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五話
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右側の電柱から暗い闇がザっと広がり、ブンブンという音をまき散らし響を襲う。
響が右手を上げると、赤とオレンジの炎が襲いかかる闇を焼いた。
それと同時に灰色コートは、響の左側へ回り込んでいる。
五メートルの距離を一瞬で0にした。
まるで映像のコマがとんだようだ。
灰色コートの前がはだけ、潜む闇が悪意の形を成して響に襲いかかった。
薄汚れたアパートの一室で、天をにらむ眼球さえ失った腐乱死体が頭をよぎる。
「蠅だ!」
俺の叫びが届いたのか、響に迫っていた蠅の群が散った。
時間としては一瞬のことであったが、響には十分であったようだ。
電柱の陰から襲い掛かる蠅を焼いた炎は、そのままの勢いで方向を変え、灰色コートを焼き払った。
最後の一片が炎に焼かれ、灰色と黒の邪悪な影を消す。
そのあとは平穏な夕焼けが路地を包み、人々の流れが普段の日常を取り戻した。
「言霊が強いな」
響がオレを見ながら意外そうな表情でつぶやく。
「どういう意味だ?」
「お前の言葉で、蠅が自分たちを蠅だと思い出したんだ」
俺が理解をあきらめてへらへらしていると、ため息をつきながら響は続ける。
「お前の言葉は強い意味を持つ。今まで願ったことや口に出したことが望みどおりにかなったことはないか?」
「いや、ぜんぜんないな」
「そうか……気にするな」
俺が「なにをだよ?」と繰り返し尋ねても、響はそれ以上説明をくれなかった。
なぜか、ひどく損をした気分だ。
夕焼けは急速に色を失い、暗いブルーが空を染めなおす。
秋のブルーは、夏よりも透明で、冬よりも濁った色だ。
「色が薄くなってないか?」
響の髪が赤からピンクに戻っていることに気がついた。
「ならば、食事時と言うことだな」
響の形のよい唇を、妙に艶めかしい舌が舐めまわすのに、俺の心よりも下半身が先に反応するのを止めることはできなかった。
家路につく子供たちバレないように、前かがみで歩く俺を響が笑った。
響が右手を上げると、赤とオレンジの炎が襲いかかる闇を焼いた。
それと同時に灰色コートは、響の左側へ回り込んでいる。
五メートルの距離を一瞬で0にした。
まるで映像のコマがとんだようだ。
灰色コートの前がはだけ、潜む闇が悪意の形を成して響に襲いかかった。
薄汚れたアパートの一室で、天をにらむ眼球さえ失った腐乱死体が頭をよぎる。
「蠅だ!」
俺の叫びが届いたのか、響に迫っていた蠅の群が散った。
時間としては一瞬のことであったが、響には十分であったようだ。
電柱の陰から襲い掛かる蠅を焼いた炎は、そのままの勢いで方向を変え、灰色コートを焼き払った。
最後の一片が炎に焼かれ、灰色と黒の邪悪な影を消す。
そのあとは平穏な夕焼けが路地を包み、人々の流れが普段の日常を取り戻した。
「言霊が強いな」
響がオレを見ながら意外そうな表情でつぶやく。
「どういう意味だ?」
「お前の言葉で、蠅が自分たちを蠅だと思い出したんだ」
俺が理解をあきらめてへらへらしていると、ため息をつきながら響は続ける。
「お前の言葉は強い意味を持つ。今まで願ったことや口に出したことが望みどおりにかなったことはないか?」
「いや、ぜんぜんないな」
「そうか……気にするな」
俺が「なにをだよ?」と繰り返し尋ねても、響はそれ以上説明をくれなかった。
なぜか、ひどく損をした気分だ。
夕焼けは急速に色を失い、暗いブルーが空を染めなおす。
秋のブルーは、夏よりも透明で、冬よりも濁った色だ。
「色が薄くなってないか?」
響の髪が赤からピンクに戻っていることに気がついた。
「ならば、食事時と言うことだな」
響の形のよい唇を、妙に艶めかしい舌が舐めまわすのに、俺の心よりも下半身が先に反応するのを止めることはできなかった。
家路につく子供たちバレないように、前かがみで歩く俺を響が笑った。
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