刃に縋りて弾丸を喰む

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Episode〈9〉唯心 ⑷

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 「……カタ、ナ」
 ふすまを引くと、そこには恋い焦がれた白銀の髪が揺れていた。
 「星、子」
 こちらを振り向いたカタナの口から掠れた声が聞こえる前に、私は彼の身体を抱きしめていた。
 「カタナ、カタナ……!」
 めいっぱい腕の中に抱いた彼の身体は、以前より小さくなっていたように思えた。手のひらに骨の感触があたる。
 「ちゃんと食べてた?眠ってた?無理をしたりしなかった?」
 顔を上げて彼の顔を確認すると、その頬はわずかに痩け目の下にはくまが浮かんでいる。きっとろくな生活を送っていなかったのであろう、その容貌に胸が痛んだ。
 カタナはしばらくぼうっと私を見つめて、それからはっとしたように強く私の身体を抱きしめた。
 「星子だ、星子がいる。ここに、星子がいる」
 何度も確かめるように身体を抱きしめる彼に、私も同じく彼を何度も抱きしめる。
 「いるよ。ずっと、いるよ。ここに、あなたのそばに」
 何度も互いを抱きしめ合ったあと、私たちは、どちらからともなく唇を重ねた。
 ちゅ、ちゅとついばむようなキスから、段々濃密に、じっくりと味わうように、深く深く、互いの温度を確かめた。
 するり、とカタナの無骨な手が服の下から忍び込む。久々に感じる愛しい人の指先に、腹の奥がじわりと熱を帯びた。
 「ん、ぁ」
 ブラホックを外した彼の手が、ゆっくりと乳房を包んで愛撫する。たまらず腰をよじると、以前より少し骨張った腕に押さえ込まれた。Tシャツごとブラジャーを、ボトムスごとショーツを剥ぎ取られ、畳の上に押し倒される。
 カタナは私の全身に指を滑らせながら、時折身体を起こしてなめ回すように私を見た。
 「……ね、カタナ、恥ずかしい」
 「『今更』じゃなかったの?」
 福島の旅館で私が言った言葉を口にして、カタナは意地悪く笑う。
 「だって、久々なんだもん……」
 明るい部屋で、愛しい人の前で、久々に素肌をさらした私は、その口からでる言葉まで心を丸裸にしたように素直だった。
 恥ずかしさに軽くそらした私の顔をのぞき込みながら、カタナは切なそうにほほ笑んだ。
 「本当に、本当に。長かった。星子に会えない毎日が、苦痛で苦痛で仕方なかった」
 そう言ってカタナは私の唇を食みながら、片手をそっと濡れそぼった秘部に添えた。陰唇の上からねっとりと弄られて、口から嬌声がこぼれ出でる。
 長い指はゆっくりと秘部に割り入って、内壁を優しく刺激し始めた。一本、二本と増やされる指を、私の膣口がきゅうきゅうと締めつける。
 「ふふ、前よりキツくなってる」
  愉しそうに耳元でささやく声に、顔をすり寄せる。するとカタナは、少し低い声で呟いた。
 「“フウマ”と星子がここで暮らしていたことすら腹立たしいのに、セックスまでさせられていたらどうしようかと思った」
 「……そんなこと、できるわけない」
 腹からじんわりと広がっていく、甘い痺れに身体を震わせながら、私は言葉を続けた。
 「カタナ以外のベッドに入ることも、カタナ以外の腕で泣くことも、カタナ以外のために泣くことも、カタナ以外を見ることも。もう、私にはできないよ」
 頬が少し離れて、鼻先が触れる距離でカタナと視線が交わった。真っ黒な瞳を見つめたまま、私は素直な思いを口にした。
 「カタナのことが、大好きだから」
 唇が触れる。何度も何度も、愛しさを抑えきれないといったように、丁寧に、柔らかくキスが交わされた。
 「……ね、星子」
 ほんの少しだけ離されたカタナの唇が、私にそっとささやく。
 「オレの名前はね、“名月”。本当は、“カタナ”じゃなくて“名月”って言うんだ」
 一度、音をたててキスをしたあと、彼は真っ直ぐに私を見つめた。
 「オレを、本当の名前を呼んでくれないか。星子」
 その声は、少し震えていた。黒い瞳が、かすかに揺らいでいる。どこか不安げなその顔に、今度は私からキスをした。
 「……名月」
 唇を離して再び彼を見つめながら、私はいつか見た不思議な夢を思い出していた。
 ───ああ、がやっと開かれたんだ。

「あなたのことが、大好きよ。名月」

 瞬間、激しく唇を貪られた。私の全身をかき抱くように、名月の身体が絡みつく。
 「星子。愛してる、星子」
 唇を離すわずかな隙間に肌を撫ぜる、荒々しい吐息。それに混じって、私の名を呼ぶ愛しい声がする。
 「愛してる、名月」
 彼の身体にしがみつきながら、私も必死に愛の言葉を紡ぐ。
 
 そうして日が落ちるまで、古いアパートの一室で、私たちは互いの身体と心を何度も確かめ合っていた。
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