58 / 64
Episode〈9〉唯心 ⑷
しおりを挟む
「……カタ、ナ」
ふすまを引くと、そこには恋い焦がれた白銀の髪が揺れていた。
「星、子」
こちらを振り向いたカタナの口から掠れた声が聞こえる前に、私は彼の身体を抱きしめていた。
「カタナ、カタナ……!」
めいっぱい腕の中に抱いた彼の身体は、以前より小さくなっていたように思えた。手のひらに骨の感触があたる。
「ちゃんと食べてた?眠ってた?無理をしたりしなかった?」
顔を上げて彼の顔を確認すると、その頬はわずかに痩け目の下にはくまが浮かんでいる。きっとろくな生活を送っていなかったのであろう、その容貌に胸が痛んだ。
カタナはしばらくぼうっと私を見つめて、それからはっとしたように強く私の身体を抱きしめた。
「星子だ、星子がいる。ここに、星子がいる」
何度も確かめるように身体を抱きしめる彼に、私も同じく彼を何度も抱きしめる。
「いるよ。ずっと、いるよ。ここに、あなたのそばに」
何度も互いを抱きしめ合ったあと、私たちは、どちらからともなく唇を重ねた。
ちゅ、ちゅとついばむようなキスから、段々濃密に、じっくりと味わうように、深く深く、互いの温度を確かめた。
するり、とカタナの無骨な手が服の下から忍び込む。久々に感じる愛しい人の指先に、腹の奥がじわりと熱を帯びた。
「ん、ぁ」
ブラホックを外した彼の手が、ゆっくりと乳房を包んで愛撫する。たまらず腰をよじると、以前より少し骨張った腕に押さえ込まれた。Tシャツごとブラジャーを、ボトムスごとショーツを剥ぎ取られ、畳の上に押し倒される。
カタナは私の全身に指を滑らせながら、時折身体を起こしてなめ回すように私を見た。
「……ね、カタナ、恥ずかしい」
「『今更』じゃなかったの?」
福島の旅館で私が言った言葉を口にして、カタナは意地悪く笑う。
「だって、久々なんだもん……」
明るい部屋で、愛しい人の前で、久々に素肌をさらした私は、その口からでる言葉まで心を丸裸にしたように素直だった。
恥ずかしさに軽くそらした私の顔をのぞき込みながら、カタナは切なそうにほほ笑んだ。
「本当に、本当に。長かった。星子に会えない毎日が、苦痛で苦痛で仕方なかった」
そう言ってカタナは私の唇を食みながら、片手をそっと濡れそぼった秘部に添えた。陰唇の上からねっとりと弄られて、口から嬌声がこぼれ出でる。
長い指はゆっくりと秘部に割り入って、内壁を優しく刺激し始めた。一本、二本と増やされる指を、私の膣口がきゅうきゅうと締めつける。
「ふふ、前よりキツくなってる」
愉しそうに耳元でささやく声に、顔をすり寄せる。するとカタナは、少し低い声で呟いた。
「“フウマ”と星子がここで暮らしていたことすら腹立たしいのに、セックスまでさせられていたらどうしようかと思った」
「……そんなこと、できるわけない」
腹からじんわりと広がっていく、甘い痺れに身体を震わせながら、私は言葉を続けた。
「カタナ以外のベッドに入ることも、カタナ以外の腕で泣くことも、カタナ以外のために泣くことも、カタナ以外を見ることも。もう、私にはできないよ」
頬が少し離れて、鼻先が触れる距離でカタナと視線が交わった。真っ黒な瞳を見つめたまま、私は素直な思いを口にした。
「カタナのことが、大好きだから」
唇が触れる。何度も何度も、愛しさを抑えきれないといったように、丁寧に、柔らかくキスが交わされた。
「……ね、星子」
ほんの少しだけ離されたカタナの唇が、私にそっとささやく。
「オレの名前はね、“名月”。本当は、“カタナ”じゃなくて“名月”って言うんだ」
一度、音をたててキスをしたあと、彼は真っ直ぐに私を見つめた。
「オレを、本当の名前を呼んでくれないか。星子」
その声は、少し震えていた。黒い瞳が、かすかに揺らいでいる。どこか不安げなその顔に、今度は私からキスをした。
「……名月」
唇を離して再び彼を見つめながら、私はいつか見た不思議な夢を思い出していた。
───ああ、扉がやっと開かれたんだ。
「あなたのことが、大好きよ。名月」
瞬間、激しく唇を貪られた。私の全身をかき抱くように、名月の身体が絡みつく。
「星子。愛してる、星子」
唇を離すわずかな隙間に肌を撫ぜる、荒々しい吐息。それに混じって、私の名を呼ぶ愛しい声がする。
「愛してる、名月」
彼の身体にしがみつきながら、私も必死に愛の言葉を紡ぐ。
そうして日が落ちるまで、古いアパートの一室で、私たちは互いの身体と心を何度も確かめ合っていた。
ふすまを引くと、そこには恋い焦がれた白銀の髪が揺れていた。
「星、子」
こちらを振り向いたカタナの口から掠れた声が聞こえる前に、私は彼の身体を抱きしめていた。
「カタナ、カタナ……!」
めいっぱい腕の中に抱いた彼の身体は、以前より小さくなっていたように思えた。手のひらに骨の感触があたる。
「ちゃんと食べてた?眠ってた?無理をしたりしなかった?」
顔を上げて彼の顔を確認すると、その頬はわずかに痩け目の下にはくまが浮かんでいる。きっとろくな生活を送っていなかったのであろう、その容貌に胸が痛んだ。
カタナはしばらくぼうっと私を見つめて、それからはっとしたように強く私の身体を抱きしめた。
「星子だ、星子がいる。ここに、星子がいる」
何度も確かめるように身体を抱きしめる彼に、私も同じく彼を何度も抱きしめる。
「いるよ。ずっと、いるよ。ここに、あなたのそばに」
何度も互いを抱きしめ合ったあと、私たちは、どちらからともなく唇を重ねた。
ちゅ、ちゅとついばむようなキスから、段々濃密に、じっくりと味わうように、深く深く、互いの温度を確かめた。
するり、とカタナの無骨な手が服の下から忍び込む。久々に感じる愛しい人の指先に、腹の奥がじわりと熱を帯びた。
「ん、ぁ」
ブラホックを外した彼の手が、ゆっくりと乳房を包んで愛撫する。たまらず腰をよじると、以前より少し骨張った腕に押さえ込まれた。Tシャツごとブラジャーを、ボトムスごとショーツを剥ぎ取られ、畳の上に押し倒される。
カタナは私の全身に指を滑らせながら、時折身体を起こしてなめ回すように私を見た。
「……ね、カタナ、恥ずかしい」
「『今更』じゃなかったの?」
福島の旅館で私が言った言葉を口にして、カタナは意地悪く笑う。
「だって、久々なんだもん……」
明るい部屋で、愛しい人の前で、久々に素肌をさらした私は、その口からでる言葉まで心を丸裸にしたように素直だった。
恥ずかしさに軽くそらした私の顔をのぞき込みながら、カタナは切なそうにほほ笑んだ。
「本当に、本当に。長かった。星子に会えない毎日が、苦痛で苦痛で仕方なかった」
そう言ってカタナは私の唇を食みながら、片手をそっと濡れそぼった秘部に添えた。陰唇の上からねっとりと弄られて、口から嬌声がこぼれ出でる。
長い指はゆっくりと秘部に割り入って、内壁を優しく刺激し始めた。一本、二本と増やされる指を、私の膣口がきゅうきゅうと締めつける。
「ふふ、前よりキツくなってる」
愉しそうに耳元でささやく声に、顔をすり寄せる。するとカタナは、少し低い声で呟いた。
「“フウマ”と星子がここで暮らしていたことすら腹立たしいのに、セックスまでさせられていたらどうしようかと思った」
「……そんなこと、できるわけない」
腹からじんわりと広がっていく、甘い痺れに身体を震わせながら、私は言葉を続けた。
「カタナ以外のベッドに入ることも、カタナ以外の腕で泣くことも、カタナ以外のために泣くことも、カタナ以外を見ることも。もう、私にはできないよ」
頬が少し離れて、鼻先が触れる距離でカタナと視線が交わった。真っ黒な瞳を見つめたまま、私は素直な思いを口にした。
「カタナのことが、大好きだから」
唇が触れる。何度も何度も、愛しさを抑えきれないといったように、丁寧に、柔らかくキスが交わされた。
「……ね、星子」
ほんの少しだけ離されたカタナの唇が、私にそっとささやく。
「オレの名前はね、“名月”。本当は、“カタナ”じゃなくて“名月”って言うんだ」
一度、音をたててキスをしたあと、彼は真っ直ぐに私を見つめた。
「オレを、本当の名前を呼んでくれないか。星子」
その声は、少し震えていた。黒い瞳が、かすかに揺らいでいる。どこか不安げなその顔に、今度は私からキスをした。
「……名月」
唇を離して再び彼を見つめながら、私はいつか見た不思議な夢を思い出していた。
───ああ、扉がやっと開かれたんだ。
「あなたのことが、大好きよ。名月」
瞬間、激しく唇を貪られた。私の全身をかき抱くように、名月の身体が絡みつく。
「星子。愛してる、星子」
唇を離すわずかな隙間に肌を撫ぜる、荒々しい吐息。それに混じって、私の名を呼ぶ愛しい声がする。
「愛してる、名月」
彼の身体にしがみつきながら、私も必死に愛の言葉を紡ぐ。
そうして日が落ちるまで、古いアパートの一室で、私たちは互いの身体と心を何度も確かめ合っていた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
クリスマスに咲くバラ
篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる