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駆引

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 二日目。夜遅くまでバーベキューで騒ぎ通した皆は、移動の疲れもあってぐっすりと寝られたらしい。本日は晴天なり、という事で今日は早くから海に直行している。

 「砂が熱い!」
 「だからビーチサンダル履いとけって言ったろうに」
 「あの、あの、あの、会長様、よ、宜しければ、こちらをお使いください」

 年下組がはしゃいでいる。履いて行くと流されるから嫌だ、と裸足で飛び出した聖月は既に後悔しているようだ。しかし、戻るのも癪だと飛び跳ねながら海に向かっている。その後に続くのは蓮。砂浜対策も紫外線対策もばっちりな慎重派だ。那波はというと、自分が楽しむより高宮の世話をする方が良いらしい。あわあわと日焼け止めを出したり飲み物を用意している。

 普段ならば、期待させるわけにもいかないと冷淡に断る高宮だが、顔を真っ赤にして必死に世話をしようとする那波の可愛らしさに相好を崩している。嵯峨野も嵯峨野で、クスクス笑いながら那波に高宮の世話を手伝わせている。いいかえれば高宮の世話を押し付けているともとれるが。

 「桜庭君ならば大丈夫でしょう。後は頼みますね」
 「副会長ー!先言っちゃうよぉ」
 「おい、会計!水泳対決だ!今度こそケリつけてやる!」
 「え、疲れるからヤダ」

 それとなく高宮の傍から離れる嵯峨野。久々に羽が伸ばせる事に、こっそり楽しんでいるようだ。そんな嵯峨野に声を掛けるのは書記と会計。何事も全力がモットーの書記が会計に突っかかる。しかし、何事ものんびり気楽にがモットーの会計に合う訳がない。あっさりと断られて愕然とする書記を放置して下級生を追いかけていく会計。平常運転である。

 結局、体力があり余っている書記に捕まったのは蓮。小柄な割に、運動神経に優れ、体力もそこそこある事に気付いた書記が攫って行った。その際何事かを喚いていたが、それは無視。聖月は残念ながら、体力がほぼほぼ無いのである。

 人身御供、上等。聖月の基本スタンスである。

 「というか、皆体力ありすぎでしょ……」
 「本当に体力ありませんね、君」

 遊び始めてそこそこ。真っ先に音を上げたのは勿論聖月。くったりとビーチに引いたシートに横たわっていた。近くにいた嵯峨野が介抱を買って出た為、せっせと飲み物を準備したりと甲斐甲斐しい。

 「結局、面倒見いいですよね、副会長」
 「なんか、それを言われると残念になってきますね」

 高宮から離れたのに、結局人の世話?と笑いかけると、気付いていなかったとばかりに愕然としている。ここまで従者としての行動が染み付いているなんて、と世界の終りの様な顔をしている。地味にショックだったようだ。初めて見る顔に、聖月はクスクス笑った。

 「それにしても、白い肌ですね」
 「うふふ。ありがとーございます。でも、ここはえっちって言った方が良いのかな?」

 チラリと自らの足に向けられた視線に、聖月は微妙な顔をする。長めの海パンに、長そでのパーカーを着ている為、かなり肌の露出は避けられているが、それでもひざ下は晒されている。人よりも白い肌、光の加減によっては病的な白に、嵯峨野が目を細めた。

 「アルビノ。体の色素が存在しない為、体も髪も白くなり、瞳は碧眼や紅眼になる先天的な遺伝子疾患。そういう人って大変ですよね。普段隠しているとしても、この様な海とかに来れば白い肌が露出し、ウィッグを被っていても外れやすそうです」
 「確かに。でも、そもそも日光がダメだからこんな所に来ないでしょ」
 「ですね。まぁ、知り合いはどうやら日光に関しては問題ない特殊個体らしいですけど」
 「特殊個体って。実験動物か何かですか」

 ほけほけと笑って腹の探り合い。

 肌白いし、アルビノじゃないの?そこ詮索する?その髪、ウィッグでしょ。いやいや、人違い。特殊体質が何人もいて堪るか。といったところか。

 もう一歩踏み込んでみるか、と嵯峨野が思った瞬間だった。

 「危ない!」

 飛んできた声に、二人がぱっと頭を下げる。すると、先程まで嵯峨野の頭があった所にボールが飛んできた。振り返ると、愛想笑いを浮かべた会計。ボール遊びをしていて嵯峨野の方に飛ばしてしまったらしい。ぷつん、と隣で何かの糸が切れる音が聞こえた気がした聖月。 

 「清水君。色々と話をしたいのはやまやまですが、今は誤魔化されて差し上げます」
 「……うん。まあ、会計様を絞るのが先かな?」

 え、高宮といい、嵯峨野といい、良い所で邪魔が入るなんて何か悪い物に取りつかれているんじゃない?と本気で心配になる聖月。その彼の視線の先では、ユラリユラリと会計に近づく嵯峨野と、その圧力に冷や汗をかきつつも動けない会計が。

 高く青い空に、会計の甲高い悲鳴が響いたとさ。


 「それで、どうだった」
 「だめですね。タイミングが悪いことや、のらりくらりと躱されてばかりで決定的な言質が取れません」
 「俺も桜庭や風見に探りを入れているが、余り収穫がないな。全く情報を与えていない」

 散々海ではしゃいだ後。使用人お手製の豪華な夕食を頂き、各部屋でゆったりと寛いでいた。日が長いといいつつも、良い時間だ。外はすっかり夜闇に包まれている。もう少ししたら、花火をする約束だ。そんな時間を使って、高宮と嵯峨野は話をしていた。話題は勿論、聖月の事。思った以上に収穫がない、と渋面だった。

 「悪運が強いというべきか、これもアイツの手のひらの上か」
 「両方ですね。昔からです。時に、彼らから何か続報ありましたか?」

 苦虫をたっぷり噛みしめている高宮に、困った顔の嵯峨野。失敗と言う言葉に疎遠な高宮にはここまで手こずる事自体が屈辱だろう、と嵯峨野が話を少し逸らす。

 「私もスマホを手放さないようにしていたのですが、特に連絡はなかったかと。あったのは高宮家に感ずる者からの連絡で」
 「俺もだ。流石に数日で何も出なかったか」

 そう言いつつ、高宮がスマホをカバンから取り出す。持ち歩けといっただろうが、と嵯峨野に無言で責められるが何時もの事として無視。何となくスマホを弄った高宮が目を見開く。

 「おい、連絡きてるじゃねぇか」
 「……スマホを持ち歩かないから」
 「ソレに関しては何も言わないが、お前の方にも連絡を入れたといってるぞ?」
 「はい?」

 メッセージの履歴を遡る際に見つけたメッセージを嵯峨野に伝えると、驚いた顔をする。二人して顔を見合わせた後、ぱっとメッセージアプリの設定を確認する。

 「やられましたね」
 「いつの間に通知切ってやがった」

 Nukusに関する者たち以外からの連絡が来ていたので発見が遅れた。これも計画の内か、と高宮が毒づく。嵯峨野も顔が真っ青になっている。してやられた、というだけでは収まらないと反省しているようだ。しかし、それは一旦脇に置いて竜崎達からのメッセージを確認する。

 「教師からの指摘で発覚。漢字表記の間違い……?」
 「という事は、やはり"しみずみづき"というのは」
 「はいはい、大正解。スマホの仕掛けに気付く事と言い、龍たちの行動の速さと言い、ホンット優秀」

 パチパチ、と場違いな拍手が聞こえて二人は振り返る。そこには、いつの間にか窓から侵入した聖月が立っていた。長い白髪と黒いキャップに黒い服。俗に皇帝と呼ばれる姿で。

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