道ならぬ恋を

天海みつき

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17 責任の追及のはずが、見つかった嵐を呼ぶ想定外

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 同時刻。とある森の中を、一人の獣人が供を引き連れて馬で駆けていた。

 「ああもう、馬ってどうしてこんなに乗ってるだけで疲れるんだろうなっ!」
 「馬車で行きますかと伺った時に馬で行くと答えられた方はどなたでしたっけ?」

 ついでに下噛みますよ、と冷たくあしらわれ、およよと泣きまねをするこの男。宰相を務めるグランである。周りを固めるのは護衛を務める騎士たち。熊に豹に虎に、と豪勢なラインナップである。しかし、暴走したグランによって近衛隊の審査基準に顔面偏差値を入れられそうになり、迷惑を被ったせいかグランを見やる瞳は冷ややかである。

 「ホント、黙って仕事だけしていれば尊敬に値するんだけど」
 「最近俺に対する当たりが冷たくない?!」

 ぼそりと呟かれた騎士の本音に、グランが悲鳴をあげる。自業自得だろうという視線を受けて、今度こそ本当に泣きそうな表情になる。気に留めてくれる者はいないが。

 「それはそうとグラン様。この先には何が?」
 「ああ。ちょっと野暮用でな」

 さっさと切って捨てて話題を変える優秀な護衛にじとっとした視線を向けるが、すぐに思考を切り替えてため息交じりに応える。そっと胸に手を当てる。そこにはアクアから貰った情報の紙片。探し物がある可能性がある場所を記したもの。

 「悪いな強行軍で。他のヤツに気取られたくなくて、どうしても視察のついでにしたくてな」
 「お気になさらず。仕事ですから」

 グランの探し人は、ウーリィ国では悪名高い。王城内部にも彼をよく思っていない者も少なくなく、何をおいてもまずは真実を知りたいと考えているグランには都合が悪い。その為、目的地の近くにわざわざ視察の仕事を作り、口の堅い騎士を護衛に付けてここまで来たのだ。顔なじみの彼らならば信頼できる、とチラリと視線を向けると、その内の一人からもの言いたげな視線を向けられた。

 「どうした」
 「どうなさるおつもりですか。この先に彼がいたとして」
 「さぁな。少なくとも、表立って庇うつもりはない」

 あっさりと薄情ともとれる台詞を返され、騎士たちは目を見開いた。ここまで必死に動いているのだから庇うつもりだろうと思っていたのだが、と言外に伝えてくる彼らに、グランは皮肉げに笑った。

 「俺は真実が知りたいのさ。そうでなければ、正しい選択をすることが出来ない。今回で言えば、アイツは何も言わずに投獄され、言い訳も何もせずに姿を消した。アイツが本当に黒ならば、それに見合った罰を下してクーデターは終結。白ならば、俺たちは冤罪を見過ごしていた事になる」
 「しかし、ハッキリ言って国にとってはどうでもいいことでは?」
 「ああ。国からすれば大した話じゃないからな。放っておくのが正解だ。なにせ、現状において問題はなく物事が動いているんだからな」

 冷静な指摘を受け、グランは笑った。私情にかられるな、と冷静にいさめてくれる者がいてくれる事のどれだけ有難いことか。しかし、それを理解した上で動いているのだと、だからこそ彼らに知っていてもらいたい。

 「でもよ、王って言ったって人である事には変わらない。昔から、今に至っても、そしてこの先も。俺たちはアイツに苦痛を強い続け、国の為に全てを捧げさせるんだぜ?それが俺たちの支払う夢の代償って言ったって、アイツばっかり払い過ぎだと思わんかね」
 「……それは」
 「代償を支払うのは当然。それから逃げる事は俺も許さないし、アイツも望まない。でもさ、せめてその代償を共に背負ってくれる誰かがいたとしても、バチは当たらないと思わねぇか?」

 これが、大きな責任を王に追わせてしまった彼の、彼らの唯一の謝意であり誠意。昔の面影なく人形の様になってしまったオールターを知っているからこそ、そして皇を敬愛するからこそ、騎士たちも返す言葉は無かった。まぁ、それだけじゃないんだけどな、とグランは続ける。一転して恐ろしく冷たい瞳で。

 「一人だけ、それから逃げた馬鹿がいんだろうが。責任から逃れようなんて、そんなの許せる訳ねぇだろうが」

 だからこそ、今度こそ、彼の口から真実を問いただし、沙汰を下す。それが、彼のとるべき責任だとグランは考えている。アイツと俺らを残して逃げようなんて許すわけないだろうと好戦的に笑ったグランは一言呟く。

 「急ぐぞ」

 それに無言で応じた騎士たちがスピードを上げたその瞬間だった。

 「きゃーーー!!」

 進行方向から、幼い少女の悲鳴が聞こえてきた。ぱっと反応した騎士たちが警戒を強めグランの様子を窺ってくる。どうするか、と視線で指示を求められたグランは、一瞬の逡巡の後、クイッと顎をあげた。騎士たちがすぐに意をくみ取り、視線を交わし合うと、声が聞こえた方に馬の足を進めた。

 その次の瞬間、パッと視界が開けたかと思うと、川辺に彼らは躍り出た。素早く視線を巡らせた先に、子供が一人川に流されているのが見えた。先程の悲鳴は彼女の者で、その奥には同じ年ごろであろう子供たちが集団でたむろしていた。川遊びをしていて足を滑らせたのだろう、と一瞬で判断した騎士の一人が騎乗したまま川に飛び込む。

 その様子が見えていなかったのか、それとも急に飛び出してきた騎士に反応できなかっただろうか。一人の少年が流される子供を追って近くまで走り寄って来ていた。その後ろにももう一人少年が。彼らは慌てて飛び込もうとする体制を中途半端に止めた体制で急ブレーキをかけた。その瞬間、騎士が勢いよく川に飛び込んだ為、大量の水が彼らに降り注いだ。

 「大丈夫か!」

 慌ててグランは騎士の間をかき分け、少年達に近寄った。流されていた少女は、寸前で馬から滑り降りた騎士の一人に確保されている。それを横目で確認したグランは、騎士たちが息をのむ音を聞いて眉をしかめると、改めて視線を少年達に向けた。そして、同じように息をのむ。

 「うわ冷た……」
 「これって飛び込まなくて正解……?リィ大丈夫?」
 「何とか。あの子もこの人達に助けられたみたいだし」

 のんびりと会話を交わす少年達。チラリと視線が向けられ様子を窺われているのは分かったが、グランは動けないままだった。少年の一人は鈍色をした犬の獣人。その子は良い。問題は、もう一人。リィと呼ばれたその少年は。

 「きみは……」

 呻いたグランは、ようやく回り始めた頭で、思った。なんと言うか、想定外の展開すぎてキャパオーバー。

 彼を求めて走り続けた先に居たのは。嵐を呼ぶであろうとんでもない隠し玉だった。



**********
リィ君が国側の人間(過去の関係者)とようやく接触……。文才なるものが喉から手が出る程には欲しいです(切実)。
本当に、お付き合いくださってありがとうございます……(遠い目)。
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