ウェブ小説に狂った男

まるっこ

文字の大きさ
上 下
3 / 22
第一章 人気ウェブ作家

 第2話

しおりを挟む
 玄関と小さなキッチンに続いて8畳ほどの洋室という、ごく普通の洋室の1Kだ。
 といっても物は、ほとんどない。

 ノートPCが置かれている小さな文机に、パイプベッド、そしてハンガーラックには似たような絶望的に残念な服がかかっていた。さっき通り過ぎたキッチンにも、物はほとんどなかったはずだ。本棚にはチラっと目を走らせただけだが、何かあやしげな図鑑のようなマニアックな本ばかりが並んでいた。
 
 六地蔵は文机の前に座り、真木に座布団をすべらせるように差し出した。妖怪のようなものが描かれている。一体こんな座布団どこに売ってるんだろう……と真木が思っていると「座ってほしいのですね」と声をかけられ、慌てて礼を言って座った。

 しかし六地蔵は真木に見向きもせず、PCに目をやっている。
 その横顔は何かに似ていたが、何なのかは思いつかなかった。
 今日、この時間に真木があいさつにうかがう事はわかっているはずだが……。
 おそるおそる「執筆中でしたでしょうか……」と声をかけた。

「いや……ファンがくれたコメントに返答していたのですね。大量にありますもので……」
「お忙しい時に申し訳ありません。どうしてもこれから担当させていただくにあたり、直接ご挨拶させていただきたくて無理を申しました」

「まあ構わないのですね。私はいつもPCに向かってるので、それは気にしてほしくないのですね」
 
 真木は「ありがとうございます。やはりファンが待っているという想いに急かされるようなところがあるんでしょうか」と訊いた。

 「それは……やはり、ありますですね……」
 今日の段取りを電話で話した時から感じていたが、奇妙な話し方をする。たしか以前見たテレビ番組でも、鉄道オタクがこんな話し方をしていた。
 
 そして彼は、決して真木と目を合わそうとしない。
 真木を見ないままに言う。
「趣味で書いていただけなのですが、知らないうちにファンが爆発的に増えてしまいまして……。自分の好きに書く、自分の好きを詰め込む、これが秘訣なのですね」

「なるほど。多くの場合そういう書き方だと独りよがりになってしまうと思うのですが、六地蔵さんの技術や経験がそれを回避してるという事でしょうか」

 六地蔵の貧相な横顔に一瞬、ひきつれのようなものが走った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

日月神示を読み解く

あつしじゅん
ミステリー
 神からの預言書、日月神示を読み解く

処理中です...