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第3章 狂いに至る過去
第8話
しおりを挟む教授は、静かに語り始めた――。
六地蔵リクオは昔、小説家を目指していた。自分には才能があると信じていた。
しかし公募に応募しても一次選考すら通らない。送っても送っても無言で原稿が突き返されてくるだけだった。それも無理はない。文学を気取っただけの中身のない自己満足のかたまりのような作品が通るはずもない。やがて彼は公募から遠ざかっていた。あきらめきれぬ想いを胸に宿したままね。
月日は流れ、彼はウェブ小説に出会った。それが、カコヨモだ。
よくわからないままに、小説を投稿してみた。
なんの反応もなかった。ウェブ小説も公募と同じか……と落胆した。
だが、ある日、トップページのベルマークに赤いインジケーターが灯っていた。
これは何だろう……確認してみると、イイネ的なものだとわかった。
公募では、ただただ突き返されてきただけの原稿を、誰かが読んでくれた。イイネをくれた。彼の胸の奥に、感じた事のない喜びがじんわりと広がった。
小説への想いが再燃した。
また赤いインジケーターが灯った。
驚くことに感想が書き込まれていた。ごく短い定型文のようなものだったが、それでもうれしかった。自分の小説の閲覧数がわかる事も知り、数字が1つでも増えるのを今か今かと待った。楽しかった。斬新だった。だから夢中になった。
次第にカコヨモのシステムにも慣れた。イイネでも、コメントでも、作品を評価する★でも、レビューでも、要は赤いインジケーターに集約される。
彼にとって赤いインジケーターは「歓喜の先触れ」の意味合いを持つに至った。
六地蔵リクオは加速度的に、カコヨモにのめりこんでいく。
なぜ、それほどまでに彼はのめりこんだのか。
答えは簡単だ。「依存」と「承認欲求」、そして彼の「過去」にある――。
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