呪いの方程式

はんはん

文字の大きさ
上 下
4 / 5

四話

しおりを挟む
 吐き散らかした嘔吐物もそのままに、俺たちはその場を後にした。

「あれが俺たちの仕事ですか?」

 雇い主の響に対して、丁寧な言葉を選んでしまう。
 もらえる報酬を考えれば、犬と呼ばれても気にしない俺だ。

「普通にしゃべっていいと言ってるだろう」

 それがこそばゆいのか、同じ台詞を響は何度も繰り返す。

「じゃあ、お言葉に甘えて……あんな風に俺たちがするのか?」

「バカ野郎。俺たちは正義の味方だぜ」

 それでいいと言わんばかりに、笑顔を見せる。
 相手が男だとわかっていても、思わずうれしくなってしまう表情だ。

「俺たちの仕事は、依頼主が、ああならないようにすることだ」

 二十分ほどかけて行った依頼主のもとから、同じ時間をかけての帰り道。
 だが、半分ほどの距離で奇妙な男に出くわした。
 行きはよいよい、帰りは何とかってやつだ。
 なんだったっけ?

 男は何も言わずに、広くもない道の真ん中に立つ。
 男と言っても、くすんだ色の灰色のコートが、肩幅の広い恰幅のいい男の形をしているからだ。
 体格のいい、格闘技なんかやってる女である確率もある。
 どちらにしても、俺よりかは強そうだ。

「浩、下がってろよ」

 人通りの少ない道、夕方から少し夜に踏み出した時間。
 灰色のコートの中は、前のボタンが開いているにもかかわらず何も見えない。
 ただ、黒々とした質感は、あのアパートの一室を占めていた暗闇を思い出させる。

 口の中に広がる苦い味をかみしめながら、俺は後ろに下がった。

 完全に人通りが途絶えた。
 いくら裏道とはいえ、見渡す限り人っ子一人いない。
 それどころか猫や、電柱の上でさわぐカラスさえもだ。

「瘴気が強すぎる場所は、生物の本能が近寄らせないんだよ」

「へえ……」

 響は、わかってないなこいつという目で俺を一瞬見たが、すぐに前方に視線を戻した。
 灰色コートの左手が、響を指さすように向けられる。
 距離は五メートルといったとこか。

 だが、異変が起きたのは、響のすぐそばにある電柱の陰からだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

モルモットの生活

麒麟
BL
ある施設でモルモットとして飼われている僕。 日々あらゆる実験が行われている僕の生活の話です。 痛い実験から気持ち良くなる実験、いろんな実験をしています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

上司と俺のSM関係

雫@更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

水泳部合宿

RIKUTO
BL
とある田舎の高校にかよう目立たない男子高校生は、快活な水泳部員に半ば強引に合宿に参加する。

処理中です...