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終末

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 竜崎からの説明を簡潔に纏めるとこうなる。

 まず、開催時期はクリスマス直前。発表はクリスマスイブに行われ、その後は祝祭クリスマスパーティーが行われる。投票は全校生徒、票を入れる相手は基本的には誰でも良いという事になっているらしい。そして、ランキング上位の人間から次期生徒会が選出される。

 このランキングは、基本的に人気のある生徒、分かりやすく言えば親衛隊持ちが基本的に選出されることが多い。昨年度は高宮をはじめとした生徒会のメンバーと竜崎や怜毅と言ったところが票を集めた。竜崎に至っては高宮に次いで次点だったという。しかし、彼は既に風紀に所属していたため生徒会入会はパスされ、繰り上がりされていってメンバーが選出されたとの事。

 「ランキングで選ばれた方が優先じゃないの?」
 「風紀は別だ。風紀はその活動の特異性から風紀委員長が任命権を持ち、基本的に一年の時から鍛え上げる。そのため、風紀に所属している場合は本人の希望にもよるが、基本的には辞退になる」
 「なるほどね」

 丁度颯斗や聖月のような感じだな、と言われうなづく。書類仕事を手伝っている際に気付いたが、何人か一年から有望そうな生徒のリストがあった。そこから吟味を重ねて選出するのだろう。でも、と聖月は呆れ顔で資料から顔を上げた。

 「人気投票で選出していいものなの?普通の学校ならそれでいいだろうけど、ここはナンバーズの学園だよ?」

 教師が運営する通常の学校と違って、第九学園などの数字の着く学園は生徒自治の名目で生徒が学園の運営をする。極端な話、顔だけ良くて頭は空っぽ、といった人間が選出されるリスクの高い方法で生徒会を決定するなど、勝機の沙汰ではないと聖月は指摘しているのだ。しかし、そんな事かと竜崎はあっさりと言い放った。

 「今に始まった話じゃないだろう。なにせ、俺たちが入った時なんて学園崩壊一歩手前だったぞ?」
 「そう言えば」

 尚更マズいだろう!と聖月は微妙な顔をする。しかし、だからこそだ、と竜崎は肩を竦める。

 「そもそも、このランキングはたかが人気ランキング、されど人気ランキングだぞ?」
 「ここでいう"人気"っていうのは、顔はまぁさておき、頭脳と家柄って事になる」

 颯斗の補足説明で聖月がようやく合点が言った顔をする。

 「なるほど。顔はいいけど頭が空っぽなんてハリボテはお呼びじゃないって事?」
 「それを生徒がきちんと理解して、独自に調査し、コレと人物を見定める事が出来て当然。それが学園、しいては国の方針って事だな」
 「しかも、ここは数年前にそれを失敗したという歴史がある。その時代を知っている人間が三年で、その話は下に言い聞かせられているうえ、内部生なら噂を聞いたことがあるだろう」
 「つまり、その時代を繰り返したくないから真剣にやるだろうって?」
 「なにせ、この学園を卒業できるかどうかは、自分の将来に直結するからね。何事も起きない学園生活を運営してもらわないと死活問題だよ」

 書類の影から怜毅までもが口を出してくる。三人がかりの説明で納得した聖月。相変わらずよく出来てるなと感心する方向にシフトしたようだ。三人のげんなりした顔に気付かず。

 「……どうしたの?」
 「そうは言っても、親衛隊なんてものが出来る所だからな、ここは」
 「自信をもって、この人ならって言える人が多いって事。つまり、その親衛対象を押し上げようと親衛隊が色々画策するのがこの時期」
 「生徒会にとっては学園祭が地獄の季節だが、風紀にとってはランキング投票が地獄の季節になる」
 「おぅふ」

 校則に引っかからない、もしくはそれをかいくぐって熾烈な競争が行われる時期。治安維持を担う風紀があれるのは必然。マズい時期に加入した、と聖月は顔を引きつらせ肩を落とした。

 彼らの予想通りクリスマスまでの期間、書類整理組四人は立派なクマとカフェインの二つと大層仲良くなったとか。


 「学生の本分って学業じゃなかったっけ?」
 「この学園に関してはそれだけだったら無能のレッテル張られるって事だろうよ。優秀な人間を育成するっていう場所だからな」

 仕事に追われている内にあっという間に時は過ぎ。とうとう投票日となった。もうこんな時期か、と頭の片隅で思うと同時にもう何でもいいから終わってくれと別な片隅で悲鳴が上がるというなんとも言えない貴重な体験をした聖月たち。最も、この騒動を体験している竜崎と怜毅は多少の余力を残しているようだが。

 設置された投票箱に全校生徒が順番に投票をしていく。不正防止と暴動抑止の為に警備として参加している聖月は傍らの竜崎と共にその様を眺めていた。これからかい表され発表されるまでの警備が彼らの仕事だ。まだまだ仕事がある事を思い浮かべげんなりする。

 しかし、風紀の鬼気迫った警備が功を奏したのかは分からないが、特に問題も起きずスムーズに事は進んでいった。開票と集計が終わった事を確認した竜崎は、選挙管理委員会のメンバーにそれぞれ護衛を付ける指示を出すと聖月を伴ってホールに向かった。

 「委員長が発表するんだっけ?負けを悟った諦めの悪い馬鹿が結果を奪おうと襲ってきたりとか」
 「以前はあったという資料を見たな。まぁ、とりあえず怜毅を付けておいたから問題はないだろう」
 「うん。怜毅が暴走しない限りは最強のセコムだね」

 完全に安心できない所がみそ、と聖月は遠い目で呟く。怜毅の暴走を知っているからこそ竜崎も苦笑するが、人手が足りんと割り切っているようだ。ホールに到着して中に入ると、普段はガランとした巨大な空間の中心に立派なクリスマスツリーが鎮座していた。

 「わぉ。豪華だこと」
 「無駄な事に金を使うのが趣味みたいなもんだからな 」

 なんとも失礼な事をあっさり言う男である。上座に向かうと、生徒会が準備を進めていた。歩み寄る二人に気付いた嵯峨野が手を止めて二人を出迎える。

 「そちらの準備は終わったようですね」
 「ああ。選挙管理の委員長がこっちに向かっている。開票終了を放送に伝えたから」
 『みなさーん!お待ちかねのランキング発表のお時間が近づいておりまぁす!開票が終わったらしいのでホールに集合してくださぁい!』

 丁度、竜崎の声を遮ったのは、これまたテンションの高い放送委員長。校内放送で開票終了の連絡を入れ誘導を始めている。テンションが高いわりにキチンと仕事をしているあたり、委員長を任せられている理由が分かる。

 「という事だ」
 「了解です」

 即座に嵯峨野が生徒会のメンツに指示を飛ばし始める。生徒会予備軍お手伝いをもろにこき使って最終準備を整えていく。竜崎も会場警備に回した人員に指示を飛ばす。放送からさほど絶たずに待ちかねた様子の生徒たちが勢いよくなだれ込んでくるからだ。予想通り一気に人口密度が上がり喧騒に満ちる。熱気に当てられて馬鹿をやらかす者が出そうだが、そこは風紀が目を光らせ一定の秩序を保っている。

 まもなく、全校生徒が集まった事を確認し、嵯峨野がマイクを持って壇上に上がる。普段ならば司会進行は放送委員が担当するが、このランキングは生徒会に直結する為生徒会が仕切り、選挙管理委員会が結果を発表するという手順を取っている。

 「それでは、全員そろったようなので始めたいと思います」

 凛とした嵯峨野の声が会場に響き渡り、ざわめいていた会場が一気に静寂に満ちる。聖月は緊張した面持ちで壇上に上がっていく選挙管理委員長をぼんやりと見つめていた。
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