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裏話
終末――7
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展開のテンポ的に没になったお話。(主に作者の能力不足の所為で)まともな喧嘩シーンがなかなか出せなかったので、流石にと書いてみました。
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数多の星々を従えた満月が、冷え冷えとした光を纏って天に座している。夜を支配する女王といった風情のそれが照らし出す路地を、いくつもの影が駆け抜けていく。
「おせぇぞ」
「お楽しみは最後に取っておくのがセオリー。せっかちな男はモテないよ朱雀」
「お前に心配される謂れはねぇよ」
その路地の先で壁に寄り掛かって立っていた人物。戦闘を走る銀色の光に気付いた彼は、ゆったりとした動作で路地の真ん中に歩み出る。ビルの隙間から月の光に照らされたその精悍な顔を見て、少年は足を止めた。
あいさつ代わりの軽口をたたきつつ腕を掲げると、相手も同じように腕を掲げて軽くぶつける。その背後に控える男を一瞥すると黙って頷き返される。
「さて、行きますか皇帝?」
「それ止めて。俺は聖だっての」
ニヤリと笑って隣に立った高宮に、聖月は嫌そうに顔を顰めた。しかし、それ以上に会話をすること無く口を閉じると、同時に地を蹴った。その後ろを数多の青年達が躊躇うことなく付き従う。決戦の地はすぐそこにある。
向かった先は、前回三チームがぶつかった場所。
「地理的条件ではそっちの方が有利な場所なんだがなぁ?」
「人数的にはどっこいどっこい何だしいいじゃん。しかも、前回の再戦なら同じ場所でやらなきゃ」
前回とは違って広場に立って待ち受けていた古宮。その体躯からは威圧の気配が滲み出ている。迷うことなく歩み寄った聖月が飄々とした声でまぜっかえす。同行者の高宮は呆れ顔だ。
「俺が言うのも何だが、気を付けろ?コイツ、口を開けばどうなるか分からないからな」
「口も立つが、それによって有利な状況を作り出すか。覚えておこう」
「ちょっと朱雀。どっちの味方なのさ」
「まかり間違ってもお前の敵になりたくはないが、味方とも言いたくない」
「酷ーい」
面白そうに笑う古宮。既に疲れ切った様子の高宮が誰の所為だ、と聖月を睨みつけている。当の本人は、語尾にハートを付けているかのように可愛らしく不満を述べている。ぷくっと膨らんだ頬と腰に手を当てる仕草も相まって可愛らしいが、そのわざとらしい可愛らしさに騙される者はいない。寧ろ、冷やかな瞳がいくつも突き刺さり、益々拗ねた聖月がそっぽを向く。
「ったく。ホントにガキかこいつは。よく付き合ってられるな」
「俺も時々自分を全力で褒め称えたくなる」
「……まぁ、一緒にいて退屈しないぞ?過労死もしくは発狂ギリギリまで弄ばれるが」
「いや、その時点でアウトだろう」
腹を抱えて笑い転げる古宮。褒めて、と見当違いの期待を古宮に向ける高宮を見る限り、かなり追い詰められているようだ。しかも割って入るのはフォローになってないフォローを繰り出す竜崎。最早収拾がつかない。
そんな和やかな会話をするトップとは対照的に、周囲の部下たちは互いに威嚇し合い緊張感が急速に満ちて行っている。少しでも触れれば破裂しそうな空気感に、トップ四人もやれやれと息をついて意識を切り替える。
「ま、冗談はここまでにするとして」
ゆったりと伸びをした聖月が緊張感ゼロの声でそう告げたかと思うと、すっと体勢を戻して再び古宮に視線を合わせる。その時には、獲物を狙う獰猛な獣の瞳をしていた。優雅な仕草で口元に細い指を寄せたかと思うと、じっくりと舐り上げる。白と赤のコントラストが古宮とその配下の目焼き付き、華奢な体からむせ返るような色気が立ち上る。血に飢えた暴力的な色を宿した色気が。
「たのしい、たのしい、けんかのじかんだよぉ?」
甘ったるく囁きかける聖月。一気に緊張感を極限まで引き上げる。集まった全員が低く腰を落としいつでも動けるように構える。重く張り詰めた空気が皆の体を押さえつけて動きを止める。しかし、その空気から本能が逃走するよう体に警鐘を鳴らしているかの如く、今にも叫び出して我武者羅に動きたくなるという矛盾。ポタリ、と誰かの汗が滴り落ちたかと思うと、違う場所で誰かの足元でジリリと地面が呻き声をあげる。
均衡を破って先に仕掛けた方が主導権を握る。それが分かっているから、誰もがその第一歩を踏み出そうとし、同時に相手からそうはさせないと圧を受けて踏みとどまる。水面下の攻防が繰り返される。その時だった。
張り詰めた空気の中でも笑みを浮かべて悠然と手をポケットに突っ込んで立つ古宮に対し、聖月が無邪気に微笑んだ。その次の瞬間だった。双方の陣営が睨み合う最中、能天気な声と共に飛び出したのは白い影。反射的に伸ばした竜崎の手をすり抜け、古宮の懐に飛び込んだのだ。
「いっちばんのりぃ!」
「あの馬鹿っ!」
すっと滑らかな動作で古宮に肉薄した聖月が回し蹴りを放つ。額に手を当てて呻く竜崎。対する古宮はぱしっと音を立てて蹴りを受け止めると、凄絶に笑んだ。それに聖月もニヤリと笑い返すと、体をひねって足の自由を取り戻し距離を置く。一拍置いて二人の族長が同時に飛び出して中心でぶつかり合う。
「ちっ!てめぇら!聖に先越されてんじゃねぇぞ!行け!」
「うぉらぁあああああ!」
舌打ちした竜崎が間髪入れずに仲間をけしかけ、同時に素戔嗚の連中も勢いよく飛び出してくる。戦いの火ぶたが切って落とされた。
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数多の星々を従えた満月が、冷え冷えとした光を纏って天に座している。夜を支配する女王といった風情のそれが照らし出す路地を、いくつもの影が駆け抜けていく。
「おせぇぞ」
「お楽しみは最後に取っておくのがセオリー。せっかちな男はモテないよ朱雀」
「お前に心配される謂れはねぇよ」
その路地の先で壁に寄り掛かって立っていた人物。戦闘を走る銀色の光に気付いた彼は、ゆったりとした動作で路地の真ん中に歩み出る。ビルの隙間から月の光に照らされたその精悍な顔を見て、少年は足を止めた。
あいさつ代わりの軽口をたたきつつ腕を掲げると、相手も同じように腕を掲げて軽くぶつける。その背後に控える男を一瞥すると黙って頷き返される。
「さて、行きますか皇帝?」
「それ止めて。俺は聖だっての」
ニヤリと笑って隣に立った高宮に、聖月は嫌そうに顔を顰めた。しかし、それ以上に会話をすること無く口を閉じると、同時に地を蹴った。その後ろを数多の青年達が躊躇うことなく付き従う。決戦の地はすぐそこにある。
向かった先は、前回三チームがぶつかった場所。
「地理的条件ではそっちの方が有利な場所なんだがなぁ?」
「人数的にはどっこいどっこい何だしいいじゃん。しかも、前回の再戦なら同じ場所でやらなきゃ」
前回とは違って広場に立って待ち受けていた古宮。その体躯からは威圧の気配が滲み出ている。迷うことなく歩み寄った聖月が飄々とした声でまぜっかえす。同行者の高宮は呆れ顔だ。
「俺が言うのも何だが、気を付けろ?コイツ、口を開けばどうなるか分からないからな」
「口も立つが、それによって有利な状況を作り出すか。覚えておこう」
「ちょっと朱雀。どっちの味方なのさ」
「まかり間違ってもお前の敵になりたくはないが、味方とも言いたくない」
「酷ーい」
面白そうに笑う古宮。既に疲れ切った様子の高宮が誰の所為だ、と聖月を睨みつけている。当の本人は、語尾にハートを付けているかのように可愛らしく不満を述べている。ぷくっと膨らんだ頬と腰に手を当てる仕草も相まって可愛らしいが、そのわざとらしい可愛らしさに騙される者はいない。寧ろ、冷やかな瞳がいくつも突き刺さり、益々拗ねた聖月がそっぽを向く。
「ったく。ホントにガキかこいつは。よく付き合ってられるな」
「俺も時々自分を全力で褒め称えたくなる」
「……まぁ、一緒にいて退屈しないぞ?過労死もしくは発狂ギリギリまで弄ばれるが」
「いや、その時点でアウトだろう」
腹を抱えて笑い転げる古宮。褒めて、と見当違いの期待を古宮に向ける高宮を見る限り、かなり追い詰められているようだ。しかも割って入るのはフォローになってないフォローを繰り出す竜崎。最早収拾がつかない。
そんな和やかな会話をするトップとは対照的に、周囲の部下たちは互いに威嚇し合い緊張感が急速に満ちて行っている。少しでも触れれば破裂しそうな空気感に、トップ四人もやれやれと息をついて意識を切り替える。
「ま、冗談はここまでにするとして」
ゆったりと伸びをした聖月が緊張感ゼロの声でそう告げたかと思うと、すっと体勢を戻して再び古宮に視線を合わせる。その時には、獲物を狙う獰猛な獣の瞳をしていた。優雅な仕草で口元に細い指を寄せたかと思うと、じっくりと舐り上げる。白と赤のコントラストが古宮とその配下の目焼き付き、華奢な体からむせ返るような色気が立ち上る。血に飢えた暴力的な色を宿した色気が。
「たのしい、たのしい、けんかのじかんだよぉ?」
甘ったるく囁きかける聖月。一気に緊張感を極限まで引き上げる。集まった全員が低く腰を落としいつでも動けるように構える。重く張り詰めた空気が皆の体を押さえつけて動きを止める。しかし、その空気から本能が逃走するよう体に警鐘を鳴らしているかの如く、今にも叫び出して我武者羅に動きたくなるという矛盾。ポタリ、と誰かの汗が滴り落ちたかと思うと、違う場所で誰かの足元でジリリと地面が呻き声をあげる。
均衡を破って先に仕掛けた方が主導権を握る。それが分かっているから、誰もがその第一歩を踏み出そうとし、同時に相手からそうはさせないと圧を受けて踏みとどまる。水面下の攻防が繰り返される。その時だった。
張り詰めた空気の中でも笑みを浮かべて悠然と手をポケットに突っ込んで立つ古宮に対し、聖月が無邪気に微笑んだ。その次の瞬間だった。双方の陣営が睨み合う最中、能天気な声と共に飛び出したのは白い影。反射的に伸ばした竜崎の手をすり抜け、古宮の懐に飛び込んだのだ。
「いっちばんのりぃ!」
「あの馬鹿っ!」
すっと滑らかな動作で古宮に肉薄した聖月が回し蹴りを放つ。額に手を当てて呻く竜崎。対する古宮はぱしっと音を立てて蹴りを受け止めると、凄絶に笑んだ。それに聖月もニヤリと笑い返すと、体をひねって足の自由を取り戻し距離を置く。一拍置いて二人の族長が同時に飛び出して中心でぶつかり合う。
「ちっ!てめぇら!聖に先越されてんじゃねぇぞ!行け!」
「うぉらぁあああああ!」
舌打ちした竜崎が間髪入れずに仲間をけしかけ、同時に素戔嗚の連中も勢いよく飛び出してくる。戦いの火ぶたが切って落とされた。
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