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Episode〈6〉漣波 ⑹
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「ふう……」
一通り、髪と体を洗って湯船につかると、自然と吐息が漏れた。
日が沈んだ空は、薄い青ような、紫色のような、不思議な色を浮かべている。宵口の風が頬に心地良い。
季節はもう、夏に変わろうとしていた。
「……」
ぼんやりと思い浮かべるのは、やはりカタナのことだ。
彼と出会った“あの日”から、今日まで。色んなことがあった。いや、“あった”で済ませられるようなものではない。
───私の人生そのものが、変わってしまった。
風馬を助けたい一心で引き金を引き、“美空”として彼と結婚し、そうしてこの先は、海外に“お払い箱”となるらしい。
カタナは、“今”という言葉をよく使う。
“今”は、“美空”として愛されているこの身体も、振る舞いも。そのうち、“過去”となる日が来るのだろう。
「……」
胸にわいた静かな寂しさを押し込めるように、湯船の中で膝を抱く。
風馬の無事を確認し、彼に直接会ったことで、どこか確信してしまったのだ。それまで無意識に目をそらし続けてきた、“自分”の気持ちを。
───カタナに惹かれていたのは、“美空”だけではないことを。
「……いつ、かなあ」
彼が、“美空”を、彼の妻を必要としなくなる日。その日が来たら、私はどうやって生きていくのだろう。本当に、風馬と共に海の外で暮らすのだろうか。
『好いた男と一緒になれるならどこでもいいだろう?』
いつかのカタナの言葉が胸を締めつける。
───“今”でもカタナの出会ったときのまま、風馬に恋をしていたままの私だったら、どんなによかったか。
「ちょっと、お姉さん」
湯船で膝を抱えたまま、俯いていた私の肩を誰かが揺すぶった。
「……え?」
どこか聞き覚えのある声に、ゆっくりと顔をあげる。
「のぼせてるんじゃないの?大丈夫……」
声の主と視線が交わって、お互いに言葉を失った。
「……ひ、かる……さん?」
一通り、髪と体を洗って湯船につかると、自然と吐息が漏れた。
日が沈んだ空は、薄い青ような、紫色のような、不思議な色を浮かべている。宵口の風が頬に心地良い。
季節はもう、夏に変わろうとしていた。
「……」
ぼんやりと思い浮かべるのは、やはりカタナのことだ。
彼と出会った“あの日”から、今日まで。色んなことがあった。いや、“あった”で済ませられるようなものではない。
───私の人生そのものが、変わってしまった。
風馬を助けたい一心で引き金を引き、“美空”として彼と結婚し、そうしてこの先は、海外に“お払い箱”となるらしい。
カタナは、“今”という言葉をよく使う。
“今”は、“美空”として愛されているこの身体も、振る舞いも。そのうち、“過去”となる日が来るのだろう。
「……」
胸にわいた静かな寂しさを押し込めるように、湯船の中で膝を抱く。
風馬の無事を確認し、彼に直接会ったことで、どこか確信してしまったのだ。それまで無意識に目をそらし続けてきた、“自分”の気持ちを。
───カタナに惹かれていたのは、“美空”だけではないことを。
「……いつ、かなあ」
彼が、“美空”を、彼の妻を必要としなくなる日。その日が来たら、私はどうやって生きていくのだろう。本当に、風馬と共に海の外で暮らすのだろうか。
『好いた男と一緒になれるならどこでもいいだろう?』
いつかのカタナの言葉が胸を締めつける。
───“今”でもカタナの出会ったときのまま、風馬に恋をしていたままの私だったら、どんなによかったか。
「ちょっと、お姉さん」
湯船で膝を抱えたまま、俯いていた私の肩を誰かが揺すぶった。
「……え?」
どこか聞き覚えのある声に、ゆっくりと顔をあげる。
「のぼせてるんじゃないの?大丈夫……」
声の主と視線が交わって、お互いに言葉を失った。
「……ひ、かる……さん?」
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