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Episode〈3〉蜜月 ⑹
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どさり、と大きな身体が私の隣に落ちた。
カタナは、風呂から上がって以来、申し訳程度に身につけていた私の浴衣を整えて、足元の掛け布団を引き上げた。
「今日はイッたあと、寝落ちなかったね」
からかい混じりにそう言いながら、私の寝支度を整え終えたカタナ。隣の布団に移ろうとする彼の、未だに乱れた浴衣の裾を、私はそっと握って引いた。
「一緒に、寝よ」
カタナが少しでも力を入れれば、簡単に振り払えただろうそれ。しかし彼はぴたりと動きを止めて、ゆっくりとこちらを振り向いた。
意を決して、私は言葉を続けた。
「だって、“新婚旅行”、でしょ」
───私は、18歳の女の子。“片桐美空”、なのだ。
こうして彼を引き留めて、一緒にいたい、と甘えた声を出すのはなんらおかしくない。そう自分に言い聞かせつつ、どくりどくりと激しく脈打つ心臓の音に聞こえないふりをする。
少しの間があった。
カタナが、私の掛け布団を持ち上げた。
「うん、いいよ。───美空」
太い腕が私の首と枕の間に滑り込んで、ゆるやかな温度に包まれる。
「いいこ、いいこ」
大きな手のひらがまた、私の頭を撫でる。一組の布団に重なったあたたかな体温が、私の鼓動を優しく鎮めていく。
───あ、波の音がする。
カタナのゆっくりとした呼吸と、少しだけ彼より早い自分の呼吸の狭間に、遠く海の気配を感じながら。私は眠りに落ちていった。
カタナは、風呂から上がって以来、申し訳程度に身につけていた私の浴衣を整えて、足元の掛け布団を引き上げた。
「今日はイッたあと、寝落ちなかったね」
からかい混じりにそう言いながら、私の寝支度を整え終えたカタナ。隣の布団に移ろうとする彼の、未だに乱れた浴衣の裾を、私はそっと握って引いた。
「一緒に、寝よ」
カタナが少しでも力を入れれば、簡単に振り払えただろうそれ。しかし彼はぴたりと動きを止めて、ゆっくりとこちらを振り向いた。
意を決して、私は言葉を続けた。
「だって、“新婚旅行”、でしょ」
───私は、18歳の女の子。“片桐美空”、なのだ。
こうして彼を引き留めて、一緒にいたい、と甘えた声を出すのはなんらおかしくない。そう自分に言い聞かせつつ、どくりどくりと激しく脈打つ心臓の音に聞こえないふりをする。
少しの間があった。
カタナが、私の掛け布団を持ち上げた。
「うん、いいよ。───美空」
太い腕が私の首と枕の間に滑り込んで、ゆるやかな温度に包まれる。
「いいこ、いいこ」
大きな手のひらがまた、私の頭を撫でる。一組の布団に重なったあたたかな体温が、私の鼓動を優しく鎮めていく。
───あ、波の音がする。
カタナのゆっくりとした呼吸と、少しだけ彼より早い自分の呼吸の狭間に、遠く海の気配を感じながら。私は眠りに落ちていった。
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