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四話
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吐き散らかした嘔吐物もそのままに、俺たちはその場を後にした。
「あれが俺たちの仕事ですか?」
雇い主の響に対して、丁寧な言葉を選んでしまう。
もらえる報酬を考えれば、犬と呼ばれても気にしない俺だ。
「普通にしゃべっていいと言ってるだろう」
それがこそばゆいのか、同じ台詞を響は何度も繰り返す。
「じゃあ、お言葉に甘えて……あんな風に俺たちがするのか?」
「バカ野郎。俺たちは正義の味方だぜ」
それでいいと言わんばかりに、笑顔を見せる。
相手が男だとわかっていても、思わずうれしくなってしまう表情だ。
「俺たちの仕事は、依頼主が、ああならないようにすることだ」
二十分ほどかけて行った依頼主のもとから、同じ時間をかけての帰り道。
だが、半分ほどの距離で奇妙な男に出くわした。
行きはよいよい、帰りは何とかってやつだ。
なんだったっけ?
男は何も言わずに、広くもない道の真ん中に立つ。
男と言っても、くすんだ色の灰色のコートが、肩幅の広い恰幅のいい男の形をしているからだ。
体格のいい、格闘技なんかやってる女である確率もある。
どちらにしても、俺よりかは強そうだ。
「浩、下がってろよ」
人通りの少ない道、夕方から少し夜に踏み出した時間。
灰色のコートの中は、前のボタンが開いているにもかかわらず何も見えない。
ただ、黒々とした質感は、あのアパートの一室を占めていた暗闇を思い出させる。
口の中に広がる苦い味をかみしめながら、俺は後ろに下がった。
完全に人通りが途絶えた。
いくら裏道とはいえ、見渡す限り人っ子一人いない。
それどころか猫や、電柱の上でさわぐカラスさえもだ。
「瘴気が強すぎる場所は、生物の本能が近寄らせないんだよ」
「へえ……」
響は、わかってないなこいつという目で俺を一瞬見たが、すぐに前方に視線を戻した。
灰色コートの左手が、響を指さすように向けられる。
距離は五メートルといったとこか。
だが、異変が起きたのは、響のすぐそばにある電柱の陰からだった。
「あれが俺たちの仕事ですか?」
雇い主の響に対して、丁寧な言葉を選んでしまう。
もらえる報酬を考えれば、犬と呼ばれても気にしない俺だ。
「普通にしゃべっていいと言ってるだろう」
それがこそばゆいのか、同じ台詞を響は何度も繰り返す。
「じゃあ、お言葉に甘えて……あんな風に俺たちがするのか?」
「バカ野郎。俺たちは正義の味方だぜ」
それでいいと言わんばかりに、笑顔を見せる。
相手が男だとわかっていても、思わずうれしくなってしまう表情だ。
「俺たちの仕事は、依頼主が、ああならないようにすることだ」
二十分ほどかけて行った依頼主のもとから、同じ時間をかけての帰り道。
だが、半分ほどの距離で奇妙な男に出くわした。
行きはよいよい、帰りは何とかってやつだ。
なんだったっけ?
男は何も言わずに、広くもない道の真ん中に立つ。
男と言っても、くすんだ色の灰色のコートが、肩幅の広い恰幅のいい男の形をしているからだ。
体格のいい、格闘技なんかやってる女である確率もある。
どちらにしても、俺よりかは強そうだ。
「浩、下がってろよ」
人通りの少ない道、夕方から少し夜に踏み出した時間。
灰色のコートの中は、前のボタンが開いているにもかかわらず何も見えない。
ただ、黒々とした質感は、あのアパートの一室を占めていた暗闇を思い出させる。
口の中に広がる苦い味をかみしめながら、俺は後ろに下がった。
完全に人通りが途絶えた。
いくら裏道とはいえ、見渡す限り人っ子一人いない。
それどころか猫や、電柱の上でさわぐカラスさえもだ。
「瘴気が強すぎる場所は、生物の本能が近寄らせないんだよ」
「へえ……」
響は、わかってないなこいつという目で俺を一瞬見たが、すぐに前方に視線を戻した。
灰色コートの左手が、響を指さすように向けられる。
距離は五メートルといったとこか。
だが、異変が起きたのは、響のすぐそばにある電柱の陰からだった。
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