので……(遠い目)。
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いつ頃から歯車が歪んだのかは分からない。しかし、苦労も苦痛もなく全てを手に入れられる立場というのは獣人すらも堕落させてしまった。もともとハーレム気質のある獅子型。本来のライオンの在り方においても、食事も育児も他人任せで縄張り争いのみが雄の仕事。ともなれば、政をはじめとした全てを他人に投げ出そうとするのは自然な流れだったのかもしれない。夜な夜な見目麗しい男女を侍らせ酒池肉林の宴を繰り返した。
獅子獣人――王族による享楽は留まるところを知らなかった。ウーリィ国は豊かな自然とその恵みによって自給自足の生活を実現しているが、長年の王族の愚考は数多の食糧を食い荒らした。正確には、多量の食糧を絞り上げて余ったものを廃棄したのだ。金を始めとした装飾品も吸い上げられ、新たな物がなくなればそれを買うための資金を税の形で吸い上げた。結果として徐々に民の生活は苦しくなっていった。
貧困に喘ぐ者が真っ先に死んでいった。飢えと気候が原因だった。次にいわゆる一般家庭が崩壊していった。物価の上昇により、収入が消費を下回った。最後に裕福な者や高所得者がその姿を消した。稼いでも国に税の形で吸い上げられた。ついに人々の恨みつらみが王家に向けられた。
ついに生き残った人々は、レジスタンスを組織しその頂点には黒狼の姿があった。狼もまた群れで生きる生物であり、曲者揃いでまとまりのない組織を瞬く間に整理し統率する事が出来たのだ。
混じりけの無い黒髪、凛々しく整った顔立ちに、彼の意志を象徴するように力強く立ち上がった耳。常に先頭に立ってピンと伸びた背を見せる彼を、誰もが慕った。側近になりたいと猛者や知恵者が名乗りを上げ腕を競った。寵愛を欲して自慢の美貌を磨き上げた者もいた。然して時も経たずに彼の周りは精鋭が固め、彼の隣には穏やかな雰囲気を纏った聡明で華奢な青年が並び立った。
青年は猫獣人だった。澄んだ湖面の様な碧眼は優しい光を宿し、ふわふわと広がる金糸の髪は穏やかな彼の雰囲気に良く似合っていた。ユラユラと揺れる細い尻尾は驚くとふわりと毛を逆立てて太さを増し、それを面白がった黒狼によって良くどっきりを仕掛けられていた。じゃれ合う二人は神々しく、多くの者の心を和ませた。
獅子と狼の闘いは一進一退を繰り返した。長い闘いに悲鳴をあげる者も少なくなかった。しかし、少しずつ、本当に少しずつ狼の軍勢は重要な局面で勝利を重ねるようになっていった。その数が増える毎に、虐げられ続けた獣人たちはその瞳に光を取り戻し、士気を高めていった。……ただ一人を除いて。
黒狼の最愛たる猫獣人の青年は、日に日に翳った表情を見せるようになっていった。青年自身が悟られないよう気を使っていたため、長らくその憂いに気付く者はいなかった。最初に異変に気づいたのは、やはり黒狼だった。
それから誰が尋ねても、黒狼が抱きしめても、青年はただただ大丈夫と繰り返し微笑むだけだった。その姿にもどかしさを感じつつも黒狼の肩には重い荷物がのしかかっており、本人が大丈夫と言っているのだからと自らに言い聞かせその違和感を後回しにしていた。
その事を後に心から悔やむ日が来るとは知らずに。
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