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第2章

舞踏会は危険がつきもの

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陽は沈み、闇がたちこめている外とは対照的にお城は煌びやかなシャンデリアの輝きに満ちていた。
舞踏会とは正に美と愛の競い合いだ。


貴婦人達は彩りなドレスを着て将来の夫となる者を探している時、ロゼッタは重く動きにくいドレスを身にまとい鬼の形相になっていた。


ロゼッタがまとったドレスは紫色で裾にはフリルやレースがあり、腰には大きなリボンと後方にボリュームのある広がりでふんわりとした仕上がりで落ち着いた印象を与えた。
髪は背に少し柔らかく巻き可愛らしさを表現している。


(みんなこんなに重いのを着ながら優雅にダンスをするなんて一体何者なの。)


「ロゼッタ、顔が凄い事になってるぞ。」


横にいるライアンに指摘されスッと笑顔へと戻したがすぐにまたドレスの重さで鬼の形相に変わった。


「皆さん凄いですね。苦しむどころかすっごい優雅に過ごされていて。私もああなるにはどれほど努力が必要なのかと今から怖いぐらいです…。」


「まぁ、何度も舞踏会へ出て慣れてくるんだろうな。それとロゼッタ、今日は僕がずっとついてるからダンスに誘われる事はないだろうがあんまり一人でウロウロするんじゃないぞ。」


「やはり何事も慣れですかー…!私もっと頑張りますねっ!わかってます、ライリーお兄様からもライアンの側から離れずと言われました。」


ライリーと話し合った結果ロゼッタにライアンが側につき何かあれば対応する形へと最終決まった。


ライリーはといえば、建国祭を祝福を伝えるため遥々遠くから来られた来賓客達と談笑しているのが見えた。


(貴族世界でも政治関係って大切なんだろうなぁ、ライリーさん頑張って!)


今回はあくまで仮の社交界デビューな為、あまり目立たない壁際にライアンと共に周りを見やる。
するとヒソヒソと貴婦人方の話し声がロゼッタの耳に入り聞こえた。


「本日の舞踏会にはあの噂の“冷徹王子”バージル様も来ていらっしゃるのですね。」


「ええ。冷徹で非道で恐ろしい方との噂もありますが…わたくし今夜こそ一度ダンスをお誘いしてみようかしら。」


「あらっ!だったら私もですわ。だってどの貴婦人方も見惚れるほどの絶世の美男な方ですのよね。目に惹かれる赤髪がまた彼を際立てているとか。」


(“冷徹王子”バージルさんか。どんな方なんだろ?噂をされるほど怖い人?それとも噂だけの人なのかな?)


貴婦人達の中で噂の渦中となるバージルへ興味をひっそりと抱くロゼッタだったが運ばれてくる料理に釘付けとなった。


「ライアン!あの美味しそうな料理達は食べても大丈夫な物ですか?」


「大丈夫だが、あまりがっつくなよ。食い過ぎるとコルセットが苦しくなるぞ。」


ライアンの忠告をしかと胸に留めたロゼッタだったがきっと食欲制御出来ず苦しむだろうなとライアンは悟った。


「うっ…忘れていました。ライアンの分も取ってきますね!何がいいですか?」


「俺はなんでもいい。ロゼッタが食べたい物を取ってこい。」


「なんでも取ってきていいんですねっ!……?ライアン何かありました?」


ライアンを見やると執事が話しかけておりどうやらライリーに何か問題が起こった雰囲気であった。


「悪い。ロゼッタ僕は少し兄貴のところへ向かうが一人で大丈夫か?料理を食べていれば話しかけられる事も極力ないだろうから壁際にいろ。」


「それと僕が戻るまで絶対にその場を動くなよ。それじゃあ僕は兄貴の方へと行ってくる。あー、後!食い過ぎるんじゃないぞ。」


まるで悪い事をしたらダメよとお母さんのような言い方で去って行ったライアンの背をロゼッタは(お母さんだわ)と心で思ってしまうのだった。


ライアンが戻るまでロゼッタはアレよこれよと食べ尽くしていた。


「それにしてもどの料理も美味しいな~!あっ!あのクロワッサンも良さそうっ!」


ライアンに言われた通りあまり料理に夢中なロゼッタへ話しかけてくる者はいなく、いても挨拶程度で離れて行き何事もない雰囲気だった。


(ライアンさん中々戻ってこないな。ライリーさんに何かあったのかな?でも動いちゃダメって言われちゃったし…。)


軽く辺りを見たがライアンとライリーの姿は無く、このまま平穏に今日は過ごせたらいいなと思いクロワッサンを取ろうとした時だった。


「初めまして~。可憐で可愛いらしいお嬢さん。お名前を伺っても宜しいでしょうか?」


「…ッへい!?」


真後ろから声をかけられたロゼッタは肩をびくりと跳ね上がらせ、恐る恐る後ろを振り返った。


(びっくりした!後ろから急に話しかけられたから声大きくなっちゃった。誰なんだろ?さっきの人達みたいに挨拶だけなのかな?)


声をかけた彼は不思議な印象を持った者だった。
深緑色をした長い髪を背に編み垂らしており、琥珀色をした瞳は細長く、彼からはおっとりとした優しい雰囲気を感じさせた。


「あはは~。失敬、驚かせてしまいましたね。お嬢さんだけがこの舞踏会に興味もなく料理に対して熱心なお姿だったので面白くてお声をかけてみたのです。」


「ここの料理の美味しさは絶賛ですよっ!あ…!すみません!私ロゼッタ・グディエレスと申します。」


ロゼッタは相手に対し、片足を斜め後ろの内側に引き、背筋は伸ばしたまま両手でドレスの裾を軽く持ち上げ挨拶をした。


「ロゼッタ様。ふふ、お名前まで可愛らしい方ですね。ご挨拶が申し遅れてしまいましたが…僕は“ヘルト・ラヴァート”と申します。もし、ロゼッタ様さえ良ければ僕と一曲踊って頂けませんか?」


手をスッと差し出してきたヘルトだったがロゼッタの心は暴れ散らしていた。


(ヘ、“ヘルト・ラヴァート”さん!?まさかこんなに早く出会ってしまうなんて!どうしたら…!とにかく断らなきゃダメだよね!?)


ヘルトの急な登場に焦りが募り目が泳ぎまくり、挙げ句の果てには手や身体をロボットダンスのようなぎこちない動きになってしまう。


「お、お…お誘いありがとう、ございます。ですが申し訳ありません。そのえーと、気分がすぐれなくて…。」


「おや、それはいけませんね。でしたらバルコニーに出て夜風に当たりますか?」


「い、いえっ!!このままで大丈夫ですからっ!」


(違うのっ!そうじゃない!離れて欲しいだけなんですっ…!)


心臓は破裂しそうなほどにバクバクと鳴り止まず顔色がどんどん悪くなっていくロゼッタをヘルトは心配し、お水を渡してくれた。


「あ、ありがとうございます…。あの…私の事は本当に大丈夫ですからヘルト様はどうぞ舞踏会を楽しんできて下さいっ!」


「いえ。体調の優れないロゼッタ様をお一人になんて出来ませんよ。それに僕はロゼッタ様ともう少しお話をさせて頂けたらと思っています~♪」


「は、ははは~。ありがとうございます…。」


(ダメだっ!全っ然離れてくれない!よーし、こうなったらライアンさんが戻るまで頑張るしかないっ!)


ロゼッタは深く深呼吸し心に強く決意し、ライアンが戻ってくることに希望をかけ、ヘルトと他愛もない談笑をしようとしたがそんな穏やかな空気ではなかった。


まず貴婦人達の視線だ、ヘルトを独り占めするロゼッタに対する妬み、憎悪の塊を向けた。


「まぁ、なんですの。ヘルト様と仲睦まじくされてご立場をわかっていらっしゃるのかしら。」


「そうですわ。わたくしもヘルト様にご挨拶を申し上げたく思っていますのに。」


(うぅ、そんな事聞こえやすい声で言われても困るよー…じゃあ離れないヘルトさんを連れて行ってください~!)


半泣き状態のままちらりとヘルトを見やるが気付いていないのかそれとも気付いてて敢えて無視をしているのか、分からなかった。


「ロゼッタ様、ご気分はいかがですか?何か食べ物をお腹に入れれば良くなるかも知れません。こちらのマカロンなんてどうですか?」


ゆったりとした優しい声でヘルトはずらりと並んでいる可愛らしいマカロンを数個取り分けロゼッタへとくれた。


(マカロンっ!私が食べたくて狙っていた物だっ!ヘルトさんそこには感謝感激します~!)


「い、いいのですか!?わぁ~!ありがとうございますっ!」


心の中で感謝を込めてスッと合掌し、有難くヘルトから頂いたマカロンを口いっぱいに頬張った。


「ふふふ、ロゼッタ様はまるで子リスのようですね。口いっぱいに頬張るなんて淑女らしくない行動ですが、そこがまた可愛らしいですね。」


(子リス…ライアンさんも確かリスみたいだー、とか言ってような?って!!それにしてもライアンさん遅すぎない!?)


「お、お褒め頂きありがとうございます?あの~そろそろ他の貴婦人方達とのダンスなどは大丈夫なのでしょうか?私はライアン、えー…兄が待っておりますので。どうぞあちらの方々とダンスをしていらっしゃってきて下さい~!」


先程、妬みや嫉妬などの目線を睨みつけていた貴婦人達へ向かって手を差し出しヘルトへあちらの方達です!と伝えた。


けれどロゼッタの思惑は崩れ落る事となった。
ヘルトはにっこり笑いかけその場に残ると言い出した。


(こ、これ以上はさすがに限界かもっ!無理やり離れるしかないっ!)


ロゼッタは空笑いをしながら後ろに一歩、また一歩と下がって行き気付かぬうちにドンッと勢いよく誰かとぶつかってしまうのだった。

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