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Episode〈7〉霹靂 ⑴
しおりを挟む私たちは、その日のうちに東京に戻った。
帰りの車の中で、カタナは一度も口を開かなかった。午前1時を回る頃、車は家へと到着した。
私を車から降ろして、そのままカタナは東京の夜へと消えた。
そうして、1週間が経った。彼は、一度も家に帰ってこなかった。
「……よし」
“2人分”の食事を作り終えて、自分の分を取り分ける。
余った野菜炒めはタッパーに移して冷蔵庫を開く。中は一面、同じようなタッパーで埋まっていた。
昼食を終えて、リビングのソファーにもたれかかる。なんとはなしに、テレビのリモコンへと手を伸ばした。
動画配信サービスを開いて、色とりどりのサムネイルを見送る。
これは、カタナと見たことがある。あれは、ない。それは、迷ってやめたやつ。表示されるサムネイルの一枚一枚に、彼との思い出が自然と重なってゆく。
───どこに、行ってしまったのだろう。
福島から帰ってきた晩、彼はちらりとも私を見なかった。映画を見ているときのように、ただ真っ直ぐ前を向いて押し黙っていた。しかし、その表情は険しく歪んでいた。
「……誰って、何の話だったんだろう」
温泉の前で、私の身体を縛り付けながら、彼が私に問うた言葉を反芻する。
『今の、誰?』
その質問の意図も、その声が怒気を孕んでいた理由も。何もかも、分からないまま。彼は私の前から姿を消した。
「……掃除、しよ」
ソファーから立ち上がって、掃除機を取りに物置へと向かう。
来た当初は掃除機も洗濯機もアイロンも何一つなく、必要な家事の一切を週に2、3度訪れるハウスキーパーとクリーニング業者に任せっきりだった。しかし最近、持て余した時間を家事で潰すことに楽しさを覚えた私が彼に頼み、諸々の家電を導入してもらったのだった。
一人暮らしをしていた頃は家事なんて面倒なだけだったのに、まさか自分から進んでそれに没頭する日が来るとは。リビングのフローリングに掃除機をかけながら、しみじみと感傷にひたる。
私の料理を、「美味しい」とカタナが喜んだから。私が洗濯してアイロンをかけたシャツに、「あんたと同じ匂いがする」とカタナが笑ったから。私が干した布団にくるまって、カタナが気持ちよさそうに眠ったから。
カタナの毎日に、ささやかでも安らぎを与えられているかもしれない。家で過ごす時間が長くなったのも、ここが居心地のいい場所であるからかもしれない。
家の仕事に手をつける度、彼の笑顔が頭によぎって精が出た。
───早く、帰ってこないかな。
目についた服にはすべてアイロンをかけた。ベッドシーツや掛け布団と枕のカバーも全部洗って、干した布団とともに整えた。毎日すべての部屋に掃除機をかけて、水回りもピカピカにした。靴箱に入っていた靴だって、全部磨いて並べ直した。毎食、2人分の料理を用意した。
いつ、どんなときにカタナが帰ってきても、彼を迎えられるように。
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